ランドさんを籠絡
「お、王妃様って、王妃様って...!」
「あ、お礼とお詫びを先に申し上げなければなりませんね。先日は大変高価なレアユを沢山いただき、ありがとうございます。とってもおいしくいただきましたわ。私が王妃だって黙っていて、ごめんなさいね。」
「い、いえ!大丈夫、で、ございまする!」
「ほほほ、緊張しなくて大丈夫よ、これはいわゆるお忍びってやつだから。」
王妃様は楽しそうに笑う。
「私は、商品を売りにお城に来てもらうようお願いするので待つか、私が行くと申し上げたんですがね。」
「ランドさん。」
「あんまり大きな声では言えませんが、王妃様は特殊なスキルを持っていまして、こうしてたまにお城を抜け出されるのですよ。側近たちの悩みの種です。」
「でも、今回は実際に来てみて本当によかったわ。最高の品ばかりだもの。」
「ランドさん。王妃様、全部一つずつご購入されるっておっしゃってるんです。うちとしてはいいんですけど...大丈夫ですかね。」
「全部一つずつ!?なぜそんなことに!」
王妃様は、家具の置いてある部屋にランドさんを連れて行くと、ソファーを指差して、「座ってみなさい」と言った。
ランドさんは「はあ...」と言いながら、ソファーに腰掛ける。
「...ふわあ、なにこれすごーい、ふかふかなのに弾力があって、このままここで全部放り出して寝てしまいたーい...」
ランドさんの顔がとろけてしまっている。
「ランド、次はベッドに寝てみなさい。」
「嫌だ!私からこのソファーを取り上げないで下さい!」
「いいから寝てみなさい。」
ランドさんは、ぶつぶつと何か呟きながらベッドに横になる。
「何、これ...すご...すぎぃ...スヤァ...」
「ランド」
王妃様がランドを扇で叩いて起こす。
「起こさないで下さい。ここは天国だ!」
「最後にトイレに行きなさい。」
「今そんなに行きたくないですけど...」
「いいから。使い方をよく見て使うのよ。」
「わかりました...」
暫くするとトイレの中から、「ひゃあーん、だめぇ!」という声が聞こえた。
ランドさんがコホンと咳払いをして、キリッとした顔で王妃様に進言する。
「王妃様、王城全室にこのソファーとベッド、トイレの導入を提案いたします。」
「だめよ。この店の、ユカリさんのご負担になるでしょう?全部一つずつって決めたのよ、導入するのは私の部屋だけよ。」
「そんな殺生なあ...こんなの生殺しですよお。この家具の素晴らしさを知った私に、前のベッドで寝ろと?今までのトイレを使えと!?」
「ランドさん、2セットなら用意できますから、いいですよ。」
「いいんですか!?」
「はい、そんなに気に入って頂けて嬉しいです。でも、安くはないですよ?」
「はい!!ありがとうございます!!やったあ!!」
王妃様は少し苦笑いをして、「ごめんなさいね。」と言った。私はにっこりと笑って否定する。
「ランド、この店に来なきゃわからなかった逸品ばかりでしょう?私は来てよかったし、他の商品も全部買うに値するものよ。」
「そうですね、今回ばかりは王妃様のおっしゃる通りかと。ただ新商品が出たり、消耗品がなくなった際の買い物は、これからはお任せください。」
「そうね、そこは妥協するわ、もし来たくなったら次は護衛も連れて来店する。それでいい?」
「はい。」
話がまとまったみたいでよかった。
「では、王妃様、既成のドレスをお選び頂きたいのと、採寸させていただき、最高の一品を作らせて頂きますので、試着室においで下さい。」
「ええ。楽しみにしているわ。」
試着室で採寸をし、既製品を使用人の皆に着せてもらって選んでいただいている間、ミシンを見せる訳にはいかないので、王妃様のご希望を詳しく伺ってからマイホームに1時間ほど篭ったのであった。
「お待たせしました。ご試着ください。」
「待ちきれなかったわ!ああ!この肌触り!煌めき!最高のドレスデザイン!それにこれは、宝石?」
「ガラスを宝石風にカットしたもの、ジルコニアと言います。宝石は高いので、それと同じ輝きを放つものを錬金、彫金しています。煌めく星空を散りばめたイメージです。王妃様をイメージして縫わせていただきました。いかがですか?」
王妃様が試着して、くるりくるりと鏡の前で回る。
「最高だわ。それ以外言葉が出てこないくらい。」
「ありがとうございます。光栄です。」
ドレスを包み、美容品や木工品などすべて梱包し、ソファーとベッドだけは、普通は受注品なので、私がその場までお届けして見えないように組み立てるつもりだったが、すぐに王室の荷運び用の大きな馬車を手配してくれるとのことになったので、それでお願いした。
最後に、スキル付与アクセサリーを渡す。ただし中身は、健康付与アクセサリーではない。王妃様に黙って、健康と浄化と、シールドは大きさの都合上なのか、1回分しか付与できなかったが、それらのスキルを付与しておいた。
「こちらいつでも身につけておいてくだされば嬉しいです。王妃様が健康であり続けられますように祈りを込めました。」
王妃様は「ありがとう」と、その場で身につけてくれた。
「似合う?」
「はい、とっても!」
王妃様はこいこいと手を振ったので耳を近づける。
「ランドには、ああ言ったけど、また来るわ。その時はまた、あのお菓子を出してくれると嬉しいわ。」
と言ったので、私もこっそり、「いつでもお待ちしております。」と返した。
「ほほほ、宣伝はまかせて!最先端の流行を手に入れられてとてもいい買い物だったわ。またきっと会いましょう。」
「はい!ありがとうございました!」
それから暫くして、うちの店が王室御用達の流行の店として、貴族の間で静かに大繁盛し始めたのは、言うまでもない。
次回更新は、4月13日朝8時予定です。




