第41話 脱走猿 VS 白虎
2019年6月27日。
いつものようにマジムン退治を終わらせて家に帰ると、地元のニュース番組では猿が14匹、オリから脱走したという話題で持ちきりだった。
その動物園は俺の地元、沖縄市にある『うちなーわらびぬ園』という、小さいときによく妹と動物を見に行ったところである。
すぐに臨時休園をして、警察や消防も加わり捕獲作戦が行われると、初日は4匹捕獲したそうだ。
次の日、まだ10匹も逃げたままなので110人体制で捕獲に挑み、6匹捕獲して残り4匹は次の日に持ち越された。
その日の夜10時。ナビーが部屋から飛び出してきて、俺と琉美を呼び出した。
「久しぶりにちゅーばーの気配がするさー。今からすぐに向かおーねー」
「でも、やっぱり白虎がいないと移動が不便だな」
「大丈夫。キジムナーから通信のやり方教えてもらったから、白虎をこっちに向かわせようねー」
すぐに支度をしてマンションを出ると、白虎がすでに待機していた。
白虎に乗りマジムンの気配がする方向に向かうと、昨日から猿が脱走している『うちなーわらびぬ園』に隣接する雑木林に着いた。
周りにはパトロール中の警察もちらほらいる。
「ここから反応があるってことは、猿がマジムン化しているのかもな」
「そうみたいだねー。うり、あの木の上見てみ。サールーマジムン1匹がこっち見てるさー」
ナビーが示すほうを見てみると、街灯がとどかない暗闇の中に立っている猿が、ギラついた目でこっちを見ている。
「あのサールーマジムンは、大きくならないパターンのマジムンだな。でも、かなり強い感じがするな」
「そうだね。最近倒しているマジムンは弱かったけど、このさーるーはアカショウビンマジムンより強いから気を付けれよ!」
サールーマジムンは前触れもなく、ひとっ飛びでナビーにドロップキックをしてきた。
ナビーは紙一重でよけながらサールーマジムンの足をつかみ、勢いを利用してぶん回して投げようと手を離した。
しかし、サールーマジムンは逆に、足でナビーの腕をつかみ返していて、回すのをやめた瞬間に噛みついてくる。
「わうん!」
ナビーの肩に噛みつかれそうになった時、白虎が自ら咆哮波を放つと、サールーマジムンは林の中までふっとばされた。
「危なかったさー。白虎ありがとーねー!」
「わん、わん、わん、わん……」
白虎は俺たちの前に立ち、俺たちに向けて吠え始めた。
こんなことは初めてだったが、琉美が白虎の気持ちを代弁した。
「もしかして、白虎は自分だけで倒したいのかも? 犬猿の仲的なやつじゃないかな。それに、最近は私たちを乗せるだけで戦ってないから、イライラしているんじゃない?」
「わん、わん!」
尻尾を振りながら琉美の身体に大きな頭をスリスリしてきた。
「そうみたいだな。ナビー、白虎だけで戦わせて大丈夫だと思う?」
ナビーは白虎の頭に手を置いて少し考えると、そのままシーサー化を解いてしまった。
「何かあったら私たちが加わればいいから大丈夫かな。でも、シーサーのままでは林の中で動きにくいから、元に戻そうね。それでもやりたいなら、そのまま戦ってもらうさー」
白虎はすべてを理解したようで、元の姿のままヤンバルスパイクを伸ばし、猿を追って林に入っていった。
俺たちはヒンプンシールドで足場をつくり、上空から戦いを見守ることにした。
木々の隙間から、白虎とサールーマジムンが動き回っている様子を確認したあと、少し開けたところで白虎は地面、サールーマジムンは木の上で硬直状態になった。
「キッキー!」
サールーマジムンはその辺の枝をおって、次々と白虎に投げてきた。たまにフンも混ぜてきたが、木の後ろに隠れたりしてすべてよけている。
白虎が見えるところに出てきた。サールーマジムンがもう一度投げつけ攻撃をしようとした時、白虎はいつもより遅めの咆哮波を放った。
「ワオン!」
「キキッ!」
サールーマジムンが飛んでくる波動をびっくりしたようにかわして、隣の木に飛び移った時、白虎は波動より速い四肢突進で飛び込んでいた。
「クューン!」
白虎の突進をもろに食らったサールーマジムンは、後方の木にぶつかって地面に落ちたが、まだ戦える様子で牙をむきだしている。
白虎は木の上から飛び掛かり、後ろ足のヤンバルスパイクで蹴りかかった。
――ガッシーン!
サールーマジムンも右手の爪が伸びてきて、セジの爪同士でぶつかり合う。
そして、左手で足をつかむとそのまま噛みついた。
「キィーー!」
白虎は奇声を上げたが自分も負けずに噛みつき返した。
そして、噛んだまま咆哮波を放つとサールーマジムンを倒すことができた。
猿はその場で眠っている。無傷なので安心だ。
琉美が白虎の回復をしてあげた後、思いっきり撫でて褒めてあげた。
「すごいぞ白虎! あの強さのマジムンをシーサー化なしで倒しちゃったのか! 相手の得意なフィールドだったから、正直厳しいと思っていたけど、心配なかったな」
嬉しそうな俺たちを見て、白虎は喜びが爆発したのか甘え方が激しくなった。
俺と白虎がじゃれている横で、ナビーは難しそうな顔をしていた。琉美が気にして声をかけた。
「ナビー、なにか不安なことでもあるの?」
「この強さのマジムンが現れたってことは、あっちの世界で琉球王国軍がまた押され気味になっているかもしれないさー」
「舜天が戻ったから、もちなおされたってこと?」
「そうなんだはずね。でも、あっちのことまで2人は気にしないでいいからね」
作ったような笑みをしたナビーは、寝ている猿を抱き上げた。
「このさーるーは林の外で寝かしておこうね」
「オリに連れて行かないでいいのか?」
「流石に素手で捕まえましたって持っていったら、目立ちすぎるからさー」
「そういえば、猿脱走のニュース、全国でも話題になっていたよ」
「じゃあ、しょうがないか」
この後、林を出て発見されやすい場所に寝かせてこの場を後にした。




