第28話 騒動終結
「……終わったのか?」
白虎が俺をめがけて走ってくるが、途中でシーサー化が解けると、俺のもとに来る前に倒れてしまった。
あの一撃にすべてをかけたのだろうか、セジが切れているみたいだ。
よく見ると、俺以外はセジ切れしてその場で倒れている。
そこに琉美があわてて駆けつけてきた。
「みんな、大丈夫?」
「一応、セジが切れただけだから、休めば動けるようになるよ。まずは、ナビーを回復してあげて。少しはダメージくらっているはずだから」
グスイをかけられたナビーは、力ない声で琉美にお願いした。
「剛のマブイが落ちている……マブイグミしてあげてちょうだい」
「え!? あの人に?」
琉美はためらいながらも、砂浜で仰向けに倒れている剛にマブイグミを始める。
「マブヤー、マブヤー、ウーティキミソーリ。マブヤー、マブヤー、ウーティキミソーリ……」
いつもより長いマブイグミを止め、琉美は泣きそうな顔でナビーに言った。
「戻らない……マブイが身体に来てくれないの! 私、ちゃんとできてなかったのかな?」
少し回復したナビーが起き上がってきて、剛の横に座った。
「琉美のマブイグミは、ちゃんとできているはずだけどね? 今度は私がやってみるさー」
ナビーは琉美よりも長くマブイグミをしたが、結局マブイは戻らなかった。
しばらく黙ったナビーが口を開いた。
「嫌がっている……」
「どういうことだ?」
「自分の身体にヒンガーセジが大量に入っていたからかね? 剛のマブイが身体に戻りたくないって言ってるみたいさー」
「ナビーにでも治せないのか?」
「こんな事、初めてだからね……」
どうすることもできずに黙っていると、上運天さんから電話がかかってきた。
『もしゅもしゅい、上運天ですけど、しばふぃきさん、今どこですか?』
『今、波の上ビーチですけど、どうかしましたか?』
『古謝さんが久高ずぃまから戻ってきますたので、どこに連れて行けばと思いますて』
『ちょっと、ナビーにきいてみます』
スマホを降ろし、ナビーに報告する。
「花香ねーねー帰ってきたって。どこに行けばいいかって聞いてるけど」
「!? もう修行終わったんだね。流石、花香ねーねー! すぐ、ここに来てもらって!」
それから20分後、花香ねーねーが沖縄では見たこともない茶色のロングコートを着てやってきた。
「なんですか、そのかっこうは? 露出魔みたいですよ」
「わ、私もこんなの着たくないわよ! 香さんに全身隠せる服を用意してってお願いしたら、これを持ってきたのよ……」
そんなことはどうでもいいと言わんばかりに、ナビーが慌てて花香ねーねーに言い迫った。
「花香ねーねー、早く剛を! 私のマブイグミでは治せないから……」
「又吉さん……ナビーの表情を見るに、又吉さんは悪者じゃなかったってことかな?」
花香ねーねーがロングコートを豪快に脱ぐと、中には真っ裸ではなく、真っ白い着物を着ていた。この白装束はノロの正装らしい。
「休みを取ってまで頑張った、修行の成果を見せないとね!」
花香ねーねーはマブイグミをするように呪文を唱えた。
「マブヤー、マブヤー、ウイーマースン。マブヤー、マブヤー、ウイーマースン……」
ナビーが目を輝かせて花香ねーねーをみている。
「ナビー、これはマブイグミと何が違うんだ?」
「これは最高峰のマブイグミといわれるグミヌチジ。マブイグミはマブイに体の位置を教えてマブイに来てもらうんだけど、グミヌチジはマブイを追いかけて連れ戻すわけさ。だから、マブイの場所さえわかれば、どこからでもマブイグミができるわけよ」
「す、すごい。そんなことができるなんて」
俺も驚いたが、琉美はもっと驚いていた。
実際にマブイグミをしているので、その難しさが分かるみたいだ。
「ふー。何とか戻ったわ!」
剛がゆっくり目を覚ました。
「……しゅ、舜天はどうなった?」
ナビーは剛の横に座り、しおらしく答える。
「どこかに消えてったよ。多分、あっちの世界に戻ったんだろうね。とりあえずは一安心さー」
「そ、そうか……」
剛がゆっくりと立ち上がると、ナビーもそれに続いた。
「古謝さん、お久しぶりです。助けてくれたようで、ありがとうございます」
「問題なさそうでよかったです。それより、事のいきさつを説明してもらってもよろしいですか?」
「だからよ! なんで剛が舜天といたわけ?」
剛は、この場所で舜天を見かけた日から、今日までのことを説明してくれた。
俺たちの行動とリンクすることが多すぎたので、すべて本当のことなのだろう。
自分がマジムンになってまで、舜天を見張っていたと聞いたときは、正直、恐ろしい人だと感じた。
「そうだったんだねー……じゃあ、私たちを公園で襲ったことは、許してあげないとね。シバもそれでいいでしょ?」
「うん、もちろん」
「許してくれて、ありがとう。あの時は、すみませんでした」
剛が深く頭を下げて謝罪をしている。
俺は、言っておきたいことがあったので、強い口調で剛に言い迫った。
「話を聞くに、俺たちを強化するために、いろいろやっていたのはありがたかったです。逆にお礼を言うべきなのかもしれません。ですけど、あなたはマジムンで被害にあった人たちのことを少しでも考えましたか? どれだけ被害が出たかわかってますか?」
「!?」
剛は今、初めてそのことに気が付いたようだ。膝から崩れ落ちて頭を抱えている。
「一昨日から今日まで、私と琉美でマブイグミをした人数が60人くらい。病院に搬送されて、今から助けないといけない人が65人。剛ならこの数の大変さがわかるよねー?」
花香ねーねーが追い打ちをかける。
「それに、石敢當のことも忘れないでよね。ライジングさんによると、75個の石敢當を取り付けたと言っていたわ」
「ちょっと待って! 花香ねーねー、あいつのことをライジングさんって呼んでるんかい! ……ごめん、今は関係なかったですね」
……。
変な空気になってしまった時、琉美が助け舟を出した。
「自分がやったことをわからせるのは大切だけど、それと同時に成果も認めてあげないとあんまりだよ……」
俺とナビーと花香ねーねーは、攻めるように言ったことを反省した。
「そうだったね。舜天がこの世界に来たのに、この程度の被害で済んだのは剛のおかげさー。それに、剛の不意打ちがなかったら、今頃は舜天に全滅させられていたはずだからねー」
「そういってくれてありがとう……でも、僕の龍正拳は髪をほどいただけなのに、まさか決定打になるとは思わなかったよ」
ナビーが異世界琉球の舜天のことを思い出している。
「そういえば、うわさで聞いたことがあったさー! 舜天は生まれつき頭頂部の右側に不自然なこぶがあって、それに強い劣等感を持っている。だから、そのこぶが目立たないように結った髪で隠したって。自分だけ結った髪が右側なのはおかしいからって、部下にまで同じ髪形強制していたさー」
「だから、ずっと手で隠していたのか。これって、琉球王国にとってはいい情報なんじゃないか?」
「だからよ。まさか、あそこまで恥ずかしがるとは思わなかったさー。これも、剛が頑張ってくれたから知れたことだからね! 一番の功績者は剛だよ」
「怖くても頑張ってよかったよ。でも、けじめとして、石敢當の費用は絶対返すから。その、ライジンなんとかさんに伝えてもらっていいかな?」
話が落ち着いたとき、琉美がとんでもない爆弾を投下してきた。
「まあ、私はあなたのせいで、自殺したんですけどね!」
「え!?」
「琉美、ドSが過ぎるぞ!」
それから3日かけ、花香ねーねーを中心に病院に搬送された人たちのマブイグミを全員に終わらせて、那覇で起こった事件は解決した。
毒ガス流出と騒がれ調査をしていた沖縄県の調査団も、原因を突き止められるはずもなく、原因不明ということでうやむやのまま終息してくれた。




