第36話 取り扱い注意
キジムナーはハートロックの上に乗り、外海側に向かって両手をかざした。
「ガジュマルのふに」
セジのガジュマルを出現させ、それを使ってみんなが乗れるくらいの大きな船を作り出した。
「よし、漁に行くぞ!」
ガジュマル船からひげが伸びてきて俺たち全員を絡めると、そのまま持ち上げられて船に乗せられる。
「いざ、出航!」
ガジュマルの葉を丸めて作った葉笛をブーと鳴らして沖に進んで行く。
俺たち人間はあっけにとられていたが、ミシゲーとウッシーは興奮していた。
「すごいシャモ! 初めて船に乗ったシャモ!」
「木造船だと海賊気分が味わえるモーね。ワクワクしてくるモー!」
キジムナーは喜んでいるミシゲーとウッシーを見て自分も喜んでいた。
そして、船首に立って仁王立ちして言い放つ。
「はいちぇー王にオラはなる!」
何でマジムンがそのセリフを知ってるのかと思っていると、3kmほど沖で船を止めた。
「この辺でよさそうだな。イカイ」
ガジュマルでつくったイカリを降ろした。どうやらここで魚を捕るようだ。
「オラが直接しーむんでいゆ取ってくるからまっちょーけ」
キジムナーは豪快に海に飛び込んだ。俺たちは船の上に取り残されてしまった。
「やっぱりキジムナーは大物感があるな。あっけにとられてしまったよ」
「そうだね。流石の私も、自分の発言のせいで怒らせたらいけないと思うと、口数が減ってしまうさー」
ナビーの話を聞いたミシゲーが教えてくれた。
「基本的にキジムナーは優しいから大丈夫シャモよ。さっきは寝起きで機嫌が悪かっただけなんだシャモ」
そういえば、アマミキヨもキジムナーは優しい子って言っていたのを思い出した。しかし、ちょっと機嫌が悪いだけであの攻撃を繰り出されたらたまったもんじゃないので、機嫌を損なわないように気を付けていくことにする。
キジムナーをしばらく待っていると、赤、青、黄色の南国感満載の魚を10匹抱えて船に上がってきた。
「よし、ハーメーの所でこれかむんどー」
そう言うと、ハーメーマジムンたちと手合わせした備瀬の砂浜に船のまま向かった。
砂浜に船ごと乗り上げ、船首に立ったキジムナーは拡声器を使ったような大声でハーメーマジムンを呼んだ。
「ハーメー出てこーい! いゆ、むっちーたんど!」
フクギ並木の方から慌ててハーメーマジムンが現れた。
「な!? なんでキジムナーが? それに、うんじゅなーも一緒か……」
砂浜に降ろされ船を消滅させた後、その場にガジュマルのテーブルとベンチをつくった。
「くまで、いゆ料理するよ」
キジムナーは持っていた魚をテーブルに広げて、すべての魚の目玉をほじくりだしていた。
「な、なにしてるんですか!?」
「料理だよ料理。オラ、目ん玉以外はいらないから、残りはオメーらでかめー」
ハーメーマジムンが俺に近寄ってきて小声で教えてくれた。
「キジムナーは魚の目ん玉が大好物で、それ以外を食べないわけよ。やしが、魚の身の部分は誰かにあげるくせに、残さず食べてくれないとわじるから、どうにかみんなで食べてちょうだい」
「怒るのならしょうがないですね。わかりました、俺がマース煮にでもして、みんなで食べますよ」
ナビーと琉美にも事情を伝え、近くで調理器具を探しに行くことになり、この場を離れようとした瞬間、キジムナーに呼び止められた。
「おい! オメー、まーかいが?」
少し怒っているような声だったので、みんなヤバイと思い固まってしまう。
気に障らないように、簡潔に理由を述べなければいけないので、緊張しながら言った。
「せっかくキジムナーさんからもらった魚ですので、美味しく食べるために調理道具を準備したいのです」
キジムナーは俺の前まで無言で近づくと、満面の笑みで手を差し伸べてきた。
「いい心がけだ! 美味しく食べてやってくれ!」
白虎に乗って急いで調理用具をかき集めた。
皆で食べたいからとキジムナーが待っているので、急いで調理に取り掛かる。
これから作るマース煮は、魚から出るダシに塩を入れて味を調整するだけの簡単料理だが、それゆえにやり方次第ですごくおいしくなる料理でもある。
まず、魚のうろこと内臓をとって3枚におろして身とアラに分ける。
アラを軽く炙り、水と酒と昆布を入れた鍋で煮立ててダシをとる。
ダシをとっている間に身の方のトゲをピンセットで丁寧に抜く。
これをやるだけで食べるときのわずらわしさがなくなり、美味しく感じると俺は思っているのでめんどくさいがやっておく。
ダシが取れたらアラと昆布を取り出し、塩を少しずつ入れて味を調整する。美味しいと感じたら、長ネギ、島豆腐、切っておいた切り身を入れて少し煮込むと完成だ。
完成間際にキジムナーに声をかけられた。
遅いと怒られると思っていたが、そうではなかったようだ。
「おい! それまーさむんなのか?」
「美味しくできていると思うけど、ちょっと味見してみますか?」
コクリと頷いたので、汁だけを小皿に少し入れて味見してもらった。
「うおおおおお!」
急に叫ばれたので、この場にいる全員ビクリと反応してしまっている。
キジムナーはテーブルに向かって走っていき、置いていた魚の目をすべて持って鍋に投入した。
20個の目玉が投入された鍋はグロテスク鍋になっていたが、だれ一人何も言えなかった。
キジムナーのお椀に目玉をすべてよそい、それ以外を均等にほかのみんなで分けてよそった。
「いただきます」
大きな切り身を箸でつまんで持ち上げると、今にも崩れ落ちそうになったので思いっきりかぶりつく。かぶりつけるのも骨を取っているおかげだ。
たくさんの魚から出た濃厚なダシに、程よい塩味が利いていて癖がなくたくさん食べられそうな気分になる。
島豆腐や長ネギがあることで、味が単調にならずに済んでいた。
「いゆぬみー、しにまーさん!」
どうやらキジムナーも満足している様だ。
これで、仲良くなれればいいのだけど……。
ご飯はなくマース煮だけなので、みんな直ぐにペロッと完食してくれた。
全員の完食を見届けたキジムナーが俺たちの前に立った。
「で、オラにききたいことがあると言っていたな? きいてやるぞ!」
……よし! やっと、本題にたどり着いた。
俺たちはヒンガーセジのこと、外来マジムンのこと、舜天のことを話して、ヒンガーセジが流れてくる穴を探していて何か知らないかと尋ねた。
「まだ、オラは見たことないな……わかった、オラが見つけたら教えてあげる。やしが、条件がある」
「条件ですか? 俺たちにできることならなんでも……」
「オラとどぅしになって、たまにあしびに付き合ってほしいんだ。いままで、オラと遊べるようなちゅーばーいなかったからよ。オメーらなら大丈夫そうだ!」
「もちろん、こちらからお願いしたいくらいですよ」
ナビーが寄ってきて耳打ちしてきた。
「おい! 少しは考えて物言え! キジムナーが言うあしびって、さっきみたいな戦いのことだろうから、しに大変だはずよ!」
ナビーの忠告もむなしく、ことは進んでしまう。
「今日からオラたちはどぅしだ!」
キジムナーはそう言うと、自分の腕から生やしたガジュマルのひげを、俺とナビーと琉美の頭にちょこんとつけてセジを送り込んできた。
「これで、いつでも会話できる。何かあったら連絡するからな。それと、ミシゲーとウシはよーばーすぎるからオラが鍛える。ついてこい!」
「いやシャモーーーー!」
「シバ様、助けてモーーーーー!」
キジムナーはもう一度船を作り、嫌がるミシゲーとウッシーを乗せると、海のかなたへ消えていった。
あまりにも豪快に事を進める姿に言葉が出ないでいると、琉美からポロっと言葉が漏れる。
「す、すごかったね。まるで台風がきたみたいだったよ……」
「そうだね。でも、とりあえずどぅしになれてよかったさー。ヒンガーホールはキジムナーに任せて、私たちはいつも通りの活動に専念できそうだね」
「ふぅ……とりあえず、片付けて帰るか。オバー。急に押しかけてきてすみませんでした」
「いや、どうせキジムナーの気まぐれだろう。しかし、うんじゅなーはよくやったよ。これから大変になるだろうが、ちばりなさいよ」
後片づけを済ませ、ハーメーマジムンにサヨナラをして、備瀬のフクギ並木を後にした。
この日から、ヒンガーホールさがしを中断して、通常のマジムン退治だけをする日々に戻った。




