第118話 汚れたガマの守り神
ナビーが言うには、ウワーガーガマは元の世界だと観光スポットになっている玉泉洞の事らしい。
それだと、直線距離で首里から南東に約10km進まないといけないが、白虎はナビーたちに同行するので、俺たちの移動手段がない。
歩いて行けない距離ではないのでその覚悟をしたとき、ヒチマジムンが顔の前に飛んできた。
「シバ、ミシゲーとナビゲーとオラを召喚してくれ。2人をウワーガーガマまで連れて行ってやる」
とりあえず、言われた通りに3匹のマジムンを召喚する。目の前にいた3匹は一瞬消えて、俺の身体の召喚陣を通してもう一度目の前に現れた。
召喚したマジムンが役目を終えると召喚された場所に戻るので、目の前にいても召喚しておかなければならないのだ。
今度は召喚されたミシゲーマジムンが俺の前に飛んできてお願いしてきた。
「召喚したマジムンたちはシバ様の指示に従うシャモ。ミシゲーとナビゲーに大きくなれと指示をだしてほしいシャモ」
「わかった。ミシゲー、ナビゲー大きくなれ」
すると、2匹は俺のセジを少しだけ吸い取り、ミシゲーは長さ2mくらい、ナビゲーは直径1mくらいまで大きくなった。
ミシゲーは横になってユラユラ浮いた状態で、上に乗るように催促してくる。
「2人で乗って大丈夫なのか?」
「シバ様のセジで力が増しているから大丈夫シャモ!」
元の世界のミシゲーマジムンのイメージがあるので少々不安だが、しり込みしてもしょうがない。
魔女の飛ぶほうきのように、持ち手側を跨いで足を浮かせてみた。
「お! 結構安定している。萌萌も後ろに乗ってみて」
「それじゃあ、失礼。おお、こっちは広くて快適アル」
2人が乗っても大丈夫だと確認できた時、ナビゲーマジムンが自分を握って進行方向に真っ直ぐに構えるように催促してきたので、言われた通りにした。
「それでいい。そのまま構えてくれ。いちゅんどー!」
背後からヒチマジムンの合図が聞こえ、俺たちだけに追い風が吹く。
大きくなったナビゲーマジムンが帆の役目になって風を受け、浮遊しながら進み始めた。
「飛んだ! 飛んだアルよ!」
「これなら俺の腕がパンパンになるだけで済みそうだな」
白虎の半分のスピードも出ていないが、歩かなくていいのですごくありがたい。
しばらく進んでいると、普段よりも明らかに多くのマジムンを目撃したので、遠距離攻撃で倒せるだけ倒しながら目的地に進んだ。
数千とあるらしい島中のガマからマジムンが出現しているとなると、早急に解決しないと恐ろしいことになりそうだ。
「ウワーガーガマ、見えてきたシャモよ!」
ヒチマジムンは追い風を止めて俺たちを停止させ、目の前に現れて先を指した。
「あれを見ろ。そう簡単には入れてくれないみたいだぞ」
示す方向には木々が生い茂り、その隙間から洞窟の入り口が見える。
その前には、野生のシーサーがヒンガーセジでマジムン化したのだろう、黒く禍々しい姿のシーサーマジムンが番で待ち構えていた。
「3匹ともここまでありがとうな。すごく助かった。ここからが本番みたいだから、歩いていくよ」
俺と萌萌がミシゲーマジムンから降りると、ミシゲーマジムンとナビゲーマジムンは元の大きさに戻り、2匹ともふにゃっとなっていて明らかに悲しんでいる。
その様子を見た萌萌が耳打ちしてきた。
「シバ様! 戦いだから別のマジムンに変えるって言われているみたいで、何だかかわいそうアルよ……」
……目的地が見えたからもう用はないってのは、流石にひどすぎるか。
「歩いてはいくけど、あのシーサーを倒すまでは付き合ってもらってもいいか? 疲れていない?」
ミシゲーマジムンとナビゲーマジムンは真っ直ぐビンビンに戻った。
「任せてもらえるなんて光栄シャモ!」
「まだ役に立てるタマ? 嬉しいタマ!」
……語尾キャラが渋滞してやがる。
ヒチマジムンは俺だけを右に左にと風で煽って答えをくれた。少し鋭く感じたのはヒチマジムンも変えられると思っていたのかもしれない。
しかし、ヒチマジムンはまだしも、しゃもじとお玉をどう戦わせたらいいのかまだイメージができていない。
「みんながどれくらい強いかとか、どんな戦い方ができるのかとかまだわかっていないから、一度好きなように戦ってもらってもいいか? 少し観察するから戦略を練らせてくれ」
「わかやびたん! ナビゲー、わったー杓子ちょーでーの力を見せてやるシャモ!」
「いつものからやるタマね!」
気合のまま勢いよく突っ込むと思っていたが、2匹は重なるようにくっつき、そのままナビゲーがミシゲーに隠れるように、左側のシーサーマジムンに向かって行った。
「向こうは任せろ。あいつらの事を見てあげてくれ」
ヒチマジムンが右側のシーサーマジムンを抑えてくれるようなので、杓子ちょーでーの戦いに集中できそうだ。
シーサーマジムンがミシゲーに気が付き、鈍い声で威嚇を始めた。
正直、仲間視点で見てもシーサーマジムンの方が格上だと思うが、全くひるまずに近づいていく。
威嚇に無反応なため、シーサーマジムンは大きな口を広げてミシゲーマジムンに飛びかかった。
ミシゲーが噛まれそうになったその時、ミシゲーの背後で姿を隠していたナビゲーが、縦に回転しながら持ち手部分でシーサーマジムンの頭に一撃を入れた。
それと同時に、ミシゲーは持ち手部分でアッパーカットを繰り出していたので、2匹の持ち手部分で上下から頭を挟む形でコンビネーション技が決まった。
「いいの決まった! 杓子ちょーでーなかなか強いじゃないか!」
その時、右側のシーサーマジムンを倒し終えたヒチマジムンが右肩に止まり、注意してきた。
「判断するのは早い。もう少しやらせてから手助けするぞ」
シーサーマジムンの方に視線を戻すと、立ち上がり首をブルブルと振って気合を入れなおしている。今の攻撃では決定打にはならなかったようだ。
「とっておきの技でも倒せなかったシャモ……」
「悔しいですが、今はナビゲー達の実力を見てもらうために戦うタマよ。クルガニ変化!」
ナビゲーは木製のお玉から鉄製のお玉に変身した。少しセジを吸われる感覚があったのでパワーアップしたのかもしれない。
シーサーマジムンが開いた口の前にヒンガーセジの球が現れ、今にも放とうとしている。
「杓子奥義、足元すくい!」
ミシゲーは臆することなく前脚に飛び込み、地面ごと足元をすくい上げてシーサーマジムンをひっくり返した。
「杓子奥義、アンマーヌメーゴーサー!」
無防備になったシーサーマジムンの頭部に、鉄になったナビゲーが勢いよくぶつかった。
……今の世の中、その技名は虐待だぞ。でも、今のはいい一撃だったな。
しかし、またもシーサーマジムンは立ち上がった。
今のままでもだいぶ戦えているとは思うが、ある程度強いマジムン相手だと、パワーが足りずに倒しきることができないみたいだ。
少し考え込んでいると、落ち込んだ様子のヒチマジムンが聞いてきた。
「ミシゲーとナビゲーを使い続ける気が無くなったか?」
「ひとつ聞いていいか? ミシゲーとナビゲーは一緒に戦っているけど、アースンは使ってないよな?」
「アースン? そんなもの知らない」
俺たちは元の世界でマジムンたちからアースンを教わったので、こっちのマジムンたちも使っていると思い込んでいたが、異世界琉球のマジムンはアースンの存在自体を知らないみたいだ。
「ヒチ、安心して。マジムンたちはまだまだ強くなれるぞ! ミシゲー、ナビゲー! 一度引き返してくれ!」
2匹はしょんぼりしながら戻ってきた。
「失望させてしまったシャモか? もう、交代されるシャモか?」
「何言っているんだよ。あいつは杓子ちょーでーで倒してもらうよ」
「でも、これだけやってもダメなのにどうするタマか?」
「俺の友達のマジムンから教えてもらった、アースンって言うのを今から教える。1つの技を2人以上でするって言えばわかりやすいかな?」
「そんなこと、ミシゲーたちにできるシャモか?」
「大丈夫。アースンを使っていたマジムンたちは単体ではすごく弱かったからな。お前たちなら、直ぐにでもできると思うよ。とりあえず俺とナビゲーでやってみるから、アンマーヌメーゴーサーだっけ? あれをもう一度やってくれ。それに合わせてアースンを作るから」
ミシゲーには俺を乗せて上空に浮いてもらい、ナビゲーの攻撃に合わせる準備をした。
そして、ナビゲーがシーサーマジムンの頭部にぶつかるその瞬間に合わせて、テダコボールをナビゲーのお玉の受け部分にぶつけた。
「アースン、アチコーコーメーゴーサー」
真っ赤に燃えるナビゲーの一撃は、シーサーマジムンを簡単に倒すことができた。
すると、ナビゲーとヒチマジムンは一定以上のセジを使ったからか、召喚が解けて俺の体の召喚陣に吸い込まれていった。
「ナビゲーの技が通用したシャモ! うらやましい! ナビゲーだけずるいシャモ! ミシゲーもアースンやりたいシャモ!」
残ったミシゲーには、ほかのマジムンたちにアースンの説明をしておくようにお願いして帰ってもらった。
一息つこうとした時、萌萌の一言でこれからの苦労を気づかされることになった。
「流石シバ様。でも、これからマジムン9匹分のアースンを考えるのは、すごく大変アルね」
……そう言われると結構きついな。何通り考えなければいけないんだ。