第31話 マジムンのどぅし(友達)
琉美に案内してもらって、ミシゲーマジムンを目撃したという国際通り付近をがむしゃらに探索していると、浮遊しながらゆっくりと一直線に進んでいる、フライパンくらいの大きさの木製しゃもじを確認した。
「いた! あの時見たマジムンで間違いないよ」
進んでいる先には、スマホを見ながら立ち止まっている、観光客らしき若い女性がいる。
「あれって、あの女性の股をくぐろうとしているんじゃないのか? 早く助けないと!」
「在来マジムンがマブイ落とせることは、めったにないから大丈夫よ。うり、見てみー」
立ち止まっていた女性は、右足にかけていた重心を左足に移しながら、元の位置から半歩だけ移動した。
それなのに、ミシゲーマジムンは少しも曲がらずにまっすぐ進み、女性の横スレスレから通っていく。まったく止まる気配がない。
「ズレちゃった」
「だから言ったさー。くーてんしか動いてないのに、ばっぺーるから全然怖くないわけよ……あいや!」
ミシゲーマジムンが止まらずに進んで行く先の壁に、石敢當があるのを確認した。
「ヒンプンシールド!」
ナビーは慌てて石敢當の前にヒンプンを設置すると、ミシゲーマジムンはそのままぶつかって、地面に落ちてしまった。消滅はしていないようだが、少し存在が薄れている感じがする。
ナビーが近づいて声をかけた。
「ミシゲー、大丈夫ね?」
「た、助けてくれたのは、あなた方シャモ?」
「そうよー」
「ありがとうシャモ。石敢當に当たって消えてしまうところでしたシャモ。あの……助けてもらったのに、図々しいとは承知ですが、セジを少し分けてもらえませんでしょうか? このままだと消えてしまいますシャモ」
俺はナビーに腕を引っ張られると、ミシゲーマジムンに差し出された。
「まかちょーけ! シバがセジをあげるってよ」
「はぁ!? 何で俺が?」
「ノロのセジをマジムンに与えたら、完全に消滅してしまうから、私と琉美はできないわけさー。だから、シバゆたしくね!」
「私の分も頑張ってねー」
ちゃんとした理由があるならしょうがない。
「俺がやるしかねーか。で、どうやればいいんだ?」
ミシゲーマジムンは喜んでいるのか、魚のように跳ねている。
「ミシゲー自身がセジを吸い取ることはできるシャモが、勢いでマブイを引っこ抜くかもしれないシャモ。だから、シバ様がミシゲーにセジを籠めてほしいシャモ。できる、シャモか?」
「できるから安心して」
恐る恐るミシゲーマジムンに触れて、セジを少し籠めると、ミシゲーマジムンは小刻みに震え始めた。
「あー、気持ちいシャモー。シバ様のが中に入っていくシャモー。ものすごいシャモー」
震えが激しくなったと思ったら、今度はビクビクと伸び縮みしている。
「も、もう十分だろ……」
なんだか悪いことをしているみたいになったので、セジを籠めるのをやめた。
すると、ミシゲーマジムンは跳ね上がり、その場でユラユラ浮遊してお礼をしてきた。
「シバ様、ありがとうシャモ! こんなに気持ちいの初めてでしたシャモ」
「そ、そう……元気になったみたいで何よりだよ」
……こいつ、わざとじゃないよな?
異様な視線を感じて振り返ると、ナビーと琉美がごみを見るような目で俺を見ていた。
……俺は言われた通りにやっただけだろうが!
「すくう道具のしゃもじが、救われてしまいましたシャモ。あなた方にお礼をしたいシャモが、ミシゲー達マジムンはマブイを落とすことしかできないので、どうしたらいいシャモか……」
それを聞いたナビーは、今回の目的を進め始めた。
「それなら、私たちのどぅしになって協力してほしいことがあるんだけど、お願いできないかねー?」
「ミシゲーにできることなら、何でもするシャモ!」
「私たちは、別の世界から流れてきた、ヒンガーセジで生まれるマジムンを退治しながら、そのヒンガーセジが流れてくる場所を探しているわけよ。何か心当たりないね?」
「ああ! 最近この辺りで、見たことない怖いマジムンが多かったのは、そういうことだったのシャモか。すみませんが、詳しいことはわからないシャモ……」
「そうなのか……」
申し訳なさそうに手前に傾いていたミシゲーマジムンは、急にパッと縦になった。
「でも、他の仲間たちなら何かわかるかもしれないシャモ! ぜひ、紹介したいシャモ!」
「それはありがたいさー。仲介ゆたしくね」
ミシゲーマジムンに案内してもらい、沖縄本島中部にある読谷村の辺り一帯、紅いも畑が広がる場所に到着した。
「この辺に、気配を感じるシャモが、見当たらないシャモね」
「じゃあ、みんなで探してみるか」
この辺りは畑なので見晴らしはいいのだが、どこにもマジムンがいるように見えない。
しばらく探していると、琉美が大きな声で叫んだ。
「みんなー、ちょっと来て! ここに何かあるよ!」
琉美の所に駆けつけ、指をさしている先を見ると、小さな黒い光の玉が、あぜ道の脇に転がり落ちていた。
「なんだ、この光ってるやつは?」
ミシゲーマジムンが近づい確認した。
「これはウシマジムン、ウッシーのマブイだシャモ! セジが切れてしまっているんだシャモ」
「ってことはシバ、もうわかってるよねー?」
「わかってるよ。やればいいんだろ、やれば……」
俺がウシマジムンのマブイを両手ですくい上げ、少しづつセジを籠めてあげると、光が強くなったので、思わず地面に放り投げてしまう。
マブイはゆっくり大きくなりながら、ウシマジムンの身体を形成した。
「あー、気持ちかったモー! すごいモー!」
身長が俺の腰の高さくらいで、上半身がガッチリした黒い牛が、後ろ足2本で立っている。
「ウッシー、久しぶりシャモ。大丈夫シャモか?」
「そのシャモは、ミシゲーか? ひさしブルだモー。それより、この人たちはなんだモー?」
「さっき助けてもらってどぅしになった、シバ様とナビー様と琉美様シャモ! 今、ウッシーにセジを分けてくれたのも、この人たちなんだシャモ」
ウシマジムンは俺たちの前に来て、頭を下げた。
「そうでしたか、助かりました。ありがとうだモー! ここで寝てたら、車にひかれてしまったんだモー。」
俺は、思わず声を荒げてしまった。
「マジムンが車にひかれるのか!?」
「ひかれるっていうより、祓われるっていうほうが正しいモー。最近の車は、交通安全のお守りをつけているから、それにやられたんだモー。生きづらい世の中になったモー……」
……そうか! 国際通りでマジムンが車をよけていたのは、そういうことだったのか。
「ところで、なんでウッシーに会いに来たんだモー?」
ミシゲーマジムンに言ったように、俺たちが外来のマジムンを退治していることと、異世界から来たヒンガーセジの出所を探していることを伝えた。
「そのマジムンたち、最近よく見るモー。それに、目の前でクモがマジムンになるところを見たモー」
「その時の詳しい状況、おしえてほしいさー」
「わかったモー。あれは確か、ここからすぐそこの住宅街の近くで寝ていた時、黒いセジが空を漂っていたんだモー。不思議に思って追ってみたら、それがジョロウグモに吸収されて、急にマジムンになったからびっくりしたんだモー。でも、そいつは直ぐに石敢當にやられていたモー」
「ヒンガーセジはどの方角から来てたか覚えてるねー?」
「あの場所であの方向からだから……にしだモー!」
それを聞いて俺は、すぐに見つかる気になった。
「この辺りから西だと、すぐ海だな。これで捜索範囲、結構しぼれたんじゃないか?」
「はぁ? 何言ってる。そこはいりだろ。にしはやんばるの方角さー」
「方言だったのかよ!」
琉美も驚いている。
「そんなこと初めて聞いたよ。北のことをにしって言うなんて……」
沖縄の方角は少しややこしい。それぞれ、東、西、南、北と発音するので、北と西がこんがらがることがあるのだ。
結局わかったことは、ここから北にヒンガーホール(ヒンガーセジが流れてくる穴)があるかもってことだった。
ナビーは少し考えて、マジムン2匹にお願いした。
「ミシゲーにウッシー。他に何か知ってそうな仲間を紹介してくれないねー?」
「もちろんシャモ!」
ウシマジムンは見た目にそぐわない、もじもじとした様子になった。
「ウッシーも協力するモーが、お願いがあるモー」
「なんねー?」
「モー一度、モー少しだけ、セジを分けてほしいモー。あのセジ、癖になるモー」
「ウッシー、抜け駆けはいけないシャモよ! できるなら、ミシゲーもお願いしたいシャモよ」
……俺のセジが、中毒性のある危ない薬みたいになってるじゃねーか!
「わ、わかったよ。これから友達になるってことで、特別だからな」
「やったモー!」
「やったシャモー!」
2匹のマジムンに触れて、セジを籠めるとひどい状況になった。
「んモー! いいモー! すごいモー!」
「これシャモー! もうだめシャモー!」
ナビーと琉美からまた痛い視線を感じたので、セジを止めようとした時、勝手にセジが止まって身体の力が抜けてしまい、そのばで倒れてしまった。
……やべ、セジ切れか。




