第53話 護佐丸の帰還
ナビーは、ティンサグモードを解いても、前回のように力を使い切っていなかったようで倒れずに済んだらしい。為朝たちが入っていったヒンガーホールを観察している。
「ヒンガーホールがぐなぁなってる。これじゃあ、護佐丸さんが帰れないさー」
「それは大丈夫。座喜味城はわんが築城したからか、わんはセジをあまり使わないで行き来できるみたいさー。それより、今の状態であっちに帰っても、敵軍の中心に出ることになるから、しぐやられてしまう……逃げ切れるだけの体力とセジを回復しないといけないのだが、ちゃーすがや」
修行をつけてもらいたい気持ちがあったので、残るように提案してみる。
「しばらくこの世界に残って、準備を整えてからでもいいのでは?」
「そうしたいのだが、今もわんの軍は戦っているから、戻って指揮をとらないといけないわけよ」
その時、琉美は跳ぶように立ち上がって、俺とナビーに思い出したように言った。
「あっ! 今、花香ねーねーここに向かっているんだけど、花香ねーねーのセジをユイマールで護佐丸さんにあげればいいんじゃない?」
花香ねーねーは確か、ナビーよりセジを多く持っていると言っていたはずなので、SPは問題ないだろう。
戦闘要員ではないのでHPは逆に減る可能性があるが、琉美かナビーが残りのセジで回復してあげれば完璧だ。
とりあえず、休みながら花香ねーねーを待つことになったので、護佐丸さんに戦闘のことを聞くことにした。
「護佐丸さん、俺の戦い方についてアドバイスください」
「基本的に戦い方は間違ってないと思うが、何で本物の刀を使わないね?」
「この世界では、簡単に刀を所持してはいけない決まりがあるんです」
ナビーが横から説明を続けてくれた。
「私のヒヤーもだめかもしれないからって、重要な戦いでしか使えなかったさー。この世界では人を殺すことが身近にないから、シバたちにはやらせたくなかったわけよ。本物の刀を使ったら相手を殺してしまうさーね」
「そうだったのか……では、わんからはてぃーちなー言っておこうかね。わんが見た限り、シバは太刀筋がわっさんどー。だから、なるべく本物の刀、ないなら木の棒でもいいから、重みのあるもので素振りしなさいね。それさえやれば、シバはわんよりちゅーばーになれるさー」
「わかりました。素振り頑張ります!」
その時、ナビーが恐る恐る護佐丸に尋ねる。
「護佐丸さん。私はどうしたほうがいいですかね?」
「この世界でのナビーの役目はまだ果たされていない。わんが元の世界に戻っても、座喜味城は為朝軍に占領されているから、この穴は消えないだろう。マジムンがこの世界に現れる可能性がある以上、ナビーは残って元々の仕事をつづけなさい」
「それは大丈夫ですよ。キジムナーがここのセジを消費してくれれば、今帰仁城みたいにヒンガーホールは消滅します」
「はーやー! じゅんになー?」
キジムナーが申し訳なさそうにナビーに告げる。
「ごめん、ナビー……オラは長く生きてきてこんなに戦ったことがなかったからよ、長めの休息が必要になりそうなんだ……もう力が使えねぇぞ」
「キジムナーが謝ることはないさー! キジムナーのおかげで私たちはここまでこれたからね」
俺もふがいなさそうにしているキジムナーに思いを伝える。
「そうだよ! 舜馬を倒したのはキジムナーじゃないか。それに、俺はキジムナーから戦い方を教えてもらってなかったら、この場に立つこともなかったと思う。みんな感謝しているから、気にしないでゆっくり休んでくれ!」
「みんなとどぅしになってよかったぞ……」
キジムナーは、みんなの顔を見てやさしい笑みを浮かべていたが、急に何かを思いついたようだ。
「そうだ! ここにミシゲーたちを連れてきて座喜味城のセジを放出させれば、時間はかかるけどヒンガーホールを消滅できるぞ!」
ナビーは手を打ってキジムナーの提案に賛同した。
「やさや! あれ達にセジの放出やらせといて、出てきたマジムンを私たちが倒せば問題なさそうだね。んーと、大体3か月くらいはかかるかねー?」
マジムン退治の再開が決まったところに、花香ねーねーが駆けつけてきた。
「みんな、無事だったようね。私の出番がなさそうで安心したわ……も、もしかして、あなたが護佐丸さんですか!?」
「わんが護佐丸やいびん。うんじゅが花香さんかね? 長い間、ナビーがお世話になってます」
「いいえ、いいえ! それよりも、あの護佐丸さんにあえて光栄です!」
花香ねーねーはいつもの冷静さを失い、目をギラつかせながら息が上がっている。
「花香ねーね、何でこんなに興奮しているんですか? 少し落ち着いてください」
「落ち着いていられるわけないでしょう! 護佐丸と言えば、築城の天才と言われ、世界遺産の座喜味城と中城城を築き上げるだけではなく、尚巴志王の右腕として数々の武功をあげた英雄なのよ!」
興奮が収まらないまま、自分がくぐってきた城の門を指さした。
「何気なく見ているこのアーチ状の石の組み方を見て! この技術は、座喜味城の門が日本で最初に使われたのよ! それに……」
護佐丸は苦笑いをしながら花香ねーねーを止める。
「花香さん。なんだかはじかさんので、この辺にしてくれませんかね」
「す、すみません……」
落ち着いた花香ねーねーに、ナビーが頼みごとをした。
「花香ねーねーのセジを護佐丸さんにあげたいけど、お願いしていいかねー?」
「もちろん差し上げます! あの護佐丸にセジを使ってもらえるなんて光栄ですよ!」
「ゆたさるぐとぅうにげーさびら!」
ゆっくりしている時間はないからと、護佐丸はすぐにユイマールをするために花香ねーねーの両手を掴んだ。
「ふぁ!」
急に手を掴まれた花香ねーねーは、変な声を出すと顔が真っ赤になっている。
護佐丸は目を閉じていたため、花香ねーねーの異変に気づかないままユイマールを続けて、セジを受け取っていた。
「でーじばんないのセジやっさー! これだけあればなんくるないさー! あれ? 花香さん、花香さん!」
花香ねーねーは足の力が抜けたのか、その場で尻餅をついて放心状態になっていた。
その状況を見た琉美が、信じがたいことを言い始めた。
「もしかして、花香ねーねーは男性に免疫がないのかも。だから、急に手を握られてびっくりしたのかもね」
「はあ? あの美魔女県議会議員の古謝花香が、男性に手を握られたくらいでまさか……」
ユイマールで減ってしまった護佐丸のHPを回復しているナビーに、琉美が尋ねる。
「ねえ、ナビー。ナビーがこの世界に来てからの2年半くらいで、花香ねーねーが男性と一緒にいるところ見たことある?」
「シバと剛、以外ってことだよね? 私の記憶にはないねー」
「やっぱり……花香ねーねーみたいな高嶺の花は、逆に男性が遠慮して近づいてこないんだよね。それに、自分から男にグイグイいくタイプじゃないでしょ? たぶん、そのせいで男に免疫ができなかったんだよ」
そんなまさかと思っていると、護佐丸が余計なことを言う。
「こんなばんないセジを使えるということは、花香さんはまだうとぅがいないのですね。そのおかげで助かったさー」
更に、ナビーも爆弾投下して花香ねーねーにとどめを刺した。
「ノロが性行為したら、力が使えなくなるらしいからね」
「や、やめてーーーーー! 言わないでーーーーーー!」
あの美人で性格もいい古謝花香38歳が、未経験のままということが信じがたい。しかし、手で顔を覆い、泣きながら恥ずかしがっているので、間違いなさそうだ。
「なんでよ? 別に恥ずかしい事じゃないけどね……そういえば、護佐丸さんに伝え忘れたことがあります」
ナビーは護佐丸に、舜天は頭のコブが弱点であることを伝えると、護佐丸は為朝と戦った感想をナビーに伝えた。
「わんが戦ってみた感覚だと、為朝はまだ鬼化を使いこなせていないみたいで、逆によーさん感じたさー。鬼化しないで戦っていたら、みんなやられていたかもしれない」
「為朝が鬼化を使いこなしたら、でーじなことになりますね」
「これからの戦は荒れる。ナビー、帰ってくるときはくくるぬ準備しなさいよ。それに、その……戦うときはさらしを巻きなさい。動きが悪かったさー」
そう言い残すと、護佐丸はヒンガーホールに入っていった。
ナビーは戦闘用の着物を着ていたが、花香ねーねーはさらしまでは用意していなかったようだ。




