第45話 キジムナーの本気
30秒ほどの沈黙後、ナビーがヒヤーの先端についている3つの筒をキジムナーに向けた。
「ティーダボール・ミーチ」
通常より2倍大きな3つの火の玉が、スピードも2倍で飛んでいくと、キジムナーに直撃した。
炎の中から黒いオーラを纏わせたキジムナーが、ナビーに向かって飛び込んできて、両手から出したガジュマルが伸びると、ナビーに襲い掛かる。
ナビーはヒヤーにセジを籠め、襲ってくるガジュマルを右に左に振り払い、真上にジャンプしてティーダボールを1発、キジムナーの頭に放った。
キジムナーは後方に飛びながら避けたが、ナビーはそれを予想していたのか、すでにキジムナーの背後まで回り込んでヒヤーを振りかぶっていた。
キジムナーは、背後にガジュマルを出現させてナビーの攻撃を防ごうとしたが、ナビーの振り下ろしたヒヤーは、ガジュマルを縦に割き、キジムナーの脳天を打ち付ける。
うつぶせに倒れたキジムナーを、立て続けにヒヤーで殴りかかるナビーの姿は、仲間でも恐ろしいものだった。
「あのキジムナーを圧倒している……ナビーはこんな奥の手があったのか……」
花香ねーねーと琉美はナビーの状態についてノロ視点で話し始めた。
「想像以上にすごいわね。でも、ナビーもただでは済まなそうだわ」
「花香ねーねーもノロだから、やっぱり気が付いていたんだね。あの状態が続いたら、間違いなくナビーは倒れちゃうよ……」
俺は何のことかさっぱりなのできいてみることにした。
「2人はあの状態が何か知っているのか?」
「知っているというより、ステータスを透視したらSPと一緒にHPも減っているから、当然倒れてしまうと思ったんだよ」
「私はステータスとかはわからないけど、ナビーの生命力とセジがだんだん薄れている感覚がわかるのよ……」
ナビーは倒れる覚悟で戦っている。
花香ねーねーを連れてこさせたということは、琉美のマブイグミでは治らない状態になるということなのだろう。
めった打ちにされていたキジムナーのオーラが濃くなって見えた。
「ヒンプンガジュマル!」
ナビーとキジムナーを隔てるようにガジュマルの大壁が現れ、それから先の尖ったひげが何本もナビーを襲う。
正直、俺なら逃げ切れたかどうかわからないほどのすさまじい攻撃を、ナビーは避けたり振り払ったりで難を逃れた。
しかし、ナビーの方がダメージを与えているはずだが、キジムナーと同じくらい消耗しているように見えるほど息が荒くなっている。
ナビーは俺たちの方を見ずに、絞り出すような声で叫んだ。
「シバ! 後はお願い!」
ナビーはヒヤーをやり投げのように持ってセジを籠めると、石づき側をキジムナーに向けて投げた。
「ヒヤーヤイ・ミーチ!」
投げられたヒヤーはまっすぐキジムナーに進んで行くが、キジムナーはガジュマルの壁でガードした。
しかし、後ろの3つの筒の1つからジェット噴射の様な火が出てガジュマルを貫き、キジムナーに向かっていく。
だが、キジムナーは両手でヒヤーを捕まえていた。
そこに、もう一度、筒から噴射してキジムナーを押し込み、続けて最後の噴射でキジムナーは石垣の壁に打ち付けられた。
「ナビー!」
琉美の声でナビーが倒れていることに気が付いて、とどめは俺がやらなければいけないことを思い出した。
「花香ねーねーはグミヌチジ、琉美はグスイを。急いで!」
白虎が2人をくわえてナビーの所に連れて行ってくれた。
「纏え、セジオーラ、レベル7」
出せる力をフルに使い、立ち上がったキジムナーに駆けて行きながら、セジ刀・千代金丸を腰に構えた。
「居合・クガニ一閃!」
反応できない速さの抜刀で切り込むと、キジムナーの身体が消滅してマブイだけが残り、ヒンガーセジが黄金勾玉に吸収される。
俺は一息も入れずに、倒したキジムナーのマブイにSPを1だけ残してすべてを流し込むことにした。
なぜなら、キジムナーを倒しても舜馬がいることを忘れていなかったからだ。
キジムナーを復活させているとき、舜馬が立ち上がって拍手をし始めた。
「うん、すばらしい戦いっぷりだったよ。でも、その満身創痍の状態で、わたくしともう一戦できるのかなぁ? ヒッヒッヒッヒ……」
舜馬は不敵に笑いながら腰の治金丸を抜刀して俺に向かって歩いてくる。
……あと少し。あと少し!
「えー、舜馬! やーだけは絶対ゆるさん!」
グミヌチジが無事に成功したようだ。
琉美と花香ねーねーの肩をかりて立ちあがったナビーが叫んでいた。
「ほう、生きていたのか。舜天殿には悪いが、お前から始末した方がいいようだねぇ」
舜馬は踵を返しナビーに向かうと、両手で握った治金丸を上段で構えた。
「お疲れ様……妖遠縦斬!」
刀身からまっすぐ上空に伸びたヒンガーセジが、ナビーたちに振り下ろされた。
「サドラゴンウィップ!」
襲い掛かかってくる斬撃に向かって、咄嗟に琉美が龍をぶつけるが、押し込まれてしまう。
もう駄目だと思った刹那、白虎が女性陣3人を突き飛ばして攻撃をかばった。
『白虎!』
白虎はその場で倒れている。ここからでは詳しい状態がわからない。
「あらまぁ。1発で楽になればいいものを……」
舜馬がもう一度上段に構えた時、やっとセジを流し込み終えた。
「ありがとう……あとはまかせろ……」
キジムナーは俺の肩に手を置いた後、舜馬に向かって歩を進める。
周りの石垣や木、草などありとあらゆるものから少量つづのセジがキジムナーに吸収されていく。
「バ、バケモノが!? ここはいったん引くしかないねぇ」
キジムナーに気が付いた舜馬は、刀を鞘に納め、ヒンガーホールに駆け込んでいく。
「オラからひんぎられると思ってんのか?」
ヒンガーホールの前に大きなガジュマルが現れ、舜馬は行く道を遮られた。
すぐにガジュマルを切ろうとしていたが、途中から刃が進まなくなると、そのまま刀を飲み込んでいった。
「クッ! それなら、もう一度やるしかないな……妖操矢」
ヒンガーセジの矢を何本もキジムナーに射っているが、ヒラヒラとよけられている。
「最後に楽しめ……アシビナー!」
キジムナーが地面に拳を突き立てると、そこから半径50mほどに木々が生い茂り、セジで森が造られた。
数十本のガジュマルのひげが逃げ回る舜馬を襲うと、十秒もたずに絡み取られてしまう。
キジムナーは倒れている白虎の元に移動して、シーサー化を解除している。
「白虎もよく頑張ったな。これで終わるから、安心して休んでろ」
今度は顔だけ出た状態の舜馬に近づいて話しかけた。
「最後に言うことはあるか?」
「許しを請えば、見逃してくれるのかい?」
「ダメだ!」
「そうだよねぇ。ああ、最後にいい事を教えてあげよう。妖力の使い方に長けた、わたくしがいなくなることで、異世界侵略計画もここで終わりとなるはずだよ」
「それはよかった。じゃあ、死ね」
かざした右手を握ると同時に、絡めていたガジュマルのひげが強く締め付けられて、中から見たことがない量のヒンガーセジがあふれ出し、黄金勾玉に吸収された。
「解除!」
セジの森を消したキジムナーはその場で倒れてしまったので、すぐに様子を見に行った。
「大丈夫かキジムナー!?」
「大丈夫、疲れただけだ。それよりも、みんなは無事か?」
女性陣3人と回復した白虎が駆けつけてきた。
「キジムナーのおかげでみんな助かったさー! 3将軍の舜馬を倒してくれてありがとーねー! それに、最後のアシビナーでヒンガーホールもなくなったから、この世界にヒンガーセジが流れることはもうないはずさー」
「よかった……じゃあ、オラはしばらく眠りにつくから、またこんど遊んでくれな……」
深い眠りについたキジムナーを平たい場所で寝かせた時、琉美は舜馬がいた場所から何かを見つけた。
「ねえ、みんな。ここに黒い勾玉と刀が落ちているんだけど」
ナビーが勾玉の方を手に取ってじっくり観察している。
「これは、核みたいだねー。これに為朝がヒンガーセジを籠めて、舜馬順熙を作り上げたんだはず」
「だはずって、あいまいな表現なのはなんでだ?」
「3将軍を倒したことなんてないからね。それに、あっちの世界で人のマジムンを倒すことは、人を1人殺すことと一緒なのに、まさか、こんな勾玉が出てくるなんて思わなかったわけよ……」
「それ、どうするんだ?」
「調べたりしたいけど、持ち続けたら嫌な予感がするから、壊すことにするさー」
そう言ったナビーは、石垣めがけて思いっきり勾玉を投げつけて粉砕した。迷いのない投げっぷりは見事なものだ。
残された治金丸の方は、ナビーが元の世界に帰るときに持っていくことになった。
すべての問題が片付いたのを見届けた花香ねーねーが口を開く。
「ハァ……私は戦ってないのに、なんだかすごく疲れたわ。早く帰ってゆっくり休みましょう」
「そうだね。そのまえに、花香ねーねー、こんな危険な場所に連れてきてごめんなさい……」
「あなた達が無事ならそれでいいわ。気にしないでちょうだい。さ、行くわよ!」
白虎をシーサー化させてみんなで乗り込んだ。
キジムナーはハーメーマジムンのところで降ろしていくことになったので、備瀬のフクギ並木に向かった。
海岸でくつろいでいるハーメーマジムンを見つけて声をかける。
「オバー、久しぶりです」
「あい! うんじゅなーか。どうし……!? キジムナーに何かあったのか!?」
事の顛末を話すと、ハーメーマジムンはキジムナーを受け取ることを了承してくれた。
「それはいいんだが、あのふらーコンビはどうしてるねー?」
『あっ!』
俺たちはミシゲーとウッシーのことを忘れてしまっていた。
「も、戻るか……」




