月の華の涙
「さて...」
実は、転移したのは、精霊の森に作ったセイントサーモンの養殖池だ。
溢れるほど養殖されたセイントサーモンを次々収納していく。短時間でこれほど増えてると思わなかったよ。たまに来なきゃならんね。
まずここを空にしなきゃならない。勿体無いから全部収納する。
その様子をリュウがじっと見つめる。
「見事なもんだな」
「そりゃどうも。でも秘密ね。」
「当然だ。主に戦争に巻き込まれて欲しいと願う奴隷がどこにいる。」
「戦争で主が死んだら奴隷じゃなくなっていいんじゃないの?」
「犯罪奴隷はそうかもしれんが、普通の奴隷は稼ぐ手段や居場所を無くすだけだ。それに主が戦争で死なないとしても、付いていかなくてはならなくなるかもしれないんだぞ?」
「あー、なるほど、そりゃ嫌だわ。」
リュウが「そうだろう?」と頷く。
「ちょっと必要な薬草とか取ってくるね、マイホーム。」
マイホームから必要な薬草を抜いて収納すると、家の倉庫から必要な素材も収納して、マイホームを出る。
リュウが、固まっていた。
「どしたの。」
「き、消え...」
「マイホームっていう、亜空間に行く空間魔法だよ。後で案内してあげる。」
「...空間魔法使い一人で戦争の戦況を覆すと言われたわけだ。」
もう空間魔法は絶対秘密にしよ。
私は心に決めた。
浄化の魔石を敷き詰めた聖なる養殖池の中心に向かって、服のまま、ザブザブと入って行く。
「お、おい。大丈夫か、風邪をひくぞ。」
「大丈夫だよ。...うん、ちゃんとあるね。」
今夜は満月だ。満月の光が、月の華の涙という恵みをもたらしてくれていた。
「これが、最後の素材。」
そっと掬うと、創造知識の導き出した最適解を元に、調合に必要な素材を、聖なる養殖池に浮かべる。
彼を、治すために。
「調合」
聖なる養殖池が光を放つ。養殖池に敷き詰めてある魔石に含まれた浄化の魔法が、この薬を作る手助けをしてくれてるのだろう。
「リュウ」
「...」
「来て。」
「...ああ。」
「苦しいかもしれないけど、我慢して。」
「...わかった。」
リュウが池の中に入ると、ジュウという焼けるような音がした。
「大丈夫!?」
リュウは歩みを進める。その度にジュウジュウと音がする。
「問題ない。」
やがて中心にたどり着くと、リュウは調合した瓶を持つ私の手を包み込む。
「これを飲めばいいのか?」
「そうだよ。」
リュウは吸い込まれそうなあの青い目で私をじっと見ている。光が反射してまるで夜空の月が浮かんでいるようだ。
彼は、ふっと表情を緩める。
「ああ、まるで御伽噺に出てくる精霊の物語のようだ。」
「またそれか。まあいいや。」
リュウは瓶を手に取ると、
「飲むぞ。」
「うん。」
ごくりと一気に飲み干した。
彼の体から黒い靄のようなものが出てくる。とても苦しそうだ。
創造知識によれば、この黒い靄は聖なる力で祓わなければならない。聖なる養殖池でも祓いきれない。私には聖なる力なんてない。でも、私は、
浄化スキルレベルMAXの女だ!!
渾身の力を込めて魔法を放つ。
「浄化!!」
彼の体から出る黒い靄が晴れて行く。光に包まれ、靄は完全になくなった。
よかった。やってやったぜい。
「あとは、鑑定で確認...を...」
バシャーン!
「おい!大丈夫か!?おい!」
そうして私は、気を失ってしまったのだった。
短くて申し訳ない。キリがいいので!




