第52話 ユイマール
門をくぐると、石垣の壁に囲まれた広場を思いっきり使って、激しい戦いが繰り広げられていた。
とは言っても、護佐丸の防戦一方は変わっていない。
何もできないので、勉強のためにしっかりと観戦していると、攻撃に押された護佐丸が俺の横に飛ばされてきた。
「先程は助かったさー。うんじゅは、あの化け物を見て逃げるどころか、追ってくるとは大したものだねー!」
「護佐丸さんの戦いを見て勉強して来いと、ナビーたちに背中を押されてきたんです。だから、絶対に逃げることなんてできませんよ」
「そうだったのか。やしが、わんはお手本になるような戦いができてないねー。それに、もう体力もセジもうっぴなーしかねーん」
護佐丸は納刀して居合の構えで為朝を見据えながら話している。
為朝は、護佐丸が醸し出す異様な雰囲気を警戒しているのか、距離をとって出方をうかがっていた。
「うんじゅ、名前はなんていうのか?」
「柴引子守です。シバって呼んでください」
「シバ、うんじゅはいじゃーみたいだから頼みたいことがある。わんとユイマールしてくれないか?」
「何でもしますけど、ユイマールってなんですか?」
「わんとシバの体力とセジを合わせた後に半分ずつ分ける技だ。回復役のノロが戦場にいない時にやる技なのだが、引き受けてくれないかね?」
回復の技は女性がしかできないので、男性しかいない前線の戦場でつくられた技なのだろう。
俺のHPとSPをあげることで戦況が変わるなら何も迷うことはなかった。
「わかりました。お願いします!」
護佐丸が俺の前に立ち、両手を握り合って腕で輪をつくる。
その時、石垣の壁の上から聞き覚えのある叫び声が聞こえた。
「キャーーー! なになになに。最高じゃないの! ゴサ×シバ……いや、シバ×ゴサも捨てがたいか……」
そのままの状態で声のする方を見ると、白虎に乗った琉美が興奮状態で俺たちを見下ろしていた。
何か、すごく嫌な勘違いをしているみたいだ。
しかし、俺は琉美がきたことは好都合だと思った。
このユイマールに琉美を混ぜれば、大量のセジを分けることができると頭に浮かんだので、護佐丸に提案してみる。
「このユイマールは複数人でも出来ますか? 琉美も加えたいのですが?」
「人数は関係ないが、お互いの状況を知らないと不利になったりもするさー」
琉美のステータスを確認してみる。
「今、琉美のステータスどうなっている?」
「HPは満タンだけど、SPがまだ半分しか回復してないよ。ハアハア……」
「十分だな。琉美もここにきて手をつないでくれ!」
琉美が堂々と言い切る。
「いやだ! 2人の関係を邪魔する女ポジションになりたくないの!」
「何の話をしているんだよ!」
その時、白虎が飛び降りてきて俺と護佐丸の前に琉美を無造作に降ろすと、為朝を警戒してくれている。
「ナイス白虎!」
すぐに琉美の手を取って、護佐丸と3人で輪をつくった。
「ユイマール!」
輪の中心が激しく発光した時、身体のセジが騒ぎだしてすぐに落ち着いた。
護佐丸は、予想を超えるセジが回復できたようで、驚きを隠せないでいる。
「なんだ、このセジの量は? わんの最大量を超えてるさー!」
その時、空から舜天が飛ばされてきて、為朝の近くの石垣に打ち付けられていた。
そのあと、ナビーとキジムナーも石垣を超えて城内に入ってくる。
「護佐丸さん、シバ! あれは為朝なのか? あんなバケモノ相手に、よく2人とも無事だったね」
「シバのおかげで何とか生き残れたさー。ここからが本番。シバの教えになる戦いをしないとだねー!」
興奮が落ち着いた琉美が、思い出したように白虎の背中に括り付けているものを取り出した。
「花香ねーねーから受けとったヒヤーを渡すの忘れてたよ! 一緒に舜馬の刀も持ってきたけど、良かったのかな?」
琉美がヒヤーと治金丸をナビーに渡すと、ナビーは治金丸の方を護佐丸に差し出した。
「これは舜馬順熙が使っていた治金丸です。護佐丸さんに渡しておきましょうね」
「戦利品か。やしが、シバは刀を持ってないようだが、必要ではないのか?」
俺は千代金丸のキーホルダーを握り、セジを籠めて刀を出した。
「俺はセジの刀で戦っているので大丈夫です」
「なぜ、そんな消費の大きい戦い方を……まあいい。では、先程もやったフィーヌハーを教えようか」
護佐丸は治金丸を腰に差し、左手で鞘を握った。
「ナビーに教えてもらっているということは、火系統の技はできるよね? その火系統の技を、納刀した状態で鞘の中に充満させる」
その時、ヒンガーセジで舜天の回復を終えた為朝が、激しく怒鳴ってきた。
「クソがーーーー! その刀で戦おうとは、どれだけ我を怒らせれば気が済むんだ!」
「シバはわんと一緒に。ナビーたちは引き続き舜天をうにげーな」
そう言った護佐丸は燃える刀を抜くと、襲いかかってきそうな為朝に自分から切りかかっていった。
「ティンサグヌハナ。チミサチニスミティ」
ナビーはヒヤーをホウセンカに変えて、花びらに手を突っ込んで爪先を真っ赤に染めると同時に、全身に赤いオーラを纏わせた。
この技は、キジムナーと戦った時にやっていたが、急激に強くはなるけどあまり時間はかけられないので、一気に決着をつける気なのだろう。
俺は護佐丸についていきながら、鞘の中にティーダボールを充満させるイメージをして、セジを籠めながら走った。
護佐丸が大声で叫びながら、激しく燃える刀を為朝にガンガン打ち込んでいる。
「出し惜しみさんけーよ! 全力でいくぞ!」
「セジオーラ、レベル8!」
全力の言葉に対応すべくセジオーラを全開にして、居合の構えで為朝のスキを待つ。
護佐丸はユイマールで回復したからか、先程までとは動きのキレが段違いによくなっていて、防戦一方ではなくなっていた。
打ち合いの最中、護佐丸は左手で鞘を握って鯉口を為朝の顔に向けると、為朝が手を顔の前にかざした。
……今だ!
「居合、フィーヌ一閃!」
抜刀された刀は火柱のように燃え滾っていて、為朝の横っ腹めがけて振りぬいた。
しかし、鎧を装着したボロボロの舜天が割って入ってきて、軌道を上にずらされた。
「うぐっ。為朝様、いったん距離をとって回復を……」
為朝は舜天を鷲づかみにすると、石垣の向こう側、城の最奥に引いていった。
キジムナーはヘトヘトに見えるが、ナビーと協力して舜天を追い詰めていたようだ。
「シバ、なまぬ技はじょーとーだったさー! 今度はカジヌハーでいこうね!」
「すみません、まだ、風の技を覚えてないんです」
「そうか……それなら、わんがシバの鞘にかじぬセジを籠めるから、シバが攻撃してくれ。その方が感覚をつかみやすいだろう」
奥へと続く門をくぐると、広場の真ん中にヒンガーホールがあって、その向こう側で舜天が回復をしていた。
ナビーとキジムナーは為朝と舜天を引き離すために遠距離で攻撃しているが、為朝のヒンガーセジで簡単にかき消されている。
2人とも、そろそろ限界が近いのかもしれない。
「ゆくらせたらだめだ。早速やるよ!」
俺が納刀して居合の構えをすると、護佐丸が鞘を握って風のセジを籠めてくれた。
「これで飛ぶ斬撃が使えるようになる。やってみなさい」
しかし、風だけでは物足りない気がしたとき、ナビーとのアースンでやる火災旋風を思い出した。
……あれは、風を使って火の勢いを増す技だったよな? なら、これに火も籠めれば強くなるんじゃ?
「アースン、火風斬!」
激しく燃える斬撃が、一直線に為朝たちに向かっていく。
為朝には大太刀で受け止められたが、舜天のほうは勢いで弾き飛ばすことができた。
「た、為朝様。これ以上はもう、私が持ちません。もう一つの目的だけ果たして帰りましょう」
「しょうがない。お前までやられてしまうのはまずいか……」
為朝は鬼化を解いて元の姿に戻ると、右手を天に掲げた。
「戻ってこい、我が子よ!」
小さく黒い光が北東の方角から飛んでくると、為朝のかざした手に収まった。
「舜馬順熙、こんなに粉々にされよって。まあいい、舜天、こっちにこい!」
舜天が為朝の元で片膝をつくと、為朝が持っていた黒い光を舜天の身体にのめりこませた。
「壊されて半分の力しか残ってないが、大きな力になるだろう。なじむのに時間がかかるのでいったん引く。護佐丸と言ったか? 今度は決戦の首里で会おう。せいぜいその時まで人生を楽しむことだ。はっはっはっは」
力が抜けた舜天を肩に担いだ為朝は、高笑いをしたままヒンガーホールに入っていった。
為朝たちが帰るのを見届けると緊張の糸が切れ、みんなその場で溶けるように座り込んでしまった。




