第27話 舜天
2019年4月16日。
早朝から、最後のマジムン発生地の新都心に向かい、マジムン退治とマブイグミを終わらせた。
これで解決というわけではないが、戦い続きだったので少し気が楽になっている。
レキオス青年会が順調に石敢當を取り付けてくれたので、マジムンが再発生せずに済んでいるのが本当にありがたかった。
病院に搬送された人たちのマブイグミはまだ何も解決していないが、花香ねーねーがアマミキヨたちのところにアドバイスをもらいに行ってくれた。
そこで言われたのが最高峰のマブイグミ、グミヌチヂを覚えろとのことで、花香ねーねーは昨日から休暇をとり、神の島と言われる久高島に修行に行ってくれている。
午後1時半。
花香マンションで休憩していると、ナビーはマジムンの気配を感知した。
「これは、剛の反応みたいだね!」
「このタイミングだと、誘ってる気がするな」
「そうだね。でも、行くしかないさー」
琉美が心配そうにきいてきた。
「またあの人と戦うの? か、勝てるよね……?」
「大丈夫よ! あの後、何匹のマジムンを退治したと思っている。私たち、あの時より確実に強くなってるから、心配しないで! それに、今回は私のとっておきを持っていくからね」
ナビーは自分の部屋に行き、クローゼットの奥から白い布に巻かれた、長いものを持ってきた。
布の中身は、ナビーの身長と同じくらいの長さの木の棒の先に、3つの鉄の筒が束ねられてついている物だった。
「なんだその棒は? 何をするものなんだ?」
「これはヒヤーと言って、この世界で言う鉄砲みたいなものだね。あっちの世界ではずっと使っていた、私の得意武器さー!」
「これが花香ねーねーに禁止されていた、ナビーの得意武器か。まあ、こんなもの持ち歩いたら職質されるよな……。鉄砲ってことは、その先から弾がでるのか?」
「本当の使い方はそうなんだけど、私の場合は、これを使ってやる火系統の技が2倍で、消費SPは半分になるさー」
「ティーアンダーの上位互換じゃねーか!」
少しショックだったけど、ここにきてナビーの戦力が上がるのはとても心強い。
琉美がヒヤーのことをネットで調べると、すごい事実を発見した。
「ねえ、シバ。このヒヤーってやつ、この世界にもあったみたいよ。しかも、火縄銃より早く琉球に伝わった鉄砲なんだって」
「まじか!? まあ、これを見て鉄砲だと思う人がいなくて、広まらなかったんだろうか……って、そんな話している場合じゃない。早く剛を倒しに行かないと」
琉美は前回と同じように遠くから見守ってもらうことになる。
「ナビー、シバ。絶対勝ってちょうだいね」
白虎が琉美の足に体をこすりつける。
「ごめんごめん。白虎も頑張ってね!」
「ワン!」
ステータスを確認する。
Lv.40
HP 312/312 SP 320/320
攻撃力 285 守備力 455 セジ攻撃力 182 セジ守備力 366 素早さ 104
特殊能力 中二病 マージグクル 昼夜逆転
身代わり ティーアンダー
特技 テダコボール Lv.9 ティーダボール Lv.5
イシ・ゲンノー Lv.6 セジ刀 Lv.7
ヒンプンシールド Lv.9
守備系の数値が異常に上がっていることが気になるけど、まあいいだろう……。
覚悟を決めて剛の気配がする方向に向かった。
波の上ビーチに着くと、剛ともう1人男性が立っていた。
異世界琉球から来たという、人のマジムンなのだろうか。
いざというときのため、白虎はシーサー化させて物陰に潜ませているので、ナビーと俺で2人の所に向かった。
「剛! 決着をつけに……しゅ、舜天!? なんでいゃーがここにいる!?」
……舜天って、でーじ強かったってナビーが言っていた、為朝軍の3将軍のことか? そんな大物がこの世界に来ていたとは。
ビーチを見ていた舜天は、こちらに視線を移す。
「おおおおおお! やっと見つけたぞ、ナビー!」
舜天の体内からヒンガーセジが溢れ出して、身体の周りで黒いオーラのように漂っている。剛の時の比ではないほどに。
剛は何も言わずにただそこに立っているのだが、少しおびえているように見えた。
なぜか鼻息が荒い舜天に、ナビーが問いかけた。
「私を追ってきたってことね? 何のために?」
「ナビー! そなたをもらいに来た! 我の妻となれ!」
『はぁ!?』
俺とナビー、それに剛までも同じ反応をした。
「急になに言ってるばー? いゃーと1回しか会ったことないし、敵同士だし……」
「そう、あの戦いを覚えてるか? たしか、護佐丸だったか? 我がやつと戦っているとき、一緒にそなたもおっただろ。激しい戦いではだけた着物から見えた見事な膨らみ。そなたの胸に見とれすぎて、戦いに集中できずに引き上げた。その時、そなたを我の物にしようと決めたのだ!」
……何こいつ!? ナビーの胸を追って、異世界にプロポーズしに来たのか?
「はぁ? だからジロジロ見てたば? 私を警戒してると思ってたのに。あの時、『舜天がナビーを警戒していたおかげで助かったよ』って護佐丸さんにお礼言われて嬉しかったのに……」
舜天はゆっくり近づいてきて、ナビーの正面で片膝をつき、手を差し伸べた。
「ナビー、我と一緒に元の世界に帰ろうではないか」
「……無理。はごー、いらー、どぅーだけでけーれ」
ナビーは持っていたヒヤーにセジを籠め、低い体制の舜天の顔をめがけて思いっきり右からなぎ払いをした。
キーーーン!
不意打ちにもかかわらず、舜天は刀を半分ほど金色の鞘から抜刀して、ヒヤーの先を受け止めている。その刀は、本物の千代金丸だった。
「あー残念だ。しょうがない、力ずくで連れていくことにするぞ!」
残りの刃を抜刀する勢いでヒヤーをはじくと、それに引っ張られてナビーは右後方にのけぞった。
「大丈夫かナビー?」
「大丈夫だけど……。正直言って、私たちで舜天に勝てる気がしないさー。どうしようかね?」
「でも、ナビーが結婚したらすべて丸く収まるんじゃ?」
ナビーはヒヤーの石突で俺の腹を小突いてきた。
「えー、シバ! いゃーこの戦いが終わったら覚えとけよ!」
ナビーは本気で怒っていた。冗談でも言ってはいけなかったようだ。
……やべ。戦いに勝っても負けても、俺だけ大変なことになりそうだな。
舜天が剛に話しかけている。
「剛、主は戦わないのか?」
「僕が加わっても舜天様の邪魔になると思うので、舜天様の雄姿を見学させてもらいます」
「ありがたいな。久しぶりに楽しむとするか」
……剛が戦わないのはこっちもありがたい。2人で舜天に集中して戦えば、どうにかなるかもしれない。
ナビーがヒヤーを両手で持って、正面に突き立てている。
「基本的に私が戦うから、シバは自分を守りつつサポートお願いね」
「わかった、気をつけろよ」
「ティンサグヌサニマチュン!」
ナビーがヒヤーにセジを籠めると、大木の様なホウセンカが現れて、それにたくさんついていた楕円形の種が周辺に落ちていった。
「なんだこれは? 邪魔くさい」
舜天は足元に落ちた種を刀で無造作に払うと、触れた瞬間に種がはじけるように爆発した。
「妖鎧!」
舜天を纏っていたヒンガーセジが黒い鎧となり、舜天のダメージを軽減させている。
「触れたら弾けるのか。こざかしい」
舜天は納刀して居合の構えをすると、爆発する種をおかまい無しに、ナビーへ一直線にすっ飛んできた。
「金・銀・紅」
金の鞘から銀の刀身がナビーに襲い掛かる。
ナビーは軽くジャンプしてヒヤーで受けると、勢いよく上空にとばされた。その先でヒンプンシールドの足場をつくり、一息ついている。
舜天はもう一度納刀して居合の構えをしていた。
「血がでないとこの技は締まらないな。ナビー、そなただいぶ腕を上げたようだな」
今度は俺を見てきいてきた。
「それにしても、さっきから気になっていたのだが、おぬしとナビーはどのような関係なのだ?」
「仲間だ」
「婚約者だ!」
ナビーが俺の声をかき消すように、ありもしないことを叫んだ。
「はい!?」
……そうか、さっきの仕返しか!
「そうだったのか。では、少しの未練も残させぬように、死んでもらうぞ!」
舜天がすごい速さで向かってくる。まだ間合いに入ってもいないのに、早めに抜刀した。
「居合突き!」
居合の勢いを使った鋭い突きが向かってきた。
いつでも戦う心構えをしていたので、焦りはなかった。
「ヒンプンシールド・ククヌチ!」
ヒンプンシールドを9つ重ねて目の前に設置した。
……さすがに全部は壊せないだろ。
予想が外れた。
舜天は、分厚いヒンプンを壊すというより貫くように突っ込んできて、俺を突き刺しに来た。
……ヤバイ!
「ティーダボール・ミーチ!」
大きな火の玉が右横からすごい速さで降り注ぎ、舜天に直撃した。
ナビーが上空からヒヤーで放ったものだ。
「ヒヤー、すごすぎだろ!」
吹っ飛ばされて転がる舜天に、落ちている種が触れることで爆発した。追加でダメージを与えている。
……ナビーがこんなに強いなら、勝てる気がしてきたな!
「今のはなかなかよかった。久しぶりに攻撃を食らったな……」
舜天は何事もなかったように起き上がり、鎧についた砂を手で払った。
「今の攻撃が効いてないのか? どうすればいいんだよ……」
ナビーは俺の横にきていた。
「多分、これからはシバを襲うと思うから、私の方がサポートにまわろうね」
……いやー、無理だろ!
「来るよ!」
舜天が納刀して俺を見据えて構えている。
基本的な戦闘スタイルは、大技の居合から入るみたいだ。それがわかれば対策しようはある。
「瞬殺」
シンプルな居合だが、他の技よりもう一段階速い。
ナビーがすごい数のテダコボールを、すごい速さで放っているが、これもお構いなしに向かってくる。
迎え打てるような技は俺にはないが、ナビーのためにすきをつくることはできる。
ジャージの右ポケットからキーホルダーをとって、目の前でセジを籠めた。
「セジ刀・千代金丸!」
「ん!?」
舜天が途中で抜刀を止めて自分の刀を見た。
「我の……ではないな」
その一瞬、時が止まった。
ナビーはチャンスを逃さない。
「ヒンプンシールド・トゥー」
上限いっぱいのヒンプンシールドの箱で舜天を閉じ込めて、その中にヒヤーの先を突っ込んだ。
「ヒンプンシールド・ククヌチ!」
ナビーのやりたいことを理解したので、俺はヒンプンシールドを追加で補強した。
「ティーダボール・ミーチ! ミーチ! ミーチ……」
ナビーはセジが切れるまで、撃ち続けた。
……今度は俺の番だ。
ヒヤーを突っ込んでいた穴に向かって、俺もティーダボールを撃つ。5発ほど打った時、ヒンプンシールドがすべて吹っ飛ばされて消滅した。
「おんのれーーーーーーーー! 殺す殺す殺す!」
……クソッ、これでもダメなのか?
ナビーは片膝をついて、小さな声でつぶやいた。
「ごめん、シバ。もう動けないさー」
その時、剛の叫び声が聞こえた。
「纏え! 6段のオーラ!」
舜天に集中しすぎて、剛がいたことを忘れていた。
絶体絶命の状況であきらめかけた瞬間、剛がまさかの行動にでた。
「龍正拳!」
剛が放った黒龍は、舜天の右側から頭部に直撃した……が、首がこくりと傾くだけでダメージを与えられていないようだ。
『えっ!?』
俺とナビーは、何が起きているのかわからずに驚いている。
首の傾きを戻した舜天の結っていた髪がほどけると、ピンポン玉大の不自然なこぶがそこにはあった。
それを恥ずかしそうに手で押さえて剛に向かって怒鳴り始めた。
「剛! どういうことだ! 裏切るのか!? ってかこっち見るな」
「裏切るも何も、僕は始めからお前のために動いたことなんてなかったんだよ! それにしても、全然効いてないのか?」
「我の妖力が我に効くか阿呆が! 詰めが甘いわ。ってかこっち見るな」
ナビーは立ち上がり、大声で剛に声をかけた。
「剛! これ使えーーーーー!」
ナビーは自分の黄金勾玉を剛に投げると、ひざが崩れてその場で座った。
剛が黄金勾玉を首にかけると、自身に入っていたヒンガーセジがすべて吸収されていった。
「纏え、4段のオーラ! 龍正拳!」
青いオーラが剛を纏い、青龍が舜天に向かって飛んでいく。
舜天は左手で右の頭のこぶを隠しながら抜刀し、青龍を振り払った。
……あれを簡単に振り払うのかよ!
「もういい……見られたから帰る。これで最後だ」
今度は鞘に納めずに居合のような構えをすると、刀身が黒く20mくらい伸びた。
「なぎ払斬……」
ピューイ!
「獅子突進!」
舜天が技を出そうとした瞬間、ナビーが指笛を鳴らし叫んだ。
物陰から舜天をめがけ一直線に、目にもとまらぬ速さで光が走った。
「白虎!」
舜天は何もできずにそのまま海に向かって飛ばされていった。
「次来たときは、ナビーもろとも殺す」
海側にある橋の向こう上空で舜天は浮いていた。
頭のこぶを抑えながら黒い穴を出現させると、その中に消えていった。




