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チャンプルーファンタジー  作者: 新里胡差
那覇パニック編
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第26話 剛の思惑

 2019年4月16日、午後1時。


ごう、あれはビキニと言ったか? まことによきもの。眼福がんぷくだ!」


「そっ、それはよかったです……」


 那覇市内にある波の上ビーチで、まだ4月にもかかわらず海水浴を楽しんでいるビキニの女性を凝視しているこの男は、ナビーと同じ異世界琉球から来たマジムン3将軍の1人、舜天しゅんてんである。


 身長は僕と同じくらいの165cmで普通体型。髪は頭頂部の右側で小さなお団子状に結う、カタカシラという髪型をしている。

 紺色の着物を着て、腰には金色の刀をさしている。この世界の40代くらいにみえるが、正確な歳はわからない。



 3月に入ったころ、何もする気が起きずに毎日家に引きこもり、ダラダラと過ごしていた時、ふと、海を見たくて波の上ビーチに足を運んだ。

 その日は暖かく、観光客らしき人が水着姿で日光浴をしている近くで、今と同じように舜天しゅんてんは女性を凝視していた。

 明らかに目立っているのに誰も気に留めていないことに疑問を持ち、しばらく観察していると、身体の周りから黒いもやがあふれてくる。

 そのもやは、半年前まではよく見ていたヒンガーセジ(汚れた霊力)そのものだったが、僕は黄金勾玉クガニガーラダマがないと見えないはずなので疑問に思っていた。

 僕に見られていることに気が付いた舜天しゅんてんが、近づいて声をかけてきた。


「お主、我が見えているのか?」


 こいつはマジムン(魔物)だ。そう思ったが何もできない。

 ヒンガーセジ(汚れた霊力)が引っ込み敵意を感じなかったので、とりあえず気に障らないように接してみることにした。


「はい、見えてますけど……あなたはどちら様ですか?」


「我、源為朝みなもとのためともに使える3将軍の1人、舜天しゅんてんと申す。探し人がいてこの世界に来たのだが、どうも見つけられずにいてね……尋ねようにも皆、我が見えておらんので困っておったのだ」


 ……舜天しゅんてん!? ナビーが言っていた、異世界琉球の強かったってやつか? こんなやつがこの世界に来ていたとは。それに、探し人はナビーのことだろうか?


 今まで倒してきたマジムン(魔物)、すべてを足しても届かないであろうヒンガーセジ(汚れた霊力)を体の内に感じた。

 それに、ずっと空手をやってきた僕は、舜天しゅんてんのたたずまいや足の運びなどから武士としての実力も相当なものだと感じ取っていた。


 ……今のナビーでは絶対に勝てない!


 その時、舜天しゅんてんを野放しにしていたら、この世界は終わってしまうと思った。どうにか僕がコントロールしないといけないとも思った。

 それに、ナビーに伝えないといけない。


「そうなんですか。それなら、僕がお供しましょうか? 何か役に立てるかもしれませんし」


「そうか、そうか! ありがたいぞ! この世界を征服しても、お主だけはそのままにしてあげようじゃないか!」


「あっ、ありがとうございます……」


「うん、うん。じゃあ、もう少し楽しませてもらおう」


 舜天しゅんてんはご機嫌のまま、再度、水着の女性を凝視し始めた。

 女性が水着の食い込みを指で治す瞬間、舜天の内側からヒンガーセジ(汚れた霊力)があふれ出してきた。

 どうやら、興奮したら自分の意志に関係なく漏れ出てしまう様だ。


 ヒンガーセジ(汚れた霊力)が漏れ出てるとき、ナビーが感知してここまで来たら大変なことになる。

 僕がナビーと協力して戦っても全く勝てる気がしないので、ナビーと接触させない方法を考えなければならない。

 どうにか、ヒンガーセジ(汚れた霊力)を身体に引っ込める方法がないか、舜天しゅんてんを観察して見つけることにした。


 よく観察していると、あることに気が付いた。

 舜天の身体の表面にはヒンガーセジ(汚れた霊力)まとっているのだが、感情が高ぶると体外に漏れ出ているみたいだった。

 このヒンガーセジ(汚れた霊力)のせいで、一般人には見えてなかったのだろう。


「あの……舜天しゅんてん様。漏れているもやを引っ込めることはできないのでしょうか? 多分、それのせいでみんなに気が付いてもらえなかったのではないかと思うのですが……」


「この妖力ようりょくのことか? 我くらいの強さになると、常に漏れ出てしまうのでな。それに、度が過ぎると自分でも制御できなくなる。まあ、多くなりすぎたら妖兵ようへいをつくればよいからな」


 ……その妖兵がマジムン(魔物)ってことなのか! 


 マジムン(魔物)を発生させてヒンガーセジ(汚れた霊力)を分散し、舜天しゅんてんを少しでも弱体化させていく方向でことを進めることにした。


「その妖兵をつくるところを見せてもらえませんか? 僕の家に行きましょう」


「いいのか!? では、案内よろしく」


 恐怖はあったが、舜天を自分の家に連れて行き、そのまま住まわすことにした。



「ちょうどいい。妖兵をつくるぞ」


 舜天しゅんてんは、部屋の角においているごみ箱の横で、エサを探しているヤモリを確認すると、右手をヤモリに向けてヒンガーセジ(汚れた霊力)を放出した。

 ヒンガーセジがヤモリの身体に吸い込まれて、1mくらいのヤールー(ヤモリ)マジムンが現れた。


「はっ!」


 半年ぶりの感覚がこみあげてきて、思わず身構えた。


「そう焦るでない。攻撃するなと念じたから襲いはせんよ」


 ……マジムン(魔物)が襲わない? これは利用できるんじゃないか!?


「舜天様。この世界で活動するなら、妖力があると不便じゃありませんか?」


「そうだな。歩き回るだけで体が痛いこともよくある。正直、鬱陶うっとうしいと思っていたところだ」


「それなら、僕にひん……妖力を半分預けてはいかがでしょう。そして、僕の力を半分預けるので、それで妖力を包み込めばこの世界で何事もなく活動できると思いますが……」


「そんなことができるのか。我はこの世界のことは無知ゆえ、そなたに任せよう。とりあえず半分受け取れ」


 ヒンガーセジ(汚れた霊力)が流れ込む。

 敵の力が身体に入っていくのは気持ち悪いが、特別おかしなことは起こらなかった。

 その時、久しぶりに自分のセジ(霊力)を感じた。

 ヒンガーセジ(汚れた霊力)が出てこないように自分のセジ(霊力)で包み込むイメージをすると何となく成功している感覚をつかんだ。


「それでは、そなたの力を借りるぞ」


 抑え込んでいる自分のセジ(霊力)を半分持っていかれると、ヒンガーセジ(汚れた霊力)に飲み込まれそうな気持になり、全身から汗があふれ出してくる。

 気を抜けば自分がマジムン(魔物)になるのではないかと恐怖を感じるほどだ。


「おお、身体のこりがなくなったみたいだ! この世界にきてずっと圧力がかかってたのだが、お主の力に守られている様だ」


 ……成功だ。これで、ナビーが舜天しゅんてんと接触しないですめばよいのだけど。


「そうですか……よかったです」


「!? お主、苦しそうだな? 我の力を恐れているのか? 大丈夫、世話になるお主をどうこうすることはない。力を抜け」


 その言葉に嘘は感じられなかったので、恐る恐る力を抜いてみると何事も起こらなかった。


「そうだ、我とお主の間には義理が生まれた。お主の力を利用させてもらってるんだ、我の力も必要とあらば使ってよいぞ。なくなりかけたらまた与えよう。なんせ、我自身からあふれてくるのでな」


 ……僕がヒンガーセジ(汚れた霊力)を使う? もしかして、マジムン(魔物)もつくれるのか?


「僕も妖兵をつくれますか?」


「つくれはするがお主、我が言うのもなんだが、自分の世界に被害が出ることは考えてるのか?」


 それはもちろんわかっている。

 だけど、俺がマジムン(魔物)をつくれば、今以上にナビーに戦闘経験を積ませ、レベルをあげてもらい、舜天しゅんてんをこの世界から追い出すくらいはできるのではないかと考えた。

 舜天に悟られずに計画を実行しなくてはいけないので、嘘をつくことにした。


「僕、この世界好きじゃないので構わないのですよ」


「そうか。それなら、お主に気を遣わず征服しても良いのだな。安心したぞ」



 その日から、舜天しゅんてんが何か問題を起こさないように見張る生活が始まったのだが、舜天はビーチにしか行かないので思ったよりぎょしやすかった。

 ナビーに報告したいが、連絡先は消してしまっている。

 それに、今の俺が直接ナビーと会って、ヒンガーセジ(汚れた霊力)持ちだと知られたら厄介なことになると思うので、ナビーに悟られずにマジムン(魔物)を送り込み続けることにした。


 時間を見つけ被害が少ないであろうヤンバルに行き、マジムン(魔物)をつくってみる。

 山の中で見つけた赤くて小さなかわいい鳥に初めてヒンガーセジ(汚れた霊力)を注ぐと、見事に成功した。

 もう1匹試そうと生き物を探していたら、天然記念物のアカショウビンを見つけたのでヒンガーセジ(汚れた霊力)を注ぐ。


 ……やべ、注ぎすぎた。


 今まで戦ってきたどのマジムン(魔物)よりはるかに強いマジムンをつくってしまった。

 まあ、ナビーならなんとかできるだろうと思っていると、山の中なのに犬が近づいてくる。

 やけになれなれしいこの犬には、舜天しゅんてんがやっていた、人に敵意を向けないマジムン(魔物)をつくろうとしたのだが、失敗したようでその犬はヒンガーセジ(汚れた霊力)あらがって完全なマジムンになり切れていない。

 次の瞬間、なれなれしかった犬が牙を向けて襲ってきたので、その場に放置して逃げ帰った。

 僕では人に敵意を向けないマジムンをつくれないみたいだ。

 正直、一番痛い現実かもしれない。

 舜天しゅんてんからヒンガーセジ(汚れた霊力)をもらい続けて、危害を加えないマジムン(魔物)をつくり続ける。

 そうして、舜天のヒンガーセジが減少したときを見計らい、ナビーと戦わせるという思惑は叶えられなくなった。

 やはり、ナビーのレベル上げが最重要だと確信した。



 4月になったころ、舜天しゅんてんは本格的にナビーを探すといい始めた。

 今まで僕がつくったマジムン(魔物)をすべて倒したなら、ナビーは相当レベルが上がっているだろうと思い、舜天と戦ってもらう作戦を考えた。


「そろそろ帰らなければいけないな。剛、どうにかあやつをあぶりだせないか?」


「そうですね……妖兵を複数体、一か所に集めることができれば、そこに現れるかもしれませんね。そこに現れた人を僕がいつものビーチに連れていきますので、舜天様は待っていてください」


「そうか。剛が探してくれるのだな。最近は暖かくなってきたからか、ビキニおなごが増えてたので、ありがたいぞ」


 ……てか、どれだけ見れば気が済むんだよ! まあ、こっちは動きやすいけど。


 那覇市内で目立つ場所、国際通りにマジムン(魔物)を集めることにした。

 始めに、付近の石敢當いしがんとうを壊しまわって、それからマジムンを大量に作った。

 そして、物陰からナビーが来るのを待っていた。


 ……え!? 誰だあいつ!


 変なジャージを着た若い男性が、マジムン(魔物)に突っ込んでいくのが見えた。ナビーはどこにもいない。

 この時点で今日の作戦実行はやめることにして、とにかく観察する。


 その男性は舜天しゅんてんと同じ千代金丸ちよがねまるを使っている。技もいろいろ使えてちゃんと戦えているが、まだまだ発展途上な印象だ。


 ……まさか、舜天が探している人ってこいつ? なわけないか。


 その時、ナビーが大きなシーサーに乗ってやってくると、その男性と話している。


 ……なんだ、あのシーサーは!?


 僕がマジムン退治をやめてナビーの元を離れた後、いろいろと環境が変わっていたみたいだ。


 そのあと、石敢當いしがんとうが壊されていることに気が付いて、長身の男性とひと悶着もんちゃくあったみたいだが、解決した様だ。


 新しい仲間ができていたことに安心すると同時に、自分の思惑がずれていることに気が付いた。

 ナビー1人を強化するためにつくっていたマジムンの数では、全然足りないのかもしれない。


 それから6日後、もう一度ナビーたちのレベル上げ用のマジムン(魔物)を大量発生させる。

 今度は、6か所の石敢當いしがんとうを壊しまわって、そこで舜天しゅんてんにマジムンをつくってもらった。

 その時に見られてしまった長身の男性のマブイ()を落としてしまい、ナビーに感づかれてしまう。

 一度、強さを確認したかったので戦ってみることにした。完全な悪者になって。


 ナビーは本気じゃないがやはり強い。仲間の男性は戦いのセンスがある。

 これなら、僕が舜天に不意打ちできれば勝機はあるのでは? と希望が見えてきた。


 ……この後のマジムン(魔物)をすべて倒し、レベルが上がればいけるぞ!



 ……そろそろ、マジムンをすべて倒したかな?


 ナビーにこの場所を感知させるため、ヒンガーセジ(汚れた霊力)を使ってマジムン化した。

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