8/アンタの名前①
自分へのご褒美その2。
何かの行為に対して、対価を求める。
コレを終わらせたら、漫画の新刊を買うとか(笑)
イコール時間ではなく、あくまでも価値や体験で決めてます。
……あまりにも退屈な話ですが……
●握手会の会場/控室
『――そろそろ介入してよろしいですか?』
「誰ッ!?」
女性マネージャー、機敏に反応して室内を見回す。
いるはずがない。
ここには、飯嶋ソエギと自分自身だけ。
手配している迎えの車も、直接、キャンセルしたはず。
抜かりなく、控室の扉には中から鍵をかけた。
『”空気を読む”とは存外に難しいものですね。コード化されているわけではありませんし、中々に抽象的な表現で理解に苦しみます』
ずっと黙っていたせいもあって、妙な饒舌が携帯から漏れてくる。
それもあって、室内の2人の目線が携帯に集まる。
「もしかしてアンタ、ずっと黙っていた理由がそれなの?」
『はい。大局的に見て、ストーカーの犯人である貴方のマネージャーが室内にいる。これから私が護衛し捕縛する。何も問題はないかと』
人間の情事には興味ありません、といい捨てる携帯。
『では、話を戻しましょう。先ほどまでのお2人の接触は動画に残しました。自らを犯人として認めた発言含め、十分な証拠になるでしょう』
携帯の中にいる少女が、流暢に喋っているせいか。
もしくは、知らずに証拠動画を撮られ窮地に立たされているせいか。
女性マネージャー、もといストーカーは言葉を失う。
『5分前、警察に連絡を入れました。そろそろ到着する頃ですね。貴方は袋のネズミともいえます』
次第にソエギの拘束も緩み、ストーカーの手を剥がす。
ソエギ、喋る携帯を印籠よろしく、ストーカーに向けている。
本当は立ち上がって、胸を張って掲げたい。
だが、腰が抜けているためソファの端で座りながらだ。
ソエギ自身、満足に逃げられる状態ではない。
頼みの綱は、手元の携帯のみ。
「そ、そんな証拠ッ! 携帯さえ壊せばッ!?」
ストーカー、細い手を勢いよく伸ばす。
ソエギの携帯を奪おうとするが――
『ちなみに貴方達の情事含めた、証拠はすでにクラウドサービスへ動画はアップロード済みです。あとは全世界に配信すればどうなるか、ご存知ですよね?』
――ぴたりと、止まる。
『加えて、貴方のプロフィールや社会的な経歴など個人情報もファイルに添付済みです。私が他人へ閲覧を許可をすれば、情報漏洩は回避できません』
「う、うそよ! デタラメ並べないでよッ!」
唐突に電子音が鳴る。
聞き覚えがある電子音に、ストーカーは自身の胸ポケットを見下ろす。
『今、貴方の携帯に公開する動画などを送りました。もし嘘だと信じるならばどうぞ確認してください』
逡巡するストーカー。
しかし、ゆっくりと上着のポケットに手を入れる。
手慣れた手つきで、送られてきた動画を開く。
×××× ×××× ××××
まず映りこむのは、建物内の真っ白な廊下。
そこへ向こうから、警備員が歩いてくる。
「申し訳ありませんが、迎えの車はキャンセルできますか? ソエギも動揺してますし、もう少し時間をおいてから帰したいので」
落ち着いてから私が後で車を呼びますので、と声がする。
「わかりました。迎えの車にはそう連絡します」
と、会釈する警備員。
上下に揺れながら、映像が進んでいく。
ある扉の前で立ち止まると、細い指が数回のノックをする。
「――ソエギ? 入るわよ?」
×××× ×××× ××××
『ちなみに動画は途中で、こちらの携帯視点にもなるよう編集しているので後半は貴方の人相が映ります』
「…………」
血色がなくなっていく、ストーカー。
『さぁ社会的に死ぬか、法律の元で裁かれるか。選んでもらってよろしいでしょうか?』
読了、ありがとうございます。
頭の先から、つま先までコメディタッチを心がけましたが……
脱線多く卑猥あり、シリアスありでお届けしていきます。
生暖かく見守っていてください。