第22話 前任者
「ああああああああああ!」
「きゃっ!」
ライジングさんは、叫びながら飛び上がり周りを見渡すと、俺たちがいることに気が付いて落ち着きを取り戻した。
急に起き上がられたので、琉美はビックリしている。
「おい、大丈夫かライジングさん。何があったんだ?」
「ああ、ごめん、ごめん。もう大丈夫だ。シバとナビーちゃん来てくれたんだね。実は、壊された石敢當をかたづけていたら、ジャージを着た30代くらいのおっさんに襲われたんだよ! ほんと、まいっちゃったよ……」
ライジングさんはマブイグミで起き上がったので、確かにマジムンにやられていたはずだ。それなのに、襲った相手が見えていたようだ。男の人を。
「襲われたって、そいつが見えたのか?」
「なんだよ、その質問は。まあ、そいつは空手経験者みたいで、パンチが見えないくらい速かったけどね」
「戦ったのか!? どうやって?」
「戦ったってより、逃げ回った感じだね。1分くらいよけられたんだけど、最後に顔面を1発……ってあれ!? やられたはずなのに、全然痛くない……夢だったのか?」
たぶん、変なものが見えたと言わないので、セジが見えているわけではないのだろう。
ナビーなら何かわかるのではないかと尋ねようとしたが、難しい顔をして考え込んでいた。
「ナビー、どうかしたのか? もしかして、心当たりでも?」
「心当たりも何も、特徴を聞く限りもしかしたら前任の奴かもしれないさー」
「前任って?」
「言ったことなかったっけ? シバと組む半年前に、仲間だった空手家がいたわけよ。そいつかもしれないさー」
前任者がいたことは初耳だ。
又吉剛、33歳の空手経験者。
東京で就職するも、出世の波に乗れなかったことに嫌気がさして沖縄に帰ってきたが、仕事を見つけずに実家に引きこもっていたところ、ナビーが勧誘して仲間にしたという。
空手経験を生かす戦闘スタイルで、マジムン退治を難なくこなしていたが、自分の活躍をみんなに認めてもらえないこの仕事に耐えられなくなって、普通の生活に戻っていったという。
「でも、決めつけるのは早くないか? そいつをライジングさんに見てもらって、確認が取れたら捕まえようよ」
「そうだな……決めつけはよくなかったさー」
琉美とライジングさんも話に加わった。
「そういえば気になっていたんだけど、君はどちらさん?」
「新しく仲間になった、琉美といいます」
「俺は比嘉昇。ライジングさんって呼んでね!」
ナビーが2人の会話をさえぎるように言った。
「それはどうでもいいけど、ライジング。いゃーを襲った人に心当たりがあるんだけど、そいつかどうか確認してもらってもいいかね?」
「もちろん! あんな危ないやつ早く捕まえないと、何するかわからないからね」
「これからそいつの家に行くけど、私とシバの2人で接触するから、琉美とライジングは気づかれないように物陰から確認して、結果をシバに連絡してちょうだい。2人とも、何が起こってもそいつがいなくなるまで出てきたらダメだからな!」
「わかった、気を付けてね!」
那覇市天久にある又吉剛が住むアパートの前。
この場所が見えやすい向かいのアパートの階段に、琉美とライジングさんが着いたことを確認した。
念のため白虎をシーサー化させて、琉美たちがばれても逃げられるようにしている。
「シバ。すぐに戦う可能性もあるから、ステータス確認しておいて」
Lv.31
HP 204/204 SP 190/190
攻撃力 220 守備力 209 セジ攻撃力 105 セジ守備力 100 素早さ 70
特殊能力 中二病 マージグクル 昼夜逆転
身代わり ティーアンダー
特技 テダコボール Lv.7 ティーダボール Lv.2
イシ・ゲンノー Lv.5 セジ刀 Lv.4
ヒンプンシールド Lv.6
「あれ? 特殊能力に新しくティーアンダーっていうのがある」
「ティーアンダーは、おばーたーくらいしか取得しないものなんだけどな……どんなものか確認してみて」
特殊能力【ティーアンダー】
取得条件:気持ちのこもった料理を作り、5人以上に心の底から満足してもらう
・作った料理に気持ちがこもり、相手に伝わる
・火系統の技の威力が2倍になる
・手が水をはじく
「すげぇ! 火系統の技が2倍って、すごい使える能力だ!」
「だったら、テダコボールとかもしに強くなったってことさ! あっちの世界でティーアンダー持ちで戦う人を見たことなかったからね。まさか、ここまで戦いに向いているものとは思わなかったさー」
多分、異世界琉球では料理をするのは女性で、戦うのは男性だからこの能力が戦闘に使われることがなかったのだろう。
「よし! インターホン押すから気を引き締めてよ。基本私が対応するから、シバは必要な時だけ受け答えればいいからね」
ピーンポーン! ……ガチャ
ドアが開くと、丸坊主が少し伸びたような頭に、無精髭を生やした、俺よりほんの少し身長が低くガタイのいい男性が、上下黒のジャージ姿で出てきた。
「剛、久しぶりー。元気だったね?」
「ナビーか、何しに来たんだ。僕とはもう関わらないって言ってただろ!」
「ごめん、でも大事な用があるからさ、ちょっと話を聞いてちょうだい」
剛はナビーの後ろに立っている俺を怖い顔でにらんできて、思わず目をそらしてしまった。数秒後、口を開いた。
「わかった。すぐそこに大きな公園があるだろ。そこで待ってろ。準備したらすぐ行くから」
言われた通り、近くにある大きな公園の隅にあるベンチで座って待つことにした。
ライジングさんから連絡が来て、やはり襲ったのは又吉剛で間違いなかったようだ。
引き続き琉美とライジングさんは、遠くから見守らせることにして、何かあった時に助けてもらうことにした。
「あの人、どう出ると思う?」
「まあ、自分のやったことがばれていると感づいて、十中八九襲ってくるはずさー」
「やっぱり戦うことになるんだな……でも、あの人は、黄金勾玉なしで戦えるのか?」
「剛は見える人じゃないから、セジが使えないと思うけど、ライジングのマブイを落としたってことは、ヒンガーセジを使っていることになるね」
「あれはマジムンってこと?」
「わからない……それに、マジムンの気配がないことが気になるさー」
実際に戦ってみないとわからないであろうことなので、今はいつでも戦える覚悟だけしておこう。
「ところで、あの人はどれくらい強かったんだ?」
「シバみたいには、テダコボールやヒンプンシールドを覚えられなかったけど、自分の身体にセジを纏わせて、20年以上やっていた空手でガンガン接近戦でマジムンを蹴散らせていたさー。正直、私が本気でも簡単に倒せないくらいは強かったよー」
ナビーの本気を苦戦させる相手に、俺が勝てるのか心配になっていた時、又吉剛がやってきた。
「早速だけど、お前たちがききたいことの答え合わせをしよう」
剛は、空手の型を始めるように構え、深呼吸をして気合を入れている。
「今の僕なら、ナビー相手でもこれで勝てるだろう……纏え、初段のオーラ!」
体内からにじみ出た薄黒い靄のようなものが、身体の周りを漂っている。
「シバ! あれはヒンガーセジだ。絶対に当たるなよ!」
ナビーの言葉に、わかったと答えようとした時、剛は一瞬でナビーの目の前まで距離を詰めていた。
「ナビー、人の心配している余裕があるのかな?」
ナビーの胸部に肘打ちが入っているように見えたが、寸でのところで剛の方が技が当たらないように止めていた。
ナビーが左足で蹴りを繰り出すと、それをよけるように後方に飛び跳ねた。
「危ない、危ない。そういえば、黄金勾玉に触れたらヒンガーセジを吸われるんだったね」
「剛! やめないか! 何でこんなことするのか? 何があった?」
「こんな楽しいこと、やめるわけないだろ。僕は、お前といた時より強くなった。この力で僕が沖縄を……いや、日本に混乱をもたらせてやるのさ。その一番の邪魔がナビー、お前だ! だからお前より強くなって戦おうと思ったら、まさか仲間ができていたとはな。しかも、こんなガキを……」
「シバを見てただのガキとしか思わないんだな。シバは、剛にできなかったことを簡単にこなしてきたけどね」
ナビーと俺は黄金勾玉にセジを籠めて、自分の身体に薄くセジを纏わせた。
これで、一般人に視認されないで戦える。
「いろいろできるからと言っても、強いとは限らないよね?」
今度は俺に向かって構えた剛は、右腕にヒンガーセジを多く纏わせて、すごい速さで向かってきた。
「破正拳!」
「ヒンプンシールド・ミーチ」
回避は困難だと感じたので、真正面にヒンプンシールドを3枚重ねて設置したが、剛の正拳で砕け散った。
これを食らっていたら、ひとたまりもなかっただろう。少しも油断できない。
「僕にできなかったヒンプンシールドをできたってことなのか。だからと言って敵ではない。こんなザコは気にせず、ナビーから倒したほうがよさそうだな!」
俺のことを見向きもせずにナビーに向かって行った剛。
そこにナビーがテダコボールを数発放ち牽制しているが、華麗な足さばきですべてよけている。
剛が回避だけになった時、剛のよける場所を予想して俺がヒンプンシールドで壁を作った。それにぶつかった剛はテダコボールにも当たった。
だが、全然食らっていないようだ。
「テダコボールとはこんなものだったのか。よけて損したな。ナビーはこんなのを覚えさせようとしてたのかよ。それよりお前! うざいな……やっぱり、お前から倒して後でナビーと思いっきり戦うことにするか」
すごい威圧を感じる。体に力が入り動きが硬くなっていることを認識してはいたが、力を抜く余裕がない。
それでもこちらに向かう敵意がそれることはないので、相手に集中して対応することだけを考える。
先程と同じように右腕にヒンガーセジを纏わせて向かってくる。
もう、ヒンプンシールドは避けられるはずなので、正面から迎え撃つしかない。
足元の石ころを拾うと剛の足が一度止まりかけたが、そのまま向かってきた。
それを見て、イシ・ゲンノーをすることを悟られたと思ったが、それを利用することにした。
右手の石にセジを籠めて大きな石の拳を作り、身体の横で構える。
剛はそんなのおかまいなしに、自分の攻撃が当たる距離まで詰めてきた。
「そんな技が俺に当たると思ってるのか!? 破せっ……!」
「テダコボール!」
右手のイシ・ゲンノーを意識させ、左手で至近距離からテダコボールを直撃させた。
そのまま後方に5mほどはじきとんで、片膝をついている。
ナビーが駆けつけてきた。
「ナイスシバ! いい作戦だったさ! これからは、2人で一気にたたみかけようねー」
「今のテダコボールちゃんと効いたかな? さっきは効いてなかったけど……」
「ああ、さっきのは牽制用にセジの消費を抑えたからね。剛を油断させるためだったけど、効果あったみたいさー! それに、ティーアンダーのこと忘れてないか?」
そうか! 今の俺は、火系統の技の威力が2倍になっていたことを忘れていた。
剛は立ち上がり気合を入れなおした。
「今のはテダコボールと思ってガードしなかったが、まさかこれほどの威力だったとはな。ナビーが手を抜いていたのか……後任のガキ、俺の見立てが間違ってたようだ。お前はなかなかできるみたいだな」
「それじゃあ、手を引いてもらえないでしょうかね……?」
「やっぱりガキだな。これくらいで引くわけないだろ。んー……そうだな、このままでは僕が負ける。2段、いや、ナビーと同時に戦うと考えると足りないか……」
ブツブツ独り言を始めると、納得して最初と同じように構えて深呼吸をした。
「纏え、3段のオーラ!」




