レンの過去2
「残念ですが、あなたを冒険者ギルドに迎えることはできません。」
「な、なんでですか!!」
昨日のうちに密入国した僕は、倒した魔物を引きずって冒険者ギルドに登録と買取希望を出した。
「まず、当ギルドは審査などというものはありませんが、怪しい方だと受付が判断した場合、身分証明書のご提示をお願いしています。身分証明書がない方は、ご自身出身の村や領主様などから何かしらの紹介状をもって、もしくは身分の確かな紹介者を伴って来るのが普通です。それを貴方はどれもできないとおっしゃる。」
「それは...すみません、だけど!」
「見たこともない服、なのにボロボロで。武器を持っている様子もないのに、狩ってきた魔物は高ランク。実力はあるのかもしれませんが、怪しすぎて登録させる訳にはいかないというのが、ギルドマスターの判断です。...申し訳ありません。お引き取り願います。」
「そんな...馬鹿な...」
「お引き取り願います。」
ギルドの受付は、冷たくそう告げると、何を言っても何も答えてくれなくなった。
...もう、どうしたらいいのかわからない。
空を仰ぎ見て、遥か遠くの日本を思う。
帰りたくても、帰れない。
ただ人間らしく生きたいだけなのに、それも叶わない。
僕は呆然と立ち尽くしていた。
その時ー
ドンッ
「きゃっ!」
女の子が盛大にぶつかってきて、転んでしまった。
女の子のローブのフードがずれて、見えたのは、日本人らしい顔立ちの、綺麗な黒髪とクリッとしたかわいい黒目を持つ、女の子だった。
もしかしてこの子は、僕と同じ?
「ご、ごめんなさい。余所見をしてて。」
慌ててフードを直す女の子に、試すように聞く。
「大丈夫ですよ、立てますか?」
と、日本語で。
「はい、大丈夫です。自分で立てますので。」
女の子は、そう日本語で答えると、スクッと立ち上がって埃を払った。
日本語が、通じてる!
震えそうになる声を抑えて、
「あなたも、召喚者ですか?」
と、にこりと笑って聞く。
女の子は、首を傾げると、こちらの言葉で「ごめんなさい、何を言ってるのかわからないです。」と、告げ、止める間も無く、その場をダッシュで逃げ出していった。
「あ...」
胸の中が言い様のない寂寥感で溢れる。
女の子と会って、言葉を交わして、わかってしまった。
僕は、寂しかった。どうしようもなく辛かった。
異世界にたった1人、明日どうなるかもわからないこの身が。
誰にも知られず、異世界で死んでしまうかもしれないこの身が。
誰にも見てもらえない寂しさが。
あの時、僕は女の子に一瞬で心を囚われた。
僕を真っ直ぐ見てくれたその瞳に。
寂しすぎたからとか、刷り込みとか、吊り橋効果だとか、何とでも言えばいいさ。
あの女の子をもう一度探してみせる。
そして捕まえたら、もう絶対に、逃してなんかあげないよ。
僕は、不敵な笑みを浮かべ、女の子の走り去った跡を見つめていた。
この王都付近を拠点にして女の子を探すことを決めた僕は、魔物の死体を引き摺って、ある村に辿り着いた。
そこは村の看板に、大きく「歓迎精霊様」など書いてある変わった村だった。
どうせここでも僕への扱いは同じ。
野営の道具を売ってくれれば上々だ。王都では高すぎて買えなかったからな。
魔物は村の入り口に置いておく。強い魔物の死体や骨は、弱い魔物への魔物避けになるのだ。まあだからといって、村で泊めてもらったことさえないが。
「さて、道具屋道具屋...。って、めっちゃ活気あるしこの村。」
村人がとても明るく、商人や旅人をもてなし、精霊様の奇跡とやらがそこかしこから聞こえる。
変な村だな。
「あの、すみません、この村に道具屋はありますか?」
と、美味しそうに作物の実った畑の前にいた男性に話しかけると、
「ユカリ様...?いや、違う、青年だ。だが...」
「ユカリ...?」
誰だろうそれは。聞いたことのない名前だ。
「黒髪に黒目...精霊様に縁のあるものでは...」
「ユカリ様の遣わされた御使い様ではないか...」
「いや僕はそんな大層な人じゃないから。」
と、即座に否定するが。
「皆の者!」
村長らしい威厳のある人物が大きな声で村人を制する。
「精霊様と同じ出立ちでおいでなすった、精霊様との関与を否定されても、皆、することはわかっておるな?」
「「はい!!」」
「え?ちょ、何、怖いんだけど!?」
「大歓迎の祭じゃーーー!!」
「「わあああああ!!」」
何故だかわからないが、僕はそのユカリという人?兼精霊様?のおかげで大歓迎を受けた。
初めて宿に泊まり、3食美味い飯を食い、お風呂はなかったが、暖かいお湯で髪と身体を洗った。
魔物を狩ってきて魔物避けを強化したり、村の作物の収穫を手伝ったりしながら、毎日王都へあの子を探しに行った。
ポンプ式の井戸を開発したと聞いて、ユカリという人物は頭がいいのだろうと思った。
ユカリ...ユカリという人のおかげで、僕は今、人間らしく暮らせている。
どんな人なんだろう。会えたら絶対にお礼を言おう。
僕は毎晩ふかふかのベッドの上で、ユカリという人に感謝をするようになった。
そしてー
「さて、私も行きます...か...え?」
「やあ。」
僕の目の前には、黒髪黒目の。
「久しぶりだね。話、いいかな?今度は逃して、あげないけどね。」
かつての女の子、ユカリさんが、いた。
やっと、見つけた。
ああ、まだ感謝してなかったね。
僕を人間らしくしてくれて、恋を教えてくれて、
異世界の孤独から救ってくれて。
ありがとう、ユカリさん。
でもきっと、必要なのはお礼じゃなくて謝罪だね、ごめん。
もう逃して、あげないね。
今日1回目のワクチン接種なのですが(遅い)、ワクチンの副反応が怖いので、念のため一回お休みをいただきます。
お休みが続いてしまってすみません!
次回更新は、3月24日朝8時の予定です。




