マイホームへようこそ!
※リュウ視点でご覧ください※
「じゃーん!ここがマイホームでーす!!」
ユカリはそういうと、胸を張ってみせた。
さっきまでの空気とは全く違う、暖かい風が吹いている。しかもこれは魔力の風だ。風魔法という意味ではない。魔力そのものだ。
大地は終わりが見えない大草原だ。今まさに太陽が沈もうと...太陽があるのか!?亜空間に!
「お?気づいてしまったかね。ここには空も大地も川も風も太陽も月もある。常春で夜はちょっとだけ涼しい。そんな理想の場所なのだよ!」
ユカリの様子から察するに、魔力の風が吹いていることには気づいてないようだ。
大地に手を翳し、川の流れもまた手で感じてみるが、どれも魔力の塊だ。この川は魔力の流れが強すぎる。生物は住めないだろうな。だからユカリはセイントサーモンを外で育てていたのだろう。うまく育たなかったのだと思われる。
奥の方には大規模な牧羊地と牛舎、それに薬草地が見える。
あ、あれはエアシープ!大変気難しく、餌や世話に大変な気を遣わなければ、いい毛を刈らせてくれないあのエアシープ!なんて毛ヅヤだ!もこもこふわふわだ!しかもエアシープは毛が生えそろうのに3年はかかるというのに、全員がもう生えそろっている。......まあ、この大地の草原は魔力でできている。無限に生えてくるのだろうな。魔力たっぷりでおいしい餌、広く暖かな牧羊地だから、あんなに毛ヅヤもよいのだろう。きっと数ヶ月もせず毛も生えそろうのだろうな。
奥の牛舎では、んもおおお!と気持ちよさそうな声がする。一体何が起こっているのだろうか。
あとあの薬草地の薬草随分と貴重なものに見えるが...
更に奥に進もうとすると、ユカリに「どこに寄り道してるのー?もういくよー!」と言われてしまった。正直もっと奥を見てみたかった...。
仕方なく後をついていくと、一軒の家が私たちを待っていた。見た目はただのログハウスだ。
「ここが私たちの家!マイホームだよ!」
家!?私たちの!?
感動で身体が震える。同じテントではなく、同じ屋根の下で過ごそうというのか!いやそれはまだ早くないか?清く正しいお付き合いをだな!私はユカリを大事にしたいのだ。
「といっても、暫定ね。リュウは身体が大きいし、同じ家だと気兼ねするだろうから、リビングスペースなんかは共用にして、明日にでもリュウの家を作りましょう。」
咄嗟に首を振ってしまう。しかも縦に。......一緒のままでよかったのに。
「安心して!ちゃんと内鍵を付けてあげるね、その方がお互いに気を遣わずゆっくりできるよね。」
ユカリの気遣いは、私を更にどん底に落とした。年頃の乙女の行動としては正しいのだろうが、それでは気軽に行き来ができないではないか。わ、私だってユカリともっと...
あの気を利かせてくれた店員のくれた、この消音の魔道具は、まだまだ使う機会はなさそうだ。私は荷物の奥に魔道具をしまった。
「とりあえず今日は客間を使って。荷物整理できたら一休みしてお茶にしましょう。」
「わかった。」
客間の一室に荷を下ろし、簡単に仕分けをして使いやすくすると、ふとベッドが気になった。
...あのエアシープの毛を使っているのだろうか。
ドアをじっと見つめる。ユカリの気配は無い。よし。
思い切ってゴロンと寝っ転がる。
な、なんだこれは!?ふかふかなだけではなく、なんだ!下から突き上げてくるような弾力性がある!ものすごく心地がいい!最高では無いか!
ベッドから1人用の大きな足を伸ばせるソファーを見つけて、よもやと思いながら、そっと腰掛ける。
ふぁーーー!これも最高だ!このような椅子に私は座ったことがないぞ!寝れる!ソファーで5秒で寝れる!
その時、コンコン、とドアを叩く音がして、慌ててドアを開けにいく。
「リュウー?荷解きできた?」
「ああ、だいたいな。ユカリ、ここの家具は素晴らしいな。」
ユカリの顔がパァッと明るくなる。
「そう!?ありがとう!ゆっくり寛いでね。あ、そうだ、トイレの使い方だけ教えていくね。」
ユカリが去った後早速使ってみた、すいせんといれと、うぉっしゅれっとというやつは、私を天国へと誘った。
「リュウ!こっちこっち!お茶しよー!」
私が階段を降りていくと、ユカリが嬉しそうに出迎えてくれる。
「これはねー、アイスクリームっていうんだよー。」
ユカリが鉄の箱からだしたそれは、白い煙がたっていて、熱いものかと思ったが、冷たすぎて冷気の靄がたっていたらしい。
「これはうまいな!レイゾウコという魔道具もすばらしい!」
だが、少し冷えてきたな...少しだけ寒い仕草を見せると、ユカリは「エアコンつけるねー」と、何かを操作した。天井近くにつけられた箱から暖かい風がでてくる。
「な、なんだこれは!?」
「ちなみに冷たい風もでます。」
すごい発明だ。どれだけの回路を魔石に刻んでいるのか見当もつかない。これだけでひと財産築けるだろうに。
私がそう言うと、「オーバーテクノロジーってやつはマイホームだけって決めてるんだよね」とユカリは言った。
意味はよくわからないが、これを世に出す気はないのだろう。非常に残念なことだ。私はやはり、幸福を招くスキルのおかげで、こういったものにあやかれているのだろう。
自分のスキルに感謝である。
「じゃあ私夕飯作るね、ちょっと待ってて。」
ユカリの料理は、舌がとろけるほど美味しかった。
そして風呂に案内された。風呂なんて、普通は王侯貴族しか入らない物だが...ユカリいわく、掘ったら出たらしい。亜空間の大地から温泉が出てたまるかと言いたいが、そういうものなのだろう。
「天然温泉!源泉掛け流しだよ!ゆっくり入ってね!」
しゃわーとぼでぃーそーぷと、しゃんぷーりんすで髪と体の汚れを丁寧に落とすと、お風呂に入る。
じんわりとした魔力が染み渡った温泉は、体をほぐし、温めてくれる。なんらかの回復機能もあるだろう。
「ここが天国か...。」
「リュウー?タオル作ったからここに置いておくね。」
「ああ、ありがとう。」
仕切りの向こうからユカリの声が聞こえて、少々気恥ずかしい気持ちになったが、ユカリが気にしてなさそうなので私も声には出さない。
「リュウー!明日からは、マイホームの大改造、いや、大開拓だからね!よろしくお願いするよ!期待しまくり!」
「ああ、まかせろ。」
その日の夜は、一つ屋根の下という状況を鑑みるに眠れないなと思っていたが、私はあっさり最高のベッドに陥落したのであった。
リュウは結構かわいいヤツだと思うのです。




