第39話 キジムナーと夜遊び
19時に打ち上げが終わり家に帰った。
慣れないことをしたせいでだいぶ疲れていたので、すぐ風呂に入って早めに就寝することにする。
女性陣たちから先に風呂に入ったので、俺がベットに飛び込んだ時には21時になっていた。
……あー、やっと眠れるー。
部屋の照明を消して目をつぶった時、急に頭の中に声が聞こえてきた。
「あーあー。みんなオラの声、聞こえるかー? キジムナーだよー」
「キジムナー!? はい、聞こえてますよ」
「おお! この声はシバだな。ナビーと琉美の反応がないのはなんでだ?」
どうやら2人にも同時に通信している様だ。
「すみません。今日は疲れて寝てしまってます」
「そうか、それならシバだけでいいや。今、瀬長島にいるから来てくれなー!」
俺も疲れて眠るところです、と言う間もなく通信を切られてしまった。
この睡魔に襲われた状態でキジムナーと会うのは正直しんどいが、怒らせる可能性があるので、行かないという選択肢はない。
それに、今まで使ったことのない特殊能力【昼夜逆転】を使ってみるいい機会なのかもしれないと思った。
特殊能力【昼夜逆転】
・徹夜しても眠くならず活動できるが、明け方は眠ってしまう
能力を発動してみると、さっきまでの睡魔がうそのように消え去り、すごく目が冴えている。これなら休まなくても大丈夫そうだ。
いつものジャージに着替えて家を出ようとした時、白虎がズボンの裾を引っ張ってくる。
白虎は今日、出番がなく退屈だったのでついてきたいようだった。とてもありがたい。
那覇空港の近くにある橋で渡れる離島、瀬長島に白虎に乗って行くと、野球場近くに不自然な大木が見えたのでそこに向かった。
「おお! シバ、早かったな。シーサー犬も一緒か」
「シバ様、久しぶりシャモ」
「今日はよろしくなんだモー」
少し面構えがキリっとなったミシゲーとウッシーも一緒だった。
「それで、今から何するんですか?」
「最初は島一周、はーえーすーぶするぞ! シバはシーサー犬に乗っちゃだめだからな。それじゃあ、よーいドン!」
慌てて白虎から降り、みんなが走っていった後に続いた。
キジムナーと白虎が競って先頭を進み、その後ろにミシゲーとウッシーが意外と速いスピードで走っている。ミシゲーは浮いて進んでいる。
俺も必死で走るが、ミシゲーとウッシーにすら全然追いつけない。
10秒ほどで先頭が見えなくなり、追いつける気がしなかったのでセジオーラを使うことにした。
「纏え! セジオーラ、レベル4」
又吉剛さんから教えてもらった後、何度も練習していたので自由自在に発動することができるようになり、レベルも5に上がっている。
この技は身体能力を大幅にアップさせるので、どうにか張り合えるはずだ。
「シバ様、速いシャモー!」
スタートから30秒くらいでミシゲーとウッシーを追い越したが、キジムナーと白虎は全然見えなかった。
「レベル5!」
キジムナーに拍子抜けされたくないので、セジ切れ覚悟でセジオーラ、レベル5まで上げることにした。
レベル4では普通にシーサー化した白虎くらいの速さだが、レベル5だとヤンバルスパイクモードと同じくらいの速さになっている。
だが、1周2キロもないくらいなので、キジムナーと白虎はすでにゴールに着いて待っていた。
「2人とも速すぎっ……」
ゴールしてセジオーラを解こうとした時、俺はセジ切れで力が抜けて膝から崩れてしまった。
「おい、シバ! あー、セジが切れちゃったのか。オラのわきゆんから安心しろ」
キジムナーの腕からガジュマルのひげの様なものが伸びてきて、俺の身体を包み込むと力がみなぎってきた。
「シバがあいつらに勝てると思わなかったぞ! あのまとわりついていたセジのおかげなのか?」
「セジオーラのこと? でも、これやるとセジがすぐなくなるんですよ……」
「シバはふらーなのか? はーえーすーぶなのにひさ以外に無駄なセジ使っているからだろ。地面をける瞬間だけひさにセジを流せばいいんだぞ」
そう言ったキジムナーは、初めて会った時に襲ってきた技のヤーチューメーゴーサーをするように拳が真っ赤になっていた。
「この技だって、拳に一点集中してセジを使っている。攻めも守りも走るのも、必要なところに必要なだけセジを使えるようになれば、しにちゅーばーになれるから練習してほしい。そしたら、オラともっと色んなあしびができるんだぞ」
「わかりました。やってみます」
その時、ミシゲーとウッシーが到着していた。
「おい、お前らにーさんな! もう1周してこい!」
2人とも泣きながらもう1周走って行った時、キジムナーが4面ある野球場に10m間隔で足場があるガジュマルを何本も出現させた。
「よし! オラたちは木の上だけで鬼ごっこするぞ。オラから鬼するから10秒逃げろ。てぃーち、たーち、みーち……」
俺と白虎は急いで木に登った。白虎は簡単に飛び移っているが、俺はセジを使わないとできないので、キジムナーに教えてもらったことを頭で整理して足にだけセジオーラを発動してみる。
「できた!」
白虎を追って木を飛び移った時、キジムナーが動き出しすぐに俺の横に並んだ。
「オラはシーサー犬追うから、シバは早く慣れてくれ」
そういったキジムナーは俺を追い抜いて、白虎に向かっていった。
その姿をよく見てみると、木に触れた時、触れた足や手だけセジが濃くなっていることを確認できた。
……足だけにできたとしても、飛んでいる間は消さないといけないのか。難しそうだけどやってみよう。
次の木に向かって飛んだ瞬間、セジを引っ込める。着地するときにセジを出し、また次の木に飛んでい……かなかった。
「やべ! セジ出すの遅すぎた。ヒンプンシールド!」
飛び降りした真下にヒンプンシールドの足場を設置して落ちずに済んだ。元の木に戻りもう一度やってみる。
……よし! コツをつかんできたぞ!
白虎がすさまじい速さで俺に向かい走ってきた。どうやら、鬼になって俺を狙っている様だ。
俺は落ち着いて右に左にとジグザグに木を渡っていく。スピードがあるほど曲がるのは大変なので、小回り重視で逃げることにした。
最初は追いつかれずにいたが、白虎はヤンバルスパイクモードになって木を2、3本飛び越えて、直線で俺に飛びかかってきた。
「うわあああああああ!」
思いっきり頭突きされて、50mほど突き飛ばされてしまった。
何とか木に着地した時、キジムナーが近寄ってきた。
「シバ、今のすごかったぞ! シーサー犬は何をしたんだ?」
「あれはヤンバルスパイクって言って、セジのかぎ爪を使ってスピードを上げる技なんです」
「そんなことができたのか。あれ使われてたらはーえーすーぶ負けていたな……」
それから、ミシゲーとウッシーも交えて鬼ごっこが2、3時間つづく。
セジ切れしても何回も回復してくれるのはいいが、精神的にきつくなってきたとき、キジムナーが満足してすべての木を消し去った。
「久しぶりに楽しい鬼ごっこができたぞ。シバ、白虎、にふぇーでーびるな!」
「こちらこそ、ありがとうございます。おかげでセジの使い方が格段に上がりました」
「あのよ、お願いがあるんだけど、しばらく白虎預かっていいか? そしたら数日でヒンガーホール探せるぞ!」
まさかの急なお願いに驚いたが、ヒンガーホール探しをお願いしている身分なので、理由を聞いて白虎が良いなら許可してもいいと思った。
「何で白虎が必要なんですか? キジムナーなら同じくらいの速さで走れますよね?」
「走りながら何か探すのって大変なんだぞ。速く走ったら着地場所を確認することに専念してしまうから、周りを確認する余裕がなくなるんだ。だから、オラが白虎に乗って探すことだけに専念したいんだ」
キジムナーが俺たちのお願いを真剣に考えてくれていることが嬉しくなった。
この理由ならナビーたちも理解してくれるだろう。後は白虎しだいだ。
「白虎、少しのあいだ俺たちから離れて、キジムナーの手伝いしてくれるか?」
白虎は俺の顔を大きくひとなめすると、キジムナーの隣でおすわりした。
「じゃあ、白虎のことお願いします」
「うん。何かわかったらまた連絡するからなー」
キジムナーとの話が終わった時、ミシゲーとウッシーが喜びながら話しかけてきた。
「白虎が付いてくることになってよかったモー! シバ様、聞いてくださいよ。キジムナーは長距離移動の時、ウッシーたちが遅いからって紐に括り付けて引きずり回すんだモー。すごいひどいんだモーよ」
「そうシャモ! たまに石敢當とかに当たってしまうこともあるんだシャモ。でも、白虎が来てくれるなら乗せてもらえるシャモね」
「お前たち大変そうだな……」
最後に、キジムナーにシーサー化のやり方を教えて、もう行くからとそのまま白虎にまたがった。
続けてミシゲーとウッシーが乗ろうとした時、キジムナーの背中からガジュマルのひげが伸びてきて2人を縛る。
「じゃあ、またなシバ」
『ぎゃあああああ! 乗せてくれーーーーー!』
かわいそうに、2人は引きずられていった。
「っていうか、俺。白虎でここに来たから、徒歩で帰らないといけないじゃんか!」
時刻は日をまたいで、午前4時をまわっていた。




