第57話 石垣ゴーレムと鶏
2019年10月1日。
ヒンガーホールを消滅させるため、ミシゲーとウッシーに座喜味城跡のセジを消費させるのを頼んでから2か月以上が経っているが、時々マジムンが出現していた。
この世界に長くいられるので、誰も言い出さなかったのだが、流石に遅すぎたせいかナビーが沈黙を破った。
「えー、いくら何でも遅くないか? ミシゲーとウッシー、サボってないか見に行かないといけないねー」
俺と琉美も気になってはいたので、みんなでミシゲーとウッシーがいる座喜味城跡に向かった。
石垣の門をくぐり城内に入ると、為朝と戦った広場に石垣ゴーレムが歩いていた。
「何で石垣ゴーレムがいるんだよ!? ナビー、マジムンの反応はしなかったのか?」
「何も感じないさー。どうなっているのかね?」
こちらに気が付いた石垣ゴーレムは、予備動作なしでたくさんの石をとばしてきた。
「ヒンプンシールド・ユーチ!」
咄嗟に俺がヒンプンシールドを3人と1匹の前に設置すると、ナビーは飛んできた石が消えていくのを見て俺と琉美に伝えた。
「こいつは前みたいに、石がてぃーちなーてぃーちなーマジムンじゃないみたいさー」
「じゃあ、本体を倒せばいいってことね! 私にやらせて!」
琉美は白虎にまたがると、龍のムチを構えて白虎を石垣ゴーレムに向かって走らせた。
「アースン・龍獅子突進!」
白虎に獅子突進をさせ、その勢いを利用して大きな銀の龍を正面に出現させて石垣ゴーレムの胴体にぶつけると、一瞬で消滅させた。
……すげえ。いつの間にそんな技を覚えたんだよ?
すると、石垣の上からミシゲーとウッシーが飛び降りてきた。
「ああ……こんなにあっさりとやられるとは思わなかったモー……」
「本当に強いシャモね。琉美様だけにも負けるなんて……この2か月頑張ったのに、無駄だったみたいシャモ……」
ナビーは素早く移動してウッシーの角を左手で掴み、右手はイシ・ゲンノーを構えて怒っている。
「えー! ぬーやが? いったーすぐらりんど!」
「待ってシャモ! ごめんシャモー!」
「悪気はなかったんだモー! 許してもー!」
何か理由がありそうだったので、いったんナビーを落ち着かせて、ミシゲーとウッシーの話を聞くことにした。
俺たちに座喜味城跡のセジの消費を頼まれたあと、数日は2人で交互にセジの放出を行っていたが、ただ放出するのがもったいなく感じてしまったので、修行をしながらすることにしたらしい。
どうせ修行するなら強くてかっこよくなりたいからと、ウッシーが今帰仁城跡の戦いで一目惚れした石垣ゴーレムを作り出し、操る修行を始めたようだ。
それから1か月、石垣ゴーレムを操れるようになった2人は実践で試したくなってしまい、座喜味城跡から出てマジムン退治をしていたので仕事が終わらなかったのだ。
「急に襲ったのは、ザコのマジムンでは物足りなくなって、俺たちと腕試しがしたかったってことか?」
「そうシャモ……」
「驚かせたかったんだモー……」
琉美がムチを出して不敵な笑みを浮かべた。
「2人にはお仕置きが必要みたいね。シバ、私がやっていいよね?」
急に攻撃してきたことはイラっとしたが、俺と琉美には好都合なのかもしれないと思ったので、琉美だけに聞こえる声で考えを述べた。
「今回はゆるしてあげよう。こいつらが強くなったってことは、俺たちがあっちの世界に行ったあとで、もしこの世界にマジムンが現れたとしても倒してくれるだろうからさ……」
琉美はムチを収めてミシゲーとウッシーに忠告する。
「今回はゆるすけど、次やったら許さないからね!」
後で、ミシゲーとウッシーには俺と琉美も異世界琉球に行くことを伝えて、マジムンが現れた時は退治してほしいとお願いしておくことにした。
もちろん、ナビーには内緒ということで。
ミシゲーとウッシーにヒンガーホールのことを再度お願いして、この場を後にしようとした時、城内のヒンガーホールからヒンガーセジの塊が出てくると、上空を飛んでいくのが見えた。
「みんな、あれを追いかけるんだシャモ! マジムンになる生き物に向かっているんだシャモ!」
俺たちは急いで白虎に乗り、ヒンガーセジが飛んでいく方向に走らせた。
10分ほど追いかけていると、ダムの敷地内で展望台がある広場にいた、まだトサカの小さな鶏にヒンガーセジが入っていった。
そして、だんだん大きくなった鶏は体高5mほどになった。
「ピヨピヨ、ピヨピヨ!」
ニワトゥイマジムンを見た琉美は、なぜかテンションが上がっている。
「かわいい! こんなに大きいのに、ピヨピヨって鳴いてるよ」
「女性のかわいいの基準がわからねーよ!」
見た目はほぼ鶏なのだが、ヒヨコのように鳴くのでとても違和感がある。
ナビーが何かに気が付いたようで、ニワトゥイマジムンの横腹に指をさした。
「なんかねーあれ? おーるーはにがたっくわっているさー」
「もしかして、祭りの時のカラフルヒヨコが大きくなったやつじゃないのか?」
これは予想なのだが、ヒヨコを持って帰った子供が親に怒られ、捨てて来いと言われた結果がこいつなのだろうと考えられる。
正直、ヒヨコなんかを景品にするなよと思う。
「まあ、今は関係ないか。早く倒して帰ろう」
「シバ、ゆだんさんけー! ちゅーばーかもしれないだろ」
そう言いながらも、ナビーがティーダボールを数発放ちすぐさま倒してしまった。
「それによ、シバは関係ないって言っていたけど、関係あるわけさー」
「なんのこと?」
「この世界で戦いながら、ヒンガーセジは何を基準でマジムンにする生き物を選んでいるのかを考えていたわけよ。それで、私なりに見つけた答えなんだけど、マジムン化した生き物のほとんどが、やなうむいしているんじゃないかって思ったわけさー」
「嫌な思い?」
「たとえば、このにわとぅいは勝手に色を塗られ、景品にされ、挙句の果てに捨てられた。それがやなうむいしていないわけがないでしょ? そのせいでマブイが穢れてヒンガーセジを引き付けてしまっているわけよ」
そんなことを考えたこともない。
ヒンガーセジが飛んでいった先で、たまたまいた生き物がマジムンになったとしか思っていなかった。
「今になってしか言えないけど、マジムンを憎まないであげて。憎むべきは、ヒンガーセジを垂れ流す為朝軍だからさ……」
俺たちが倒してきたマジムンの元になる生き物は、何かしらのストレスでマブイが穢されてマジムンになったというのなら、倒してあげてよかったと思うと同時に、ストレスの原因が人間なら申し訳なくもある。
各生き物が自然にストレスを抱えることもあるだろうが、この世界ではヒンガーセジはないので、そもそも外来マジムンは生まれない。
恨むべきはやはり、源為朝なのだ。
「そうだな。早く為朝軍を倒してくれるといいな」
ニワトゥイマジムンを倒したあと、浜比嘉島のアマミキヨとシネリキヨの墓に向かった。
ミシゲーとウッシーに催促してヒンガーホールが消滅するめどが立ったので、ナビーが佐司笠に帰る連絡をしに来たのだった。
アマミキヨとシネリキヨを呼び出して、ナビーはすぐに本題に入った。
「アマミン様、この前みたいに佐司笠様とお話しできないですかね?」
「ごめんね、今回は神の規定でつなげられないの。でも、私が言伝はしてあげられるよ」
「そうですか……では、こっちの仕事は終わったので、30日後に帰りますと伝えてください」
「フフ、30日後ね。ナビーちゃん、残りのこの世界楽しんでね!」
シネリキヨが笑いながら横から口を出してきた。
「みんな久しぶり! そういえば、為朝戦はよく無事で生き残れたね。ずっとヒヤヒヤしてみてたよ! でも、そのあとの敵は弱すぎて相手にならなかったでしょ? あれからマジムン退治を見ても面白くなくて、あまり君たちをのぞき見しなかったからすごく久しぶりに感じるなぁ」
「ちょっとシネリン! いらんこと言わない! まあ、そういうあーしも、最近はのぞかないようにしているんだけどね。マジムン退治は、もう見守る必要ないじゃない? それに、最後の思い出作りもあるだろうから、プライベートは見ないようにしていたの」
アマミキヨとシネリキヨの話を聞いて一瞬胸がドキッとしたが、安心に変わった。
俺と琉美は異世界琉球に行くという話を、アマミキヨとシネリキヨに聞かれる可能性を全く考えていなかった。神は異世界の干渉を許さないというスタンスなので、バレたら絶対に止められることを肝に銘じておかなければならない。
ナビーが笑顔でお礼をする。
「お気遣いありがとうございます。あっちの世界に戻って余裕ができたら、また訪れますね!」
「待っているよ。それから、シバと琉美はたまにはここに来てちょうだいね。お話ししましょう」
俺と琉美も頭を下げて3人でシネリキヨをにらみながらこの場を後にした。




