第44話 もちこたえれば
キジムナーはナビーを追いかけ、大ぶりな蹴りを放つと、後方に避けたナビーは風圧に押されて10mほど飛ばされてしまう。
危なげなく着地したナビーは、結っていた花笠の髪飾りにセジを籠め、花笠シールドを装備した。
盾で攻撃をいなして、やり過ごす作戦のようだ。
攻撃の手をやめる気配がないキジムナーは、次々とナビーに襲いかかっていく。
俺は今、何をすべきなのか頭をフル回転にして考えることにする。
2人で一緒に戦っても勝てる算段がなく、1つの攻撃に対し2人分のセジを使うのは効率が悪いので、1人ずつやりあう方向で戦略を練ることにした。
油断している舜馬に不意を突いて、全力のセジオーラで斬りかかるのはどうか?
しかし、今の俺の攻撃では、舜天と同じ3将軍を一撃で倒すことはまだできる気がしない。
せっかく静観してくれているのに怒らせてはいけないので、やめておくことにする。
それでは、ナビーを集中的に戦わせて俺がサポートするのはどうか?
それだと、琉美たちが来るまで耐えきることはできるだろうが、ナビーの疲労が大きすぎて、そんなナビーにヒヤーを渡し、そこに琉美と白虎が加わっても、十分な戦力にはならないだろう。
そう考えると、俺が中心になってキジムナーとやりあい、琉美たちが来るまでナビーの体力を温存してもらうことが最善だろうと考える。
こんな状況の中、大切なヒーラーと1発が強力な白虎を離脱させてまでヒヤーを取りに行かせたのは、それがあればどうにかできると考えてのことだと思う。
俺がやられても花香ねーねーにグミヌチジをしてもらえばいいので、覚悟を決めた。
「秘める、セジオーラ、レベル1」
今までは纏わせていたオーラを体内にとどめ、必要なところに必要な量のセジを使える状態にしておく。
最低限の消費にしたいので、レベル1から必要に応じてあげることにした。
「ナビー、交代だ! ティーダボール!」
ナビーに集中しているキジムナーの背後から攻撃すると、それに合わせてナビーがアースンをした。
「火災旋風!」
炎の竜巻が襲い掛かろうとした時、キジムナーが身体から放出したヒンガーセジにかき消されてしまう。
その間にナビーは俺の後ろに下がり、バトンタッチをする。
「わかった、無理はするなよ!」
石を1つ拾い、左手をいつでもイシ・ゲンノーができる状態にしておく。
手持ちの盾を持っていないので、代わりに守ったり、いなしたりするためのものだ。右手には千代金丸を握る。
キジムナーはものすごい威圧とともに、殴る蹴るを繰り返してきた。
想像以上に一撃一撃の威力がすさまじく、すぐにセジオーラのレベルを5に引き上げた。
「ヨンナー、ヨンナー、ヨンナー……」
ナビーが相手の素早さを下げる技をやってくれたが、キジムナーの黒いオーラがそれを跳ね返しているようで、全く効き目がなかった。
5分ほど対峙して違和感を感じた。
キジムナーは特訓していた時と、まるで戦い方が異なっていたのだ。
キジムナーは、一つ一つの技が強すぎるため大雑把に見えるが、無駄な動きをせずに必要以上のセジを使わない戦い方をするし、俺にもそのように教えてくれていた。
しかし、今のキジムナーはすべての攻撃が全力で、考えなしに戦っているように感じる。
通常のキジムナーとの対決なら、もう勝敗はついていただろう。
今のキジムナーにも勝てる気はしないが、セジが続く限りは逃げ切れる自信を得た。
中途半端に効果がない攻撃をしてセジを消耗することをやめ、紙一重で避ける戦法に変えて乗り切ることにする。
20分くらいたっただろうか、すきを見てステータスを確認してみる。
HP 106/620 SP 78/550
SPが減るのはしょうがないが、HPが思っていた以上に減らされている。
もろに攻撃は受けてないが、強力なパンチやキックを繰り出された際にでる波動に当てられていたので、それがダメージとして少しずつ加わっていたのだと気が付いた。
ナビーもそのことに気が付いたのか、心配してくれた。
「シバ! そろそろ変わるか? 回復は?」
「大丈夫! ナビーはギリギリまで休んで!」
俺がただ逃げ回るだけの戦いをしていたからか、見ていた舜馬が立ち上がった。
俺とナビーは一気に緊張が走る。
「面白くない。そうだねぇ……自我を少々戻してみようか」
舜馬は持っていた弓でヒンガーセジで作った矢をキジムナーに射ると、暴れていたキジムナーが立ち止まった。
「おい! 何をした!」
「少し支配力を緩めてあげたのさ。その方がそやつの実力が反映されると思ってね。まあ、頑張りたまえ。ヒッヒッヒッヒ」
その時、頭の中にキジムナーの声が流れてきた。
「い……だ……こんな……したくない……助け……シバ、ナビー」
「大丈夫か!? キジムナー! キジムナー!」
支配力が弱まったことで通信をつなげることができたようだが、すぐに途絶えてしまう。
いつもの飄々《ひょうひょう》で堂々としているキジムナーからは想像できない、弱々しい声に胸が締め付けられた。
キジムナーの攻撃が再開すると、舜馬の思惑通り戦い方がガラッと変わっていた。
30mほど離れた位置から、一瞬で距離を縮められ蹴りを繰り出された。
俺は、先程からやっているようにギリギリでかわしたが、かわした先で全身を拘束されてしまう。
キジムナーは、俺が逃げた方向にガジュマルを出現させて、木のひげを俺の身体に巻き付けていたのだ。
動けなくなった俺に、もう一度キジムナーの蹴りが飛んでくる。
一瞬のはずだったが、頭の中でものすごい早さで志向を巡らせていた。
全身にセジオーラを放出させれば何とか抜け出せる。だが、それではもうセジをほぼ使い切ってしまい結局やられるだろう。
それなら、抵抗せずにセジを残した状態でやられて、琉美たちにマブイグミをさせて、再度戦いに加わるのが最善かもしれない。
「ナビー! あとお願い!」
「サドラゴンウィップ」
やられる覚悟をした時、視界の外から銀の龍が現れて、キジムナーに噛みつきながら遠くに押し進んでいった。
キジムナーが龍の口から逃れようとすると、琉美の声がもう一度ひびく。
「ドラゴンロード! 獅子突進!」
龍のムチをそのままの状態で残すと、その上を白虎が駆けて行き、キジムナーをさらに遠くへ突き飛ばした。
ガジュマルが消滅して俺の拘束が解けたので、みんなの元に駆けつける。
「よかった、2人ともまだやられていないね。ナビー、ヒヤー持ってきたよ」
「ありがとう琉美。急いでシバを回復してちょうだい。花香ねーねーは安全なところで待機しておいてね。シバは休憩しながらみんなを守って。後は私が何とかするさー!」
「ちょっとナビー! あなた、危険なことする気じゃないわよね?」
「これしかないわけよ。花香ねーねー、何かあったらお願いね」
ナビーは回復を終えた俺に頼みごとをした。
「私たちノロがとどめをさしたら、マジムンは完全に消えてしまうさー? だからよ、最後のとどめはシバがやってちょうだいね」
「わかった……俺たちは戦いに加わらないでいいんだよな?」
「2人のおかげで良い状態で戦えるさー。後はまかちょーけー!」
笑顔で話していたナビーが敵に向かおうと振り返る瞬間、見たことがないほどの鬼の形相になっていた。
舜天戦の時のように、地面にヒヤーを突き刺してセジを籠めた。
「ティンサグヌハナ」
ヒヤーが真っ赤な花びらのホウセンカになり、ナビーはその大きな花に両手を突っ込んだ。
「チミサチニスミティ」
手を引き抜くと爪が花びらの色と同じく、鮮やかな赤に染まっていた。
「ナビーは何してるんだ?」
花香ねーねーが持っている知識で考察して答えてくれる。
「てぃんさぐぬ花って沖縄民謡があるじゃない? 歌詞の中にちみさちにすみてぃ、つまり、爪先に染めるってあるんだけど、昔からホウセンカの絞り汁を爪先に塗ると、マジムンよけになるって言い伝えがあるのよ。もしかして、ナビー流のパワーアップなのかも」
セジオーラに似ているものなのだろうか、ナビーの全身は赤いオーラを纏っている。
遠くに飛ばされたキジムナーが戻ってきた。
ダメージは与えられたはずだが、痛がる様子もなく今にも襲い掛かりそうな雰囲気を醸し出している。
ナビーがヒヤーを構えると、キジムナーの手足が熱せられた鉄のように赤くなり、にらみ合いが続いて、硬直状態となった。
どちらかの攻撃でいつでも戦いが再開するであろう様子に、俺は固唾をのんで2人の戦いをどこか楽しみにしていた。




