第51話 場違い
逃げていたナビーは、振り返り戻ってきた。
「護佐丸さん! 何でくまーに?」
「みーどぅさんやー、ナビー。たしきにきたんど! やしが、なまぬ攻撃んかい、むるセジちかてぃからよ。ナビー、セジヌカナミうにげー」
「わかやびたん」
ナビーが護佐丸に向かってセジの球を飛ばすと、体の中に入り込んでいった。
「ナビーはしんかとゆくいみそーれー。わんが為朝とおーいんすん」
為朝は飛ぶ斬撃を弾き飛ばすと、護佐丸に怒鳴り始めた。
「また邪魔者か! まあ良い、まとめて殺してくれる」
その時、舜天が追い付いてきて為朝に報告をする。
「為朝様! こやつは護佐丸という者で、琉球王国軍の主力の1人です。それに、我らが落とした座喜味城の当主でした」
「ほう。さしづめ、あやつも仇討ちにきたってところか」
「ですが、現在は座喜味城防衛で義本軍が抑えているはずなのですが……」
護佐丸は高笑いをしながら、為朝に刀を向けて言い放つ。
「ハハハハ……為朝、わんが義本たっぴらかして、座喜味城やなーてぃーちわったーぬむんになとん! あんくとぅ、わんやくまーにうんどー」
「はーやー! じゅんになー!?」
護佐丸の言葉に反応したのはナビーだけで、それ以外の人は全く聞き取れていなかった。
「おい、お前が何を言っているのか全く分からないのだが?」
護佐丸が何を言ったのかナビーに訳してもらうことにした。
「ナビー、今の訳してくれないか?」
「護佐丸さんが義本を倒して、座喜味城をもう一度奪い返した。だから、護佐丸さんはここに来られたんだと言っているさー」
「3将軍を倒してきたのか!? でも、助けに来てくれたのはいいけど、仲間同士で意思疎通できないのは不便だな」
「やんやー。私も訳すの大変さー……やさ! アマミン様に頼んでみようね」
ナビーは黄金勾玉を握って大声でアマミキヨに懇願した。
「アマミン様、見ておられますよね? 黄金勾玉に翻訳機能を付与してもらえないでしょうか?」
すると、俺とナビーが首にかけている黄金勾玉が淡い光を放った。
「付与してくれたみたいだね。私の記憶からの情報で訳されると思うから、会話はできるようになっているはずさー」
護佐丸はナビーに近づくと、敵には聞こえない声で本当のことを話した。
「実は、義本を倒したって言うのはゆくしさー」
その時、俺たちに向かって為朝の矢が飛んできたが、護佐丸が刀で弾いてくれた。
「我を相手によそ見とは、馬鹿にしているのか! それに、いくらお前が強かろうが、義本と戦った後でこんなに動けるわけがなかろうが」
「そうだな、わん1人ではそうだろうな。やしが、わったーはしんかと一緒に戦っている。いったーはここで油を売っている暇はないと思うけどねー。王国軍は座喜味城を落とした勢いで、すぐにでも今帰仁城に向かうのでな」
護佐丸は刀を鞘に納め、不敵な笑みを浮かべると逃げるように走って行った。
「逃がさぬ!」
為朝は怒り狂いながら護佐丸を追って飛んでいくが、舜天は残った俺たちを警戒している。
このタイミングでナビーが頭の中に語り掛けてきた。
「今、護佐丸さんと話したけど、護佐丸さんは私が為朝にやられるかもしれないから、戦の最中に抜け出して助けに来たと言っていたさー。そのまま座喜味城跡にあるヒンガーホールから、為朝たちと元の世界に帰る作戦みたいだね」
「でも、舜天はこっちを警戒しているみたいだな。俺たちも座喜味城跡に向かったほうが良いかもな」
「シバは先に行って。舜天は私たちで何とかするさー」
「はあ!? 相手は舜天だぞ! みんなを置いていけわけないだろ!」
「シバは刀を使って戦っているのに、私では教えられることがなかったさーね? やしが、護佐丸さんは刀の扱いが上手で、シバにはいい経験になると思うから見に行ったらいいさー」
キジムナーが頭の中ではなく、直接話しかけてきた。
「シバのセジと時間稼ぎのおかげで、オラはだいぶ回復した。だから、気にしないで行ってこい!」
白虎に乗った琉美も背中を押してくれる。
「私もいるし白虎もいるから大丈夫だよ! それに、為朝相手では護佐丸さんもどうなるかわからないだろうから、早く行ってあげて!」
このメンバーなら大丈夫だと確信したので、為朝と護佐丸を追うことにした。
「わかった。座喜味城で待っているから、気を付けて」
俺が走り出すと舜天が切りかかってきたが、キジムナーのガジュマルが舜天を妨害してくれたので構わず駆けて行った。
ナビーたちのことは心配ではあるが、為朝と護佐丸の戦いを見ておきたい気持ちが大きくなっている。
敵の大将の強さがどれくらいなのかを知れる貴重な機会でもあるので、目に焼き付けておきたい。
それに、異世界琉球に行く予定なので、ラスボスの強さを知っても決心が揺らがないかを確認したかった。
座喜味城跡前にある松林に着くと、護佐丸を追い越した為朝が城門の前に立ち、大太刀を構えて行く手を阻んでいた。
俺は少し離れて、隠れながら見守ることにする。
「なぜ逃げる! お前は我を倒しに来たのではないのか?」
「バカ言うな。わんではいゃーには勝てん。少し手合わせをしたかっただけさー」
「我と手合わせをして、生き残れると思うなよ!」
為朝が上段から刀を振り下ろすと、風圧と一緒にヒンガーセジが護佐丸に襲い掛かる。
「ヒンプン・トゥー」
10枚重ねたヒンプンを自分の前に設置しながら、後方に跳んで距離をとった護佐丸は、居合の構えをした。
「フィーヌハー」
襲い掛かるヒンガーセジの中から、為朝が射た矢が飛んできたのを居合で振り払うと、矢が燃えてなくなった。
抜刀された刀身がメラメラと炎を纏わせている。
一息つく暇もなく、為朝が切りかかってきたのを燃える刀でいなしたが、ヒンガーセジの圧力で炎がかき消されてしまった。
それからは、為朝の攻撃をかわしたり、いなしたりするだけの防戦一方になってしまっている。
それなのに、為朝は雑に刀を振り回して馬鹿にしているように見えた。
「ほらほら、こんなものか!」
為朝は攻撃のスピードを上げると、護佐丸の刀を弾き飛ばした。
「うっぐ。まさか、ここまでとは……」
「舜天と肩を並べるくらいかな? あの赤わっぱよりは弱いくらいだが、人間にしてはなかなかのものだったぞ」
為朝は鬼面に右手をあてがうと力を籠め始めた。
「まあ、我には物足りない敵だが、今世の面目にせよ」
鬼面が顔面と一体化したと思ったら、もともと筋骨隆々だった為朝の身体が倍以上に大きくなり始めた。
「絶望と共に死ね!」
刀をなくし無防備な護佐丸に、漆黒の鬼の右こぶしが襲い掛かる。
俺は助けなければと思い、セジオーラ全開にして飛び出そうとした。
しかし、護佐丸は腰に残っている鞘を左手で握ると、鯉口から火を噴射させて為朝の顔に浴びせていた。
「ヒンプンシールド! 護佐丸さん、今のうちに刀を!」
少しひるんだ為朝と護佐丸の間にヒンプンを設置し、為朝の意識を俺に向けさせることで護佐丸に刀を拾ってもらう時間をつくる。
「誰だ!」
ヒンプンは、為朝から溢れているヒンガーセジに触れただけで消滅してしまう。
為朝に視認されると想像をはるかに超える威圧感に、足がカチコチに固まってしまった。
……動け、動け、動け!
「もう1人来てたのか。ふん、お前は場違いだ。邪魔にもならぬ」
護佐丸は刀を拾うと何も言わずに城内に駆けて行った。
「逃がさん!」
俺のことは眼中にないようで、為朝は護佐丸を追って城内に向かっていく。
為朝の後ろ姿を見て、やっと足が動くようになった。
……しに怖かったな。だけど、死ぬほど悔しい!
場違いなのは俺自身も分かってはいるが、今まで感じたことがない、体の奥底から沸々《ふつふつ》と湧き出てくるような悔しさが、凍り付いた足を溶かしてくれた。
……今はまだ無理でも、いずれは絶対に俺が倒してやる!
かなり険しい道になるだろうが、最終目標を源為朝に定め、その思いを胸に座喜味城跡内に入っていくことにした。




