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チャンプルーファンタジー  作者: マーナリ
火の鳥マジムン編
13/145

第13話 沖縄を創った神

「まさか、この地に来られると思わなかったさー。私たちの世界では船に乗らないと行けない場所だからよ」


 ぐったりしていたナビーが一変して、テンションが上がり始めた。

 神を崇拝すうはいするノロにとって、この場所、アマミチューの墓は死ぬまでに一度は訪れたい場所なのだそうだ。

 小島に行くために作られたコンクリートの道を渡り、小島の外側に沿ってぐるりと半周したところに開けたスペースがあった。

 そこにある階段をのぼると、大岩に埋まっているように見えるお墓があった。


「看板にアマミチューの墓って書いてあったけど、ここにアマミチューって神がまつられているんですか?」


「そうよ。あっ、アマミチューは浜比嘉はまひが島の人の呼び方で、アマミキヨって言う名前が一般的ね。ここには旦那であるシネリキヨも一緒にまつられているわ」


「それじゃあ、うがん(拝み)しようね。シバと白虎も一緒に気持ちを込めておがめば届くはずだから真剣にね!」


「わかった」


「ワン!」


 ナビーと花香ねーねーの真似をしながら、両手を合わせておがんでみる。

 なんだか体中のセジ(霊力)がうずきだす感覚になったと思ったら、女性の声が聞こえてきた。


「顔を上げてよいぞ」


 聞こえてきた声に従い拝むのをやめて目を開けてみると、美男美女の2人が現れていた。

 女性の方は、腰下まで伸びた綺麗な水色の髪に、白い肌の絵にかいたような美人で、淡い桃色の着物に赤い帯を締めている。

 男性の方は、緑色の髪を頭部の後ろ側で結んでいて、白い着物に紫の帯を締めていた。


なんじら、よく来てくれた。我々は琉球開闢(かいびゃく)の神、アマミキヨとこちらが旦那の」


「シネリキヨだ」


 明らかにただの人ではないオーラを感じる。

 神様といわれても疑う余地がないほど神々(こうごう)しい。

 俺たち3人と1匹は、呆然として何も言葉が出せないでいると、アマミキヨが説明してくれた。


「急に驚かせてすまぬな。我々は、なんじらがここを訪れるのを待っていたのだ」


 花香ねーねーが口を開いた。


「どういうことなのですか?」


 アマミキヨが柔らかい笑みを浮かべて答えた。


「ナビーがこの世界に来てからのなんじらの行動を、ずっと見守っていたのだ。どうしても一度は接触をしたくて、ナビーにはすまないが、カンダーリー(巫女病)になってもらい、ここまで辿り着いてもらったのだ」


 ナビーが驚いた顔をしてきいた。


「私はこの世界で一度もウガン(拝み)しなかったのに、カンダーリー(巫女病)かかってなかったのは神様たちのおかげだったのですか?」


「そうよ、ナビー。なんじカンダーリー(巫女病)にしてしまうと、この世界がヒンガーセジ(汚れた霊力)に侵されてしまうからね。この世界を守ってもらっているので、特別扱いにしていたのよ。今回は、直接我々からなんじらにお願いしたくて、手荒な真似をしてしまった……本当にすまなかったな」


「いいえ! 謝らないといけないのは私の方です。時間を作ってでも御嶽うたきに行かないといけませんでした……」


「ナビー。なんじのその気持ちだけで十分で……」


「ブフッ! はっはっはっはっは!」


 黙って立っていたシネリキヨが突然笑い出した。


「もう無理、もう無理! アマミンさあ、普段と言葉使いが違いすぎるだろ! なんだよ、なんじらとか我々とか、かたっ苦しいわ!」


 穏やかに見えたアマミキヨもつられたように笑い始めた。


「にっしししし! シネリン笑うの早すぎー! せっかく神様っぽいふるまいしてたのにー」


 ……アマミン? シネリン? バカップルなのか、この神様は。しかも、チャラくなったぞ。


 俺たちは目を丸くしてポカーンとしていると、花香ねーねーが口を開いた。


「どうなされたのですか……?」


「ごめん、ごめん! あーしらはこれが素なの。あなたたちがあがめてくれるから、神っぽくしないとって思ったんだけど、無理だったわー」


 シネリキヨが指パッチンをすると、墓の前の広場に石でできたイスが現れた。


「まあ、立ち話はダルイからさー、座って話そうぜ! あと、ここからはフランクに行こう!」


 あまりにもチャラくなった神様を見て、思っていた言葉が俺の口から思わずこぼれ落ちてしまった。


「……本当に神様なのか?」


 ナビーと花香ねーねーが反射的に『おい!』というと、アマミキヨは軽いノリで言った。


「ちょっと君、ひどくなーい? でも、こっからはあーしらを神様としてじゃなく、対等の立場で接してちょーだい。そのほうが、やりやすいから」


 ナビーと花香ねーねーが安心したように胸をなでおろしている。

 シネリキヨが手をパチッと叩いて話を前に進めた。


「そう、何で君たちを待っていたかの話に戻すけど、この世界にヒンガーセジ(汚れた霊力)が流れているのを、俺らはずっと気にしてたんだ。そこに、ナビーちゃんが被害を抑えるために来てくれたのでホント助かったよ。それでね、正式に俺たち神から世界を正してほしいと直々《じきじき》にお願いしたかったのさ」


「実はね、あーしらがこの世界の沖縄もナビーちゃんの世界の琉球も開闢かいびゃくった神なのよ」


 ナビーが驚きつつ問いかけた。


「あの世界とこの世界の神様が同じってことですか?」


「そうよ。あーしらがその神様ってこと。名前も同じでしょ? あの世界とこの世界、まったく同じように琉球を開闢かいびゃくったんだけど、全然違う未来になっちゃったんだわ」


「なんでこんなにも違う世界になったのですか?」


「どっちの世界も知っているナビーちゃんならわかると思うんだけど、あっちの世界は不思議な力、琉球ではセジ(霊力)のことなんだけど、異国では魔術や呪術なども存在する世界。こっちの世界は、不思議な力が基本的にない世界」


 シネリキヨが続きを話す。


「あっちの世界は、不思議な力があるがゆえに生活を不便と感じ無かったから、ゆっくり時代が進んだけど、こっちの世界は不思議な力が無くて、不便に感じたことを頭を使って解決してきた結果、ここまで先進的な時代になったんだ」


「それはどうでもいいとして、あーしらの望みは2つの世界の干渉をなくすことなのよ。この世界に流れてくるヒンガーセジ(汚れた霊力)をすべて消し去り、どうやって流れているかの調査とその解決をお願いしたいんだわ」


 俺の中で引っかかっていた言葉の意味を、今、理解した。


「世界を正してという言葉に違和感があったのですが、そういうことだったのか。神様的には別の世界とまじわってほしくないのですね」


 シネリキヨが俺に向かって指をさしながらチャラめにきいてきた。


「君、物分かり早くていいね! で、引き受けてくれないか?」


 少し考え込んだが、俺が決められることではないと思ったので、ナビーと花香ねーねーの意見を聞くことにした。


「ナビーと花香ねーねーはどうするの?」


「私は、もともとサポートしかしてないから、ナビーが引き受けるのならもちろん変わらずにサポートを続けるわ」


「私はもちろん引き受けるにきまってるさー。そのためにこの世界に来たからよ……で、シバはどうするねー? まさか、ここまで来てやめたいって言わないよね? 引きこもりに戻るよりいいだろ」


「引きこもり感が抜けて来たのに、思い出させるな! 一言多いんだよ……」


 俺は今の生活は嫌ではない。むしろ、成長するにつれてもっと戦いたい気持ちが芽生えているほどだ。

 もちろん、答えは決まっている。


「乗り掛かった舟なので、俺も引き受けます!」


 アマミキヨとシネリキヨは向かい合ってハイタッチをして喜んでいる。


「いやー、よかったわー。拒否られる可能性もあると思って、あーしらひやひやしたよー!」


「正直、俺らが手伝えることはあまりないけど、助言だけはしていくからたまにはここによってくれよ」


 アマミキヨが立ち上がり、指パッチンをすると石でできたテーブルが現れ、その上に人数分のさかずきが用意された。


「ここはやっぱ、祝杯っしょ! あーしらの出会いにカンパーイ!」


「すみません……私、車で来てるのでお酒はちょっと……」


「俺も未成年ですし、白虎は犬ですので……」


「私はいけるさー!」


 シネリキヨが笑いながら訂正してきた。


「大丈夫だよ。このお酒はセジ(霊力)で造ったものでSPが回復するし、ノンアルコール仕様にしているから安心して」


 神様レベルになればセジ(霊力)でお酒を造れるのかと感心して、アルコールじゃないならとみんなで乾杯をした。


 しばらく雑談していると、気になることができたのできいてみることにした。


「ちょっといいですか。今までの話で、異世界琉球の為朝ためとも軍のことが一度も出てこなかったと思うのですけど、神たちは異世界琉球が為朝軍に攻められていることはどう思っているのですか?」


 アマミキヨとシネリキヨは顔を合わしてしばらく沈黙すると、アマミキヨが俺に向かって答えた。


「別に、なんとも思ってないけど……それがどうしたの?」


 質問した俺より先に、驚いたナビーが反応した。


「え!? なんとも思ってないって、どういうことですかね?」


「言葉の通りなんとも思ってないのよ。あーしら神は世界を創ったけど、人間の未来を良くしようとまでは思ってないからね」


 シネリキヨが付け足す。


「俺たちはこの地を創ったが、未来を創るのは人類自身って言いたかったんだよ。いままで、この世界の沖縄で起こった色々な不の出来事があるでしょ。三山さんざん統一までの数々の戦に始まり、薩摩侵略さつましんりゃく、太平洋戦争の地上戦、そして、米軍基地が強制的に造られたこと等々、人間同士の問題には一切干渉してこなかった」


 話を聞いていると、この世界の沖縄も結構大変な歴史を経てきていると感じた。

 それらを放任してきたのに、異世界琉球の為朝ためとも軍だけを何とかしてくれるわけないのだ。


「あーしらは、あくまで、いや、神なんだけど……異なる世界の干渉をなくしたいだけなんよね。まあ、あーしらの依頼を受けてくれたナビーちゃん達には、できる限り手助けはするつもりよ!」


 ナビーは少し落ち込みながらも、納得したようで神たちの考えを受け入れた。


「神の考えは理解しました……私が強くなって何とかします」


 落ち込んでいるナビーを気にかけたのか、アマミキヨが励ましてきた。


「でもね、ナビーちゃん! 唯一、神と関われる人間がノロたちなのよ。ノロは神から力をもらい、その力を人々のために使う。で、その代わり神をあがめてくれているじゃない? ノロの導き次第で戦況は変わる。だから、ナビーちゃんたちなら大丈夫よ!」


「はい! ありがとうございます!」


 神としてのスタンスを俺たちは理解した。

 しかし、理解したがために生まれた疑問がある。


「あの…異世界の干渉をなくしたいのはわかったのですが、異世界から来たナビーの存在は目をつぶってくれているってことですか?」


 俺が質問した瞬間、ナビーと花香ねーねーが険しい顔をした。

 もしかして、何も言わずに流してもらったほうが良かったのかと、質問したことを後悔していると、シネリキヨが緊張を解くようにやさしく答えた。


「ああ、そのことは大丈夫だよ! そもそもナビーちゃんは……」


 アマミキヨが横から話をさえぎって、コソコソ話を始めた……少し聞こえたが。


「シネリン! 今はまだダメ! 選択が変わってしまうわ!」


「そ、そうだな……ごめんよ、アマミン。よく止めてくれたね」


 シネリキヨは仕切り直し、冷静を装って言い直した。


「今回は、俺たちの依頼を受けてくれるから、特別にナビーちゃんのことは目をつぶるってことにしよう!」


 シネリキヨが何を言おうとしたのか気になったが、聞き出すのは無理そうだ。


「そうですか……こちらも、目をつぶります」

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