セントレア夫人
私はごくりと喉を鳴らす。気に入ってもらえた商品はあっただろうか...!
「ほほほ、ぜ・ん・ぶ。」
「ふぇ!?」
驚きのあまり、お客様の前で出すべきではなかった声が出てしまう。
「コホン、ユカリ?」
「だだ、だって、リュウ、ぜ、全部って!全部って!」
セントレア夫人は、素が出てしまった私を「かわいらしい」と朗らかに笑いながら、アイスクリームをもう一口食べて「本当に素晴らしいわあ」と感嘆の息を吐いた。
「もちろん全種類一つずつ、という意味よ?この店が初日から潰れるようなことはいたしません。食品類については、このお菓子だけは欲しいのだけど、善意で出してくれたのだろうから我慢するわ。」
「あの、うちは、新店舗かつ新参者ではありますが、決して、お値段が安すぎるということはなくてですね!全部となると相当な額に!」
「ほほほほほ、わかっているわ!」
ドンと机の上に置かれた、重い袋の中には、白金貨(1枚100万ユート)がいっぱーい...。
「マジなんですね?」
「大マジよ!!私だって全部買う気はありませんでしたのよ?なのにどの品もあまりに素晴らしいんですもの!」
セントレア夫人は、つかつかと応接室を横断すると、「まずこの美容品の数々!!」とビシィッと指を指す。
「基礎化粧品という、肌そのものをケアして美しくするという新しい概念!化粧品も肌に優しい作り!今までの化粧品がどれだけ肌にダメージを与えていたかわかるというもの!だってあなたの肌はすべすべで、途中化粧を落としてもらったけど、日に焼けてすらいないじゃない!」
まあ16歳だから化粧品は塗ってなかったけど、基礎化粧品と日焼け止めはこの世界でも作って塗ってたからなあ。創造知識様に感謝。
「加えてその髪!腰まで長いのに、指通り滑らかで、光り輝く黒ツヤ!どうなっているのよ!」
シャンプーコンディショナーヘアオイルのことかな?もちろん普段使いしてるけど。
「あなたから漂ってくるフローラルな香りも!ポプリ以外でこんなに優しく強い香料も革命だわ!!」
香水の概念がまだなかったもんなー。
「何よりドレスよ!あのショーケースにあるのと同じデザインで!色味はちょっと変えて、でも生地はこっちの高い方がいいの!何なのこれは!生地自体が光り輝いていて、肌触りも心地いい!社交界の星になれますわ!」
クイーンカイコドーン様の布めっちゃ高めに設定したんだけどな。
「あの、その布は高い魔法抵抗力があるのでかなりお高く...」
「関係ありませんわ!この布!新しい流線形のドレス!惚れ込みましたの!どのくらいで出来ますの!?」
「時間でしたら、採寸させていただいてから、1時間ほどで仕上げられますが...」
「1時間!?待ちますわ!!既成のドレスもいくつかいただきたいです!」
それからもセントレア夫人は、家具の座り心地寝心地の素晴らしさやら、トイレを使った時の感動やら、木工品の精密さやら、健康スキル付与アクセサリーの意匠の素晴らしさやら、こちらが圧倒されるほどの熱意で語ってくれた。
「という訳で、ぜーんぶ、く・だ・さ・い・な。」
「マジなんですね。お値段は...」
私は手作りの電卓を取り出す。詳しいことはよくわからないが、創造知識によって、創造知識スキルを魔石に彫金することで出来た代物だ。当然門外不出である。
「い、1億ユート超えちゃいますけど...」
オーダーメイドのドレスがその3分の1を占めているわけだが、それにしたってお高い。
「よゆーよ、よゆー。未来ある商人への先行投資、かつ私はこれから流行る商品を誰よりも早く手に入れた。これまでで1番最高の買い物だわ。」
「では...商品はご用意出来次第全部お持ちしますが、ドレスや化粧品など、すぐにお持ち帰り頂けるものはお包みさせて頂きます。そういえば今日は従者の方は...馬車の中ですか?」
「ああ、そろそろ来る頃かしらね。」
「そろそろ来る?」
コンコンコンコンコンコンコン!
門扉がけたたましく叩かれる。
「お任せください。」
オリヴァーさんが門扉へ向かう。
屋敷の扉が開いた瞬間、泣きそうな叫び声が屋敷中に響いた。
「どーーーーして!お迎えに上がった先にいらっしゃらないんですか!?護衛も私も必死にお探ししたんですよ!」
「私のスキルを持ってすれば、造作もないことだわ。」
「でしょうねえ!!だ、か、ら、お待ちくださいと、お迎えにあがりますと、申し上げたじゃないですか!」
「だってそんなことしたら、堅苦しい買い物になっちゃうじゃない。そんなのつまらないわ。」
「そもそも自ら足をお運びになる必要ありましたか!私ども全員でお止めしましたよね!?」
「レアユがとってもおいしかったんだもの。他にどんな食べ物があるかと見てみたくなるじゃない。でもね、実際来てみたら、食べ物だけじゃなくて、このお店は本当に素晴らしいもので溢れていたの!実際に来てみて本当によかったわ!」
セントレア夫人と口論をしている従者?の人...あれは...
「ランドさん?なんでここに。セントレア夫人のお知り合いというか、従者なんですか?」
「セントレア夫人?誰ですかそれは。この方は、我が国サンテルイーズ国の、王妃様ですよ。」
「「「はあーーー!?」」」
今度は私とリュウとレンの声が、屋敷中に響き渡った。
次回更新は、4月9日朝8時の予定です。




