第50話 源為朝
琉美と別れて、キジムナーが戦っている残波岬に急いだ。
最短でいくため、途中にあるゴルフ場を突っ切って進むと、岬の近くにある開けた場所でガジュマルが生えたり消えたりしているのが見えた。
「シバ、もっと速く走れるよね? 私にあわせないで、先に行ってちょうだい!」
ナビーは、セジを使って走る方法を俺よりだいぶ後に覚えたので、まだ慣れていないのかもしれない。
「わかった。セジオーラ、レベル8」
到着と同時に戦うことを想定して、千代金丸のキーホルダーを握りしめ、全速力でかけていく。
30秒もかからず戦場に着くと、ガジュマルに絡まった舜天を確認できた。
その横には、身長が2mを優に超える、図体のでかい鬼のお面をかぶった人が、キジムナーの首を片手で持ち上げて立っている。
俺は考えるより先に、鬼面の大男めがけて居合で切りかかっていた。
しかし、ガジュマルを振りほどいた舜天に、俺の攻撃を本物の千代金丸でギリギリのところで止められると、つばぜり合いになった。
「初手で大将に触れられるとでも思ったのか? おや、そなたはナビーの婚約者か!」
そのまま押し込まれ後方に退いてしまった。
横目で見えるキジムナーは、首を絞められているので苦しそうにもがいているが、舜天のせいで近寄れない。
……せめて、舜天だけでも押さえておこう!
「居合・クガニ一閃!」
今できる最強の技を繰り出すと、舜天に刀で受け止められたが、勢いよく押し込むと岬を超えて海まで飛ばすことができた。
舜天をいったん無視して、キジムナーを助けることに全力を注ぐ。
もう一度、居合の構えで鬼面の大男に向き直った時、その後ろから竜巻が近づいているのが見えたので技を切り替えた。
「火災旋風!」
「イシ・ゲンノー!」
炎の竜巻が鬼面の大男を襲うと同時に、キジムナーを掴む腕に遅れてきたナビーが打撃を与える。
それでも手を放さなかったが、一瞬、力が弱まったタイミングでキジムナーは自力で逃れることができた。
しかし、かなり体力を消耗しているのか、片膝をついて動けないでいる。
「ありがとう。もう少しで、やられるところだったぞ」
キジムナーに少しだけセジをあげることにした。
「ギリギリ間に合ってよかった。キジムナーは休みながらサポートお願い。ナビー! あっちには舜天もいるから気を付けて!」
「ナビーーーーーーーーーー!」
ナビーの名前を聞いた鬼面の大男が叫ぶと、ものすごい量のヒンガーセジが身体から噴き出してきた。
岬の方から、舜天が一瞬で鬼面の大男の隣に立つと、漏れ出てきたヒンガーセジを吸収し始めた。
「為朝様。あのおなごがナビーでございます。ですが、時間がかかりすぎていますので、急いで帰還せねば取り返しのつかないことに……」
鬼面の大男の正体は、異世界琉球で王国軍と敵対している軍の大将、源為朝で間違いないようだ。
「わかっとる! お前が舜馬順熙をやったナビーか……ふざけるな! こんな小さなおなごに、あやつが負けるわけないだろうが!」
ナビーがゆっくり俺の横に近づいてくる。
「佐司笠様が、私が舜馬を倒したことを広めるって言ってたのが、為朝の耳まで届いてしまったみたいさー。まさか、ここまで来るとはね……」
「でも、まだ2日しかたってないよな。伝わるのが早すぎないか?」
俺とナビーの会話を聞いていたキジムナーが立ち上がって、為朝に向かって言った。
「あいつをやったのはオラだ! それなら納得できるか?」
少し考え込んだ為朝は、舜天と顔を合わせるとうなずき合った。
「お前なら納得はできる。だがな、勝てる戦いしかしないあやつが、お前を見てまともに戦うとは思えないのだが」
「オラは1度、操られてしまったけど、助けてもらって自由になれた。あいつはオラが動けないと油断していたから、逃げるのが遅れたんだ」
「それなら納得。だが、お前らは皆殺しだ。駿馬順熙の弔い合戦といこうか」
しかし、舜天は乗り気ではないようで、為朝を落ち着かせようとしている。
「為朝様、もうこれ以上は。せっかく落とした座喜味城が、落とし返されてしまいます。それに、流石の義本でも苦戦していると思いますので……」
為朝は腰に差している大太刀を鞘から抜いて、舜天を軽く振り払った。
「うるさい! すぐ終わらすからお前は黙っていろ!」
大太刀をよけた舜天は片膝をついて残念そうな顔をしている。
「かしこまりました。為朝様の望むがままに……」
その時、キジムナーの声が頭の中に聞こえた。
「あの舜天とかいうやつ、時間を気にしているみたいだな。今のオラたちじゃ為朝にはぜってぇ勝てねえ。できるだけ時間を稼ぐ戦いをした方がよさそうだぞ」
「そうだね。みんな一か所に固まらないで、やられないことだけ考えていこうね」
「わかった。何もしなさそうだけど、舜天にも気を付けてな」
為朝が大太刀を振り下ろすと、そこから扇状にヒンガーセジの波動が放たれ、俺たちに襲い掛かる。
攻撃から逃れるために俺は左、ナビーとキジムナーは右に死に物狂いで走った。
波動が広がっていくので当たりそうになりながらも、俺はギリギリでかわすことができた。
ナビーたちの方を見ると、ナビーが少し遅れたみたいで、ヒンプンシールドとキジムナーのガジュマルを盾にして難を逃れていた。
この攻撃を大人数がいる戦の中でやられたら、何十人と一瞬でやられていただろう。
……ナビーの動きにキレがないような気がするけど、なんかあったのかな?
「まさか、初見の奴らに避けられるとは思わなかったな。ならば、足手まといのこいつからやっていくか」
大太刀が大きな弓に変形すると、ナビーをめがけて槍の様な矢が襲い掛かる。
「ヒンプンシールド・トゥー」
俺はナビーが狙われることがわかったので、ナビーと為朝の直線上にヒンプンの壁を設置したが、すべてのヒンプンをいとも簡単に破壊した矢は、ただまっすぐ進んでいく。
「ナビー!」
「大丈夫! 集中して!」
ナビーは真上に飛んで避けており、ヒンプンシールドの足場で次の攻撃に備えていた。
為朝の攻撃は1発1発が一撃必殺のようで、一瞬たりとも気が抜けない。
それに、まだ軽くあしらっているように見えるので、避けているだけではすぐにやられてしまう気になっていた。
……このまま逃げ回るだけではすぐ全滅だ。戦い以外で時間を稼がないと、HPとSPがもたないぞ。
俺は、何とか会話で時間を持たせることにした。
「為朝! お前は何が目的で襲ってくるんだよ!」
為朝は弓を降ろして俺を見据えた。怒っているのかヒンガーセジが濃くなった。
「何がだと? 我が育て上げた3将軍、舜馬順熙の仇に決まっているだろうが!」
「違う! 俺がききたいのは、何で琉球に戦を仕掛けて来たのかってことだよ!」
「ああ、そっちか。最初は我も望んではいなかったのだがな。我は琉球に対し、降伏すれば手は出さぬと申したのだが、尚巴志がそれを拒否したのだ。後に源氏、いや、大和征服のために、琉球で兵を確保したかったのだがな。脅して奪わなければいけなくなったのが、まことに残念であったな」
「全部お前の勝手じゃないか! 大和を征服するのは勝手だけど、関係ない琉球を犠牲にするのは理不尽だろうが!」
舜天が声を荒げて怒鳴ってきた。
「為朝様の前で理不尽という言葉を使うな! 為朝様は源氏の戦に多大なる貢献をしていたが、あまりにも強すぎたため身内からも恐れられてしまい、追放されてしまった方なのだ! そのお方に対して理不尽とは何事か!」
「舜天、もうよいぞ。追放された後、悪い事ばかりではなかったのでな。あれがなければ鬼ヶ島にも行けず、鬼殺しで妖力を得ることもなかったのだからな……ああ、あの時の鬼殺しを思い出したら、暴れたくなってきたぞ!」
……クソ、数分しか稼げなかったか。
為朝は愉快そうに笑い、大太刀を上段に構えると刀身が漆黒に変わった。
その時、ナビーの必死な声が頭の中に響いた。
「時間稼ぎはもういい。全力でひんぎれ!」
セジオーラを全開にして、ナビーとキジムナーが逃げている方向に全速力で走る。
しかし、背後から感じる威圧感は全く遠ざかってはくれない。
「楽になれ、兜裂き!」
「伏せろ! カジヌハー!」
目の前から斬撃が飛んできた。
伏せるのが少し遅れた俺をすり抜けると、背後に迫る為朝が振り下ろした刀を止めていた。
走る勢いのまま伏せたので、ヘッドスライディングのようになっていた俺を、刀を持った男性が足で止めてくれた。
「うんじゅもナビーぬしんかーやんやー? あとぅやわんにまかちょーけー!」




