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しかも、それにはニースの父であるディーダロイド侯爵とクレート王子殿下が関わっていた。
むしろ彼らは父を矢面に立たせ、自分達はその利益だけをうまく奪い取るつもりだったのではないか。マリアンとニースの婚約が継続困難になってしまった以上、父を陣営に引き込むのではなく、自分にとって有益になるように利用しようとしたのだろう。
おそらく彼らの計画では、悪事が露見しても、父だけが捕まるはずだった。
ディーダロイド侯爵だけではなく、クレート王子殿下にまで辿り着いたのは、本当に奇跡的なことだったのではないか。
マリアンは、目の前にいるリオを見つめた。
彼は、王太子殿下の側近だ。この件にも関わっているのだろう。
国が禁止している商品を密輸した主犯となれば、爵位や領地も没収されてしまうかもしれない。
どうなったとしても、死んだことになっているマリアンには、関わりのないことだ。それでも、罪を犯した父は仕方がないが、さすがに母のことは気懸りだった。
「その、伯爵家はどうなったのでしょうか?」
両手をきつく組み合わせて、わずかに震える声で尋ねる。
リオは気遣うようにマリアンを見ていたが、大丈夫だと伝えると、ゆっくりと詳細を話してくれた。
「最初にドリータ伯爵家だが、取り潰されることはないようだ」
「……本当ですか?」
まさか密輸という罪を犯した家が、許されるとは思わなかった。
驚きのあまり声を上げたマリアンの問いに、リオは頷く。
「ああ。一応、主犯はドリータ伯爵ということになっているが、クレート殿下とディーダロイド侯爵が、彼を唆したのではないかと言われている。王族と爵位が上の侯爵家から強要されたとしたら、断れなかったのではないかと言われていた」
「そうですか……」
やはり父は、二人にうまく利用されてしまったのだ。
「だが残念なことにきみの弟も、密輸には深く関わっていた。彼に爵位を継がせることは、もうできないだろう」
「まさか、アルマンまで?」
二つ年下の弟の名前を呼び、マリアンは唇を噛みしめた。
たしかに父によく似ていた弟だったが、密輸していた父を諫めるどころか、加担するような真似をするとは思わなかった。
「では……」
「ドリータ伯爵は、きみの叔父が継ぐことになる」
「叔父様が?」
父の弟で、爵位を継ぐ立場になかった叔父は大きな商会の娘と結婚して、家を出ている。
叔父が婿入りした商会は、それからさらに大きくなっているので、商才はあるのだろう。加えて、父と違って人情に厚い人柄なので、慕っている者も多い。
叔父ならば、きっとドリータ伯爵家を真っ当な方向に導いてくれるに違いない。
「きみの母親は、新しくドリータ伯爵夫妻となる二人が、引き取ってくれるそうだ」
「……よかった」
母は引き続きあの屋敷で暮らせると知って、ほっとする。
叔父の妻は平民だが、控えめで優しい女性である。きっと母のことも悪いようにはしないだろう。
だが、家族は全員バラバラになってしまった。
こうなってしまったからには、父と弟にはしっかり罪を償ってほしいと思う。
「それから、ディーダロイド侯爵家のことだ。取り潰されることはなかったが、当主と嫡男のニースが罪を犯したことにより、存続が難しくなってしまったようだ。娘のリエッタが婿養子を取って、その相手に爵位を継いでもらうしかないだろう」
第二王子クレートと婚約寸前だったリエッタだったが、クレートも罪人となってしまったことにより、彼と結婚することは、もう不可能になってしまった。
取り潰されることはなかったものの、当主と嫡男が罪を犯してしまった家を、わざわざ継いでくれる者はいるのだろうか。しかもディーダロイド侯爵家はドリータ伯爵家と違って、経済的にも厳しかった。
もしいたとしてもかなりの年上が、訳ありの男になってしまうかもしれない。
マリアンは、義姉になるはずだったリエッタを思い出す。
自分は王族に嫁ぐのだと、いつもマリアンを見下していた。メイドのように使われたこともある。
そんな彼女だったが、さすがに少し、気の毒に思う。
そして、第二王子のクレート。
彼は王族でありながら国の法律を破ったことで、かなり厳しく罰せられるようだ。王族の地位をはく奪した上で、辺境にある牢獄に幽閉されることが決まったという。
それだけでもかなり厳しいように思うが、これでも国家反逆罪で処刑されるところを、側妃の必死の懇願により、何とか減刑になったということだ。




