9/アンタの名前②
文字って難しいですよね。
例えば、自分が100文字で説明したくても、
相手にとってそれは長くて、読みたくない言葉かもしれない。
簡単に理解するためには、50文字で十分な時があるかもしれない。
もしくは、もっと視的にするには200文字必要かもしれない。
人それぞれ、そうした受け取り方ができてしまいます。
別に金を払ってやってるわけでも、もらってやってるわけでもないですが……
しっかり、自分の世界というものを字体で表現したいとは思っています。
片っ苦しい前書きですが、
わかりやすい字面を目指していきます。
●車内
飯嶋ソエギは、迎えに来た車の窓から景色を眺めている。
ただただ、呆然と。
走り去っていく景色は、目まぐるしく変わっていく。
「いや大変だったね、ソエギちゃん。事務所までもう少し我慢してくれよ」
「はい、ありがとうございます」
呆然と、ただ言葉を話す。
運転手との会話もあまり覚えていない。
「すみません。ちょっと仮眠をとります」
「あ、それならそこにある毛布使ってよ」
「はい、ありがとうございます」
と、畳まれていた薄い毛布を被り、口元を覆う。
ゆっくりと、目を閉じる。
瞼に残るのは、パトカーの赤いランプ点滅。
後部座席に詰め込まれる、女性マネージャーの姿。
「…………お礼、いえなかったな……」
彼女がしてくれていた事も、愛情。
そして、彼女がソエギを大事に想うがあまりの行き過ぎた愛情。
どちらも、裏表のない純粋な愛情なのかもしれない。
『なぜ感謝が必要なのですか?』
と、膝に置いた携帯が喋る。
運転手に気づかれないよう、くぐもった声で答える。
「……だって色々と助けてくれたし……仕事をくれた恩人みたいな人だったし……」
『しかし、それはお互いの仕事のため。相互理解、相互扶助のためでは?』
「まぁそうだけど……さ……」
『理解ができません。理由は明確にお願いします』
「……もういい……アンタと話してるとなんか疲れる……まぁでも、その……ありがとう、守ってくれて……」
×××× ×××× ××××
「ソエギちゃん、起きて。そろそろ事務所着くよ?」
どれくらい仮眠をとったのか。
すっきりとした意識が、浮上する。
「……ふぁ……」
車窓には、歩道を行きかう人混み。
頭上には、電気街を象徴する看板の数々。
ここは、秋葉原の周辺。
もう少し奥まった方へ進めば、事務所がある。
電光掲示板が忙しなく、映像を切り替えていく。
煌めくそれに目が止まる。
萌えキャラというのだろう。
2次元の人間と同じ等身キャラがポーズをとっている。
その美麗な映像に、どこか既視感を覚える。
「あ。そういえばアンタの名前呼びづらいよね。アンタ、アンタ、アンタってばかりじゃ申し訳ないし」
『――私の事ですか?』
うん、と頷くソエギ。
膝で、よく喋ってくる携帯。
その中に居座る、女性を模した人工知能。
確か、独立型人工知能試作103号という名称だったか。
『呼びづらいも何も、私のデータ名称は独立型人工知――』
「――決めた。アンタは”電姫ちゃん”。電脳の姫って書いて”電姫ちゃん”で決まりね」
『いえ、その前に私の話を聞いてください』
「そうだ! 電姫ちゃんがいれば、クラウドファウンディングとかSNSとか手を伸ばせるかもッ!?」
『それは護衛の範囲外です。私は貴方を守るために創られたのであって』
「そんな事いわないで手伝ってよ、ねッ? 私が有名にならなかったらストーカーとか減って護衛しがいもないでしょ?」
確かに、と言葉短めに賛同する電姫。
「んじゃ決まりね。私はもっと超人気アイドルを目指す。電姫ちゃんはそれをサポ―トして、私を護衛するって事で!!」
その数年後。
国民的アイドルユニット”レモンスカッシュ”が紅白歌合戦に参加したのは語るまでもない。
最後まで読了、ありがとうございます。
今回のテーマは『4コマ風コメディ』だったんですが……
途中で『イイ話』チックになりました。
序章に対して、
急降下するラストがどうにも気に入らず……
(頭でっかちな感じが)
結果として、後半を結構ふくらませて
バランスをとりました。
個人的には後半にもしっかりコメディタッチにしたかった事。
最後のセリフがもう少し刺さる感じにしたかった事。
そのような、したかった事だらけですが、
次に生かしていきたいと思います。
ここまで読んでくださった方、ありがとうございます。