わんわんわわーん
「おや、ランド殿の言う通り、本当にこちらのお屋敷を選んでいただけたのですね。ありがとうございます。」
お屋敷に到着すると、初老の男性が深々と丁寧に頭を下げて出迎えてくれた。
「い、いえ!こちらこそ!えっとあなたは...」
「私はこの屋敷の管理を王命により任されました、筆頭執事のオリヴァーと申します。以後お見知りおきを。」
「私はユカリです。こちらがリュウ。よろしくお願いします。」
オリヴァーさんがにっこりと笑う。
「ほっほっ、敬語など不要です。あなた方はこの屋敷の主人となられるお方。堂々とご命令ください。」
「え、いや、そんな...」
「オリヴァー殿、あなたは腕に覚えがおありか。」
「おや、試されますかな?」
オリヴァーさんがリュウの方を向き、持っていた杖をトン、とつく。なぜかはわからないけど、杖は剣に変化した。
「...」
リュウがオリヴァーさんを見つめる。
「どうされますかな?もちろん怪我を負わせないよう、最大限注意いたしますが。怪我をされた場合も回復薬の用意はございます。」
「いや、いい。よろしく頼む。オリヴァー殿。」
「はい、よろしくお願いいたします。」
ええー。何をどう納得したのかさっぱりついていけないんだけど。
オリヴァーさんがこれからこの屋敷の管理をしてくれる、筆頭執事ってことだけはわかった。
「えっと、先にお屋敷を少し見てみたくて。」
「はい、ではご案内します。中へどうぞ。」
門がギギギと音を立てて開いていく。
「うっわあ!すごい...!」
馬車から見た時も豪華絢爛だと思ったけど、本当にすごい。
完全なシンメトリーを描く庭と屋敷。美しい緑の芝生に色とりどりの花園。真ん中には大きな噴水が水飛沫を立てて舞っていた。
お屋敷は豪華絢爛、曇りなき真っ白に輝く西洋風のお屋敷に、凝った作りの柱やなんやがついていて。圧倒的な存在感を放っている。
「やばあ...」
「見事なものだな。」
「気に入られましたか?」
「は、はいっ!」
これ本当に貰っちゃって大丈夫なんかな。
そんな疑問が湧きつつも、圧巻の光景にキョロキョロしながら、お屋敷へと向かっていく。
「わんっ!」
わん?
お屋敷の玄関の前に、可愛らしい、全身真っ白でモフモフな仔犬が座っていた。
「え!かわいい!何でこんなところに...」
「はて。ランド殿が先に犬を手配されていたのですかな?私は何も聞いておりませぬが...」
そういえばランドさん、この物件を初めて見たときに、「犬も馬もついてきますよー」って言ってたな。
その犬がこの子なのかな?
「わふわふ」
「すっごい人懐っこい!かわいいー!モフモフー!ほれ!ここか、ここがええんか!」
「わふわふ!はふはふ!ぺろぺろ」
「あはは、やめてってば、もうー!」
「わふっ!」
仔犬の肉球が額に当たる。
気持ちええ!
と思った瞬間、仔犬の手と私の額がピカッと光った。
何ー?
「ユカリ、何か光っていたようだが、大丈夫か?」
「う、うん。」
「わふ。」
仔犬がいつの間にか、口に手紙を咥えている。
「私に?」
「わふん。」
仔犬は手紙を渡すと、すりすりと体を擦り付けてきた。
か、かわいい!じゃなくて、読んでってことだろうか。
封を開けると、そこには"日本語"が書かれていた。
内容はこうだ。
『お久しぶりです、ユカリさん。
元気にしてますか?私が設定したスキルは、見様見真似で作ったものですが、ちゃんと役立ってますか?
生活で大変なことなどないでしょうか。
ユカリさんが、スキルポイントのほとんどを、生産系スキルに振ったことがずっと気になっていました。
ユカリさん危険な目になど遭っていませんか?
この世界の神様にお願いして、聖獣フェンリルの子どもを1匹、ユカリさんと契約して従魔にできるようにしました。
フェンリルの子どもはまだ小さいですが、契約者となるユカリさんの成長と愛情を受けて、身体もどんどん大きくなり、いずれは魔法や人語を扱えるようになるそうです。楽しみですね。
ユカリさんが今後も楽しく生活できるように、応援しています。では、お元気で。』
私が最後まで読むと、手紙の文字はスーっと消えてなくなった。
「え、うえーー!?」
「わん!」
「どうした!?」
「どうされました!」
愛くるしく足で耳掻きなんかしてみせるわんこを、ぷるぷると震える指で指差す。
「この子...」
「この仔犬がどうした?さっきの手紙はなんだ、読めないし消えてしまったが、マジックアイテムだろう?」
「フェ」
フェンリルの子どもで契約して従魔になった。
と言おうとして、口を押さえる。
芋蔓式に転生とか神様とか全部言ってしまうことになってしまう。
オリヴァーさんはともかくとして、リュウのことは信頼してない訳じゃない。危険なことにもついてきてくれるってわかってる。
でもリュウ側の事情は何も教えてもらってない!
だからこれはもう、意地なのである。
「ふぇ、ふぇー、かわいい仔犬だよねー?私もう名前決めちゃった!リル!リルってどうかな?」
フェンリルだけに。
リルが「わん!」と嬉しそうに鳴く。
「...さっきまでの驚き方は名付けの話などではなかったと思うが...読めなかった手紙を何故このリルが持っていたのか、という謎も残っているし。ユカリ、私に何か隠しているだろう?」
「何のことかなー?リル、行こう!」
「わん!」
オリヴァーさんは、「ふむ」と髭を撫でている。
リュウは逃げた私を追いかける訳でもなく、じーーーっと、リルを見ていた。
「まあ、危険はなさそうだからいいか。ユカリが、とても喜んでいるしな。」
リュウのその呟きは、リルと楽しく戯れる私には、聞こえなかった。
次回更新は、2月8日朝8時の予定です。




