価値観の相違
「困ったなー、店舗の褒美だけ返上するとか...」
「それはできません。」
ランドさんがキッパリと答える。
「これは王命です。...ふむ、ユカリ殿、何か店舗の条件の希望はありませんか?」
「なるほど、そうですね...あ、あんな感じの店が素敵ですね。」
私は閑静な住宅地にポツンと一軒建っていた店らしき物件を指す。
「もう少し商店街や冒険者ギルドに近い方が理想ですけど...とてもかわいらしい外見で、庭もあるので花も植えれそうですし、内装も自分好みにできそうな大きさです。窓も大きなガラスで中が見えるようになっていて、高級感もあるけど、中が見える分とっても入りやすそうですよね。ああいうのが理想です。あ、できれば二階建てだと尚いいですね。」
と、ランドさんに言ってみると、
「商店街や冒険者ギルドって市民の行き交う大通りじゃないですか。しかもあんな外見で防備の面はどうなってるんです?え?本当に本音で言ってます?冗談じゃなく?褒美ですよ?どんな店でも思いのままですよ?」
ランドさん、めっちゃドン引きしていた。
リュウは、「15点。防備が甘すぎる。」と、これまた辛口の評価である。
「いやいや、私は貴族の皆様相手ではなく、市民の皆が楽しくお買い物できるお店にしたいんですよ。」
「いやユカリの扱うものは、市民には買えないものが多すぎる。」
そうなの!?
「そんなことないよ!市民にも手が出せる価格で販売するよう!」
「じゃあ、売らないとは思うが、レアユ1匹いくらで売るつもりだ?」
「レアユを販売できるほど仕入れ先があるんですか!?」
そんなランドさんをリュウが制する。
「じゅ...10万ユートでどう?ちょっと強気すぎ?」
ランドさんが盛大に吹き出す。
「は!?10万!?」
「た、高すぎる?じゃあ8万くらい?」
「馬鹿者。市場が混乱するばかりか、店が襲撃されることもありえるぞ。レアユはな、1000万ユートでも安いくらいだ。」
「1000万!?」
そんな高いの!?毎朝食べてるけど!?
「その他にも、ユカリの採ったり作ったりするものは、規格外のものが多くなるだろう。私としては、貴族や王族相手に商売した方がいいと思っている。危険すぎる。ユカリにとっても市場にとっても。」
「いやいやいや、そんなことはないでしょう!ね、ランドさん、リュウが大袈裟なんですよね!?」
ランドさんがぷるぷると若干震えながら、ジェスチャーでめっちゃ否定してくる。
マジか。
「レアユはうまいだけじゃない。魔法系のスキルが上がりやすくなる効果がある。普通は氷漬けにしてオークションに出品される。その底値が1000万ユートだ。決して大袈裟じゃない。そういう物の価値がまだわかっていないユカリは危険な目に遭う可能性もある。」
ランドさんが首振り人形みたいに、めっちゃ頷いてる。
マジなんだな。
「と、いうわけだ。防備の面から考えて、砦の店が1番だろう。貴族街や王城からも近いしな。」
「やだ。」
「なぜだ、ユカリが危険だと言っているだろう。」
「...いくない。」
「ん?なんだ?」
「かわいくないから、やだ!」
初めてのお店が砦だなんて絶対嫌だ!
「ユカリ、あのな...」
「やだって言ったらやだ!!」
私はリュウから、ぷいと顔を背けた。
「ユカリ...」
「でしたらやはり、1番初めにご案内した屋敷が良いのではないでしょうか?」
ランドさんがにこにこ笑いながら提案してくる。
「あの屋敷は王城からも近く、防備の面では、こちらが安心できる人材を派遣しましょう。ご心配でしたら、内装や外装は好きなようにしていただいて構いません。その際かかった料金はこちらで負担します。使用人もこれから選定しますので、口が固いものを手配します。」
「使用人は、口が固いだけでなく、戦闘経験のある者を頼めるか」
「かしこまりました。」
「ちょっと待ってよ!あそこにはしないってはじめに言いましたよね?」
ランドさんは「ええ。」と、頷く。
「でもユカリ殿とリュウ殿は、世界中を旅する予定なのですよね?その間、店は誰が管理するのですか?信頼できる雇い人が既にいらっしゃるのですか?」
「それは...」
「使用人には当然読み書き計算社交的取引のできる、信用できる者を手配するので、ユカリ殿がいらっしゃらない間、ある程度の取引を任せることもできますし、屋敷も管理することができます。お二人にぴったりの条件では?」
「うぐぅ...」
「まあ、あの屋敷を少し防備を固めて、戦闘経験のある口の固い使用人を手配してくれるというのなら、いいだろう。な?ユカリ。」
2人が私に最終決断を迫ってくる。
「ユカリ殿?」
「なあユカリ?」
「......はい。じゃあ1番最初のお屋敷で。」
観念してそう言うと、ランドさんは小さな声で「よしっ」
と呟いた。
「でもかわいいお店がよかったな...」
と、しょんぼりしていると、
「いつかこの街に定住したいと思える街に出会えたら、この王都での売上で店を買えばいい。市民に提供できそうなもの、物の価値は、私が教えてやるから。」
と、リュウが言ってくれた。
そうだよね、今回はラッキーでいただいた店舗...いや、お屋敷なんだし。
いつか自分で店を買おう。理想通りの店を。
私は、マジックバックから取るように見せかけながら、カバンの中で木箱を作り、氷を敷き詰め、レアユを10匹並べた物を取り出した。
「ランドさん、これ。これからお世話になりますから、ランドさんに。あと王様や王女様にもお願いします。あんなお屋敷も、こちらで条件をだした使用人も、ただで頂く訳にはいきませんので。」
「いいいい、いただけません!!」
「そうおっしゃらず!」
私はランドさんの両腕にポンとレアユを載せた。
ランドさんがぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷるぷると小刻みにかつて見たことがない速さで震えている。
「落としてもまだありますから!大丈夫ですから!!」
「は、はいいいい!」
震えるランドさんを馬車へ押し込んで、私たちは最初のお屋敷、いや、私たちのお屋敷へと向かうことにしたのだった。
次回更新は2月4日朝8時の予定です。




