第3話 本格始動
2019年3月1日早朝、花香ねーねーのマンションの前。
ナビーが選び、花香ねーねーが買った、特注で作らせた伝統工芸品の琉球かすりでできた藍色のジャージを着て行く。
なぜ、こんな高いジャージを作ったかというと、伝統工芸品には作る人のセジが強くこもっていて、戦闘での防御力が上がるからだそうだ。
だから、ナビーも紅型の着物を着ているらしい。
新車で125㏄、ブルーのスクーターとともに俺のマジムン退治生活が始まる。バイクはかっこいいし、これから始まる生活もとても楽しみだ。
しかし、1つだけ気に食わないことがある。
「おい! ナビー! なんだそのヘルメットは?」
バイクのシートに置かれている、2つの真っピンクのハーフタイプのヘルメットを見て驚愕した。こんなにも派手なヘルメットを見たことがない。
「かわいいだろー。私が選んだから大切にしてよー!」
「かわいい、かわいくないの問題じゃねえよ! こんなん被って外出たくねぇよ! しかも何でお揃い? 恥ずかしすぎるわ」
怒っている俺に、花香ねーねーがスッと近づいて耳打ちしてきた。
「……ここは我慢してちょうだい。シバ君にプレゼントしたいからと、この世界に来て初めて、自分のお金で買い物したのよ。あの子なりに真剣に選んだのだから、男として受け止めてあげなさい!」
俺のリアクションを見て、少し不安そうにしているナビーが気がかりになったので、不満はありつつもヘルメットを受け入れることにした。
「えーっと……お揃いで恥ずかしいけど大切にするよ。ありがとう、ナビー……」
「ぐぶりーさびたん! じゃあ、りっかー!」
花香ねーねーに言っておきたいことがある。
「花香ねーねーは、ヘルメットを買いについていかなかったんですか?」
「行かなかったわ。流石にあれを買おうとしたら止めてたわよ」
「10歳超えたくらいの子供に、ヘルメットを選ばせないでくださいよ!」
「ちょっと待って……シバ君あなた、いったいナビーをいくつだと思ってるの?」
「12、13歳位じゃないんですか?」
「何言ってるのよ! ナビーは18歳でここにきて、今は20歳よ!」
「はっ、20歳!? と、年上なのかよ!」
「20歳だし、しっかり者だったから大丈夫だと思ったのよ……」
新事実に驚愕したが、今更先輩やねーねーをつける気にならないので、呼び方はナビーのままでいいだろう。……何も言われてないし。
初めてバイクの後ろにナビーを乗せて、マジムン出現地に向かった。
ナビーはマジムンが現れると、気配を感知して方向が分かるらしい。気配の強弱である程度の距離も分かり、今感じる気配は近いそうだ。
那覇市内を流れる国場川沿いを走っていると、奥武山公園から気配がすると言うのでバイクを降りて公園の広場に行ってみた。
広場の中央付近、馬くらいの大きさのカマキリ虫が立っていた。その横で、そこで遊んでいたと思われる3才くらいの男の子と母親の2人が眠るように倒れている。
「シバ! あれは、イサトゥーマジムンさー。なかなか手ごわいよー!」
「でかっ! ってそれよりも、まさか、あの親子は死んでないよな?」
「マブヤーを落とされただけだから、私が治せるさー! マジムンの攻撃は、基本的にマブヤーを落とすためのものだから、身体が壊れてないなら問題ない。大丈夫よー」
「じゃあ、初めにあの親子を安全な場所に避難させないといけないな」
「それはダメ! マブイは落としたところでしか戻せないから、マジムンのほうを移動させて戦わんといけんよー」
突然、ナビーは懐から帯を出して、俺の右手首にぐるぐる巻き始めた。
「これから、私が長距離戦用の技をやるから見て覚えてねー! で、その帯はそのままにしておいて」
ナビーが、イサトゥーマジムンに向けている右掌の前に、リンゴ大の火の玉が作られた。
「テダコボーーーール‼」
技名を叫んだあと、火の玉がすごい速さで飛んでいき、イサトゥーマジムンの体に当たった。
少しよろけたイサトゥーマジムンは、体勢を戻した後、こちらに襲い掛かってきた。
「よし、走れ!」
何でこいつは作戦を仲間に教えないのかと苛立ちながらも、今は危険なので一生懸命走った。
広場の隣にある誰もいないテニスコートに逃げ込み、イサトゥーマジムンをおびき寄せることに成功した。
向かってくるイサトゥーマジムンの足元にテダコボールを放つと、後ろ飛びをしてかわし、距離をとって警戒している。
「はあ、はあ……おいナビー! いきなりすぎるだろ! 前もって心の準備をさせてくれよ!」
「ごめんごめん! 今まで1人だったから、忘れてたさー! それより、ちゃんと私の技見てた?」
「見てたけど、俺もできるようになるのか?」
「シバしだいだけど、中二病だから大丈夫よー!」
「何でここで中二病が出てくるんだよ!」
「シバの特殊能力に中二病ってあったさー? あれはよー、痛いくらい妄想力と想像力が強い証拠だから、イメージが固まりさえすればすぐできると思うよ」
右手首に巻いた帯を解くようにと言われたので解くと、強く巻かれていたため急激に血流がめぐっていくのを感じた。
「ジュワジュワーするだろ? その感覚をいつでもイメージ出来るようにしてね!」
ナビーは、イサトゥーマジムンにテダコボールで牽制をしながら、技の出し方も指導してくれている。
俺の右腕を掴み、イサトゥーマジムンに向けさせて暗示のように語りかけてくる。
「手のひらのジュワジュワーの前で、火の玉が現れるイメージしてごらん」
言われるがままやってみると、ジュワジュワーのほかに温かさを感じたと思ったらリンゴ大の火の玉が急に現れた。
「よし! いい感じー! この火の玉を絶対敵に当てるぞーと思いを込めて、技名を叫んで‼」
――絶対当てる! 絶対当てる! 絶対当てる!
「テダコボーーーーーーール!」
こんな大声出したことないくらい気合の入った技名を叫ぶと、リンゴ大の火の玉がスイカ大になり、イサトゥーマジムンの首元にすごい勢いで飛んでいく。両腕の鎌でガードされたが、5mほど後方に弾き飛ばすことができた。
「でっ、できたーーー!」
「あいやーなー! 最初っからここまでできるとはね。流石、生粋の中二病! 私の目に狂いはなかったさー!」
いつもなら、生粋の中二病と言われたことに何かしら反応するはずだが、今は初めてテダコボールが出来たのでどうでもよかった。
喜んでる間に、手の痺れが無くなっていた。
「シバ! 私が接近戦でダメージを与えておくから、今の感じでもう一発自分でやってみて!」
ナビーがイサトゥーマジムンに向かっていくのが見える。
自分は技を出すことだけに集中しても大丈夫そうなので、教えてもらったことを繰り返すことにした。
手のひらのジュワジュワーをイメージしてみる。しかし、痺れをイメージなんてしたことないのでなかなか難しい。
ジュワジュワーをとばして、先程と同じように火の玉をイメージしてみるが、やはり何も起こらない。
……やっぱり、ジュワジュワーは大切なんだな。でも、戦闘中にまた帯を手首に巻くのはよくないよな。
ジュワジュワーしていた時のことを思い出してみる。
火の玉が作られたとき、全身から何らかの力が右手に集まるような感覚があったように思える。たぶんそれがセジなのだろう。
目を閉じステータスを確認した。
柴引子守
Lv.3
HP 34/34 SP 17/22
攻撃力 88 守備力 80 セジ攻撃力 6 セジ守備力 6 素早さ 4
特殊能力 中二病 マージグクル 昼夜逆転 身代わり
特技 テダコボール Lv.1
SPが5減っているので、やはり、あの感覚はセジで間違いないはずだ。
ということは、ジュワジュワーは集中しやすくする為のナビーが考えた工夫なのだろう。それなら、強めに手をたたけばよいのではと思い、パチパチと拍手するようにやってみる。
……左手も痛いな。
右手だけに集中しずらいことに気が付き、1人で恥ずかしくなる。が、それならと右手だけ地面に叩きつけた。
右手をイサトゥーマジムンに向けて火の玉をイメージすると、リンゴ大の火の玉が現れ、当てる、当てる、と念じて技名を叫ぶ。
「いくよ、ナビー! テダコボーーーーーーール‼」
ナビーが咄嗟にイサトゥーマジムンから離れると、俺が放った火の玉がイサトゥーマジムンの顔に当り、その衝撃で仰向けになってもがいている。
……もう一発、至近距離で打てば倒せるな!
すぐにもう一発テダコボールを打てる自信があったので、イサトゥーマジムンに向かって思いっきり走りながら、右手に集中した。
火の玉が作られ、あとは当てるだけだと技名を叫ぼうとした時、目の前にナビーが横切った。
「イシ・ゲンノーーーーー!」
見るのは2度目。あの、石の拳を振り下ろす技が目の前のイサトゥーマジムンを消し去り、黒いヒンガーセジが黄金勾玉に吸収された。
「うん、ちびらーさん!」
「うん、ちびらーさんじゃねーよ! 気持ちいところ持っていくな! それに、俺を育てるんじゃないのかよ!?」
「この快感はゆずれないさー! それより、もうテダコボールは大丈夫そうだねー。数こなしてレベル上げたらもっと強くなるから、がんばってね!」
ナビーと俺は、急いで倒れている親子のもとに向かった。
「今からマブイグミでマブイを戻そうねー」
聞いたことがある。
沖縄では、胸をさすりマブヤーマブヤーと言いながら、びっくりして落とした魂を元に戻すおまじないみたいなものを、マブイグミと呼んでいたと記憶している。
ナビーは、男の子の胸に両手をあてがい、呪文を唱えた。
「マブヤー、マブヤー、ウーティキミソーリ……マブヤー、マブヤー、ウーティキミソーリ……マブヤー、マブヤー、ウーティキミソーリ」
唱え終わると、青白く淡い発光がして男の子が目を覚ました。まだ、意識はもうろうとしている様だ。
母親の方にもマブイグミをして目が覚めようとした時、ナビーが俺の腕をつかんで引っ張りながら、バイクを置いた方向に逃げるように走った。
「何で逃げるんだよ?」
「あんなところで目が覚めて、その近くに私達、いや、シバみたいのがいたらどうなると思うねー?」
何で俺だけに言い直したかはさておき、気を失って起きたら知らない人が隣にいるとパニックになりそうだなと思った。
普通の人にはマジムンが見えないので、あの親子は訳も分からないまま気を失ったと思うと、恐ろしく感じた。
俺の腕を離したナビーが、走るのをやめて先ほどのテニスコートの方向に視線を向けている。
「なんでよー!? まだ、マジムンの気配を感じるさー!」
「イサトゥーマジムンが倒せてなかったってこと?」
「あの感触は確かに倒したと思うんだけどなー……とりあえず、マジムンはいるみたいだから急いで行こう!」
今日はよく走るなーと思いながら先程のテニスコートに行ってみると、イサトゥーマジムンを倒した周辺に動くものが見える。
長さは4m位の黒くて細長いものが3本、掘り返したてのミミズのように暴れていた。
ナビーは驚きながら叫んだ。
「えー! しにはごー! なんかあれ?」
ナビーは知らないようだが、俺はこいつが何か見当がついた。
5、6才の頃に、よく昆虫図鑑を抱えて虫取りをしていた時期があった。その時、カマキリを初めて捕まえて、図鑑で調べたときのことを思い出した。
「こいつは恐らく、ハリガネムシなんじゃないかな? カマキリの腹の中にいる寄生虫で、水につかるとお尻から出てくる気持ち悪い虫だよ……多分」
「みず? もしかして、私がやったカタブイって言う技で、局地的に降らす強い雨のせいかも……」
……そんな技をしてたと気づかなかったな。そうか、ステータスを確認してた時だったから見てなかったのか。
「出てきたのはしょうがない、あれをどう倒すか教えてよ!」
「そうだな、あれだけ暴れられると近寄れんさー。暴れるだけで向かってこないから、とりあえず遠距離攻撃だね!」
俺は、右手を地面に叩きつけて意識を集中すると、ナビーと同時にテダコボールを放った。
2つの火の玉が、ハリガネマジムンに飛んでいくが、蠢くハリガネマジムンにはじき返される。
「あいやーなー! でーじなとん! うすまさかたさんなー! シバ、ちゃーすが?」
「!? 興奮しすぎて方言ばっかで聞き取れねえよ! 標準語に戻してくれませんかねー?」
「ごめんごめん……しに硬いけどシバはどうしたほうがいいと思うねー?」
(うすまさ)の訳が(しに)って、方言で方言を訳しやがった。……まあ、そこは解るからいいけど。
それより、俺が倒し方なんてわかるわけがない。昆虫図鑑にも、カマキリの情報だけ載ってて、ハリガネムシのことなんて書いてなかったと思うし見た記憶がない。
攻略法を考えてみる。
ハリガネムシは3匹いてものすごい速さで蠢いている。それに加え、ハリガネの名前の通りとても硬い。硬さと速さで攻撃をはじくし、近距離攻撃ができない。
それなら、防御を下げる技か、素早さを下げる技があればなんとかなりそうだ。
……そういえば、初めてナビーと会ったとき防御力を上げる技をしてもらったから、その逆もあるんじゃないか?
「ナビーは、敵の防御力を下げたり、素早さを下げる技って出来る?」
「防御力は下げられんけど、素早さなら下げられるさー!」
「じゃあ、お願いしていいかな?」
「まかちょーけ‼」
ナビーは、ハリガネマジムンに向かって、おいで、おいでと両手で招くように上下に腕を動かし始めた。
「ヨンナー、ヨンナー」
薄い霧のようなものがハリガネマジムンの周りに現れ始めると、1匹ずつ視認できるほどに動きが遅くなった。
「セジで創った霧で圧力を掛けるんだけど、この技してる時は他のこと出来ないから、シバが倒してちょうだい!」
「わかった! やってみる!」
俺ができることはテダコボールだけなので、とりあえず放ってみると、硬い体の表面にもきちんと傷がついていることが確認できた。
何発放っただろうか、SP切れでもう火の玉が現れなくなったが、ハリガネマジムンの体は焦げてボロボロになっており、後はとどめを刺すだけの状態になっている。
今度は、ヨンナーを解いたナビーがテダコボールを3発放つと、3匹に1発ずつ当たり、消滅してヒンガーセジが黄金勾玉に吸収された。
「ふぅ、攻撃されてないのに、なかなか大変だったさー」
「そうだな……なんか異様に疲れたよ」
「SP切れたら戦えんから、休憩しないとねー」
花香ねーねーから支給されたスマホを見ると、もう正午を過ぎていた。
ナビーに持たせるのは危険だと、財布の管理は俺がすることになっていて、毎日の食事も任されている。
「じゃあ、どこか食堂でお昼して帰るか! 何が食べたい?」
「豚肉!」




