7/裏表のない愛情
自分へのご褒美その1。
動画やアプリ。
休憩がてらに動画を観ると、止まらない。
携帯いじり始めると、キリが悪い。
だから、ご褒美はノルマが終わってからです(苦笑)
●握手会の会場/控室
急遽、握手会は中止の運びとなった。
先ほどの不審な男の乱入。
襲われた飯嶋ソエギの保護。
それらもあって、警備側が勝手に事を進めていく。
「では、ここで少々お待ちを。迎えの車を用意しますので」
と、警備員が扉を閉める。
こちらの了承など、皆無。
ドアノブを回してみるが、動かない。
檻に入れられた、動物のような感覚だ。
「……ったく、最悪な気分……」
飯嶋ソエギは、備え付けのソファに腰かける。
「……あ……」
気づけば、手が震えていた。
左右の足も力が抜け、根を伸ばしたように地面に張り付く。
「……私を守ってくれるんじゃなかったの? 結局、何もしてないじゃない」
と、弱音を誤魔化すように振る舞う。
『護衛はまだ継続中です。何もしていないわけではありません』
「継続ってウケるんだけど……もう犯人は捕まったじゃん」
『いいえ、それは認識の違いです。彼は――』
「――ソエギ? 入るわよ?」
数回のノックと共に、女性マネージャーの声。
「やばっ、じっとしててね!」
ソエギ、咄嗟に携帯の液晶画面をソファに押し付ける。
「どう調子は? 気分悪くない?」
「う、うん。大丈夫……だと思う……」
女性マネージャー、ソエギの左側に座る。
互いの肩や太ももが擦れ合う。
いや、強いていうならマネージャー自身が寄り添っている絵面だ。
少し、驚いているうちにマネージャーが会話を続ける。
「心配したのよ、あんな事になっちゃったから。ああいう暴漢みたいな事、今まで初めてだったでしょ?」
「うん……そうだね……」
顔が近い。
マネージャーの吐息が聞こえる距離。
彼女のまつ毛の長さまで、はっきりわかる。
手に温もり。
冷え切ったソエギの手に、肌色の違うもう1つの手。
マネージャーの手だった。
「マネージャー? 心配してくれるのはありがたいけど……どうしたの?」
これまでにないほどのスキンシップに対して疑問が浮かぶ。
「ん? どうしたって何が?」
マネージャーの頬がうなじへ伝う。
唇の生暖かい感触と、少し荒げた吐息。
耳元がどうにもうるさい。
「なんかボディタッチ激しく、ない?」
「当然よ。貴方が大切だから、自然と激しくなっちゃうのよ」
と、恋人繋ぎをしていたマネージャーの片手が離れる。
そっと、ソエギの太ももを這う。
ももの内側に滑り込むのは大した時間ではなかった。
「え、ちょっ? な、なんかおかしいよ! ま、マネージャーッ!?」
ソエギは跳ね除けようと、身動きする。
しかし、自分の首や足に絡まったマネージャーの四肢には抗えなかった。
辛うじて、女性マネージャーに目線を向ける。
「ソエギ。私ね、貴方の事が本当に大事なのよ? 貴方がまだ駆け出しの頃、インディーズだった頃も。事務所に入った頃からもずっと見てきた。貴方の歌や踊りは最高よ。私にはわかる。貴方は将来、最高のアイドルになる。だから私が守るの。私が貴方の事を大事に、守って、あげるのよ」
マネージャーの顔が、迫る。
目尻はとろけ、頬には締まりがない。
「――でも、今日はとんだ失敗だったわね。最近、元気がない貴方を慰めてあげようとメッセージを残したのに、飛び入り参加した暴漢に邪魔されちゃったし……」
「……メッセージ……?」
あまりの驚愕に、単調な言葉が出た。
「でも、まぁ貴方をこうしてゆっくり慰められるんだから怪我の功名かしらね」
ふふ、と笑いをこぼすマネージャー。
反面、ソエギは彼女の言葉を断片ながら整理する。
思考が追い付かない。
いや、思考が拒否しているのか。
もし彼女の言葉をそのまま真に受けるとすれば、おそらくきっとこうなるのだから。
「貴方が、プレゼントを送っていたストーカー……なの?」
「正解。でも、悲しいわね。今、わかるなんて。隠れて応援していたつもりだけど、私の愛情が足りなかったのかしら?」
読了、ありがとうございます。
頭の先から、つま先までコメディタッチを心がけましたが……
脱線多く卑猥あり、シリアスありでお届けしていきます。
生暖かく見守っていてください。