1/起動
思い通りにいかない事その1。
短編用に企画しても、なんだかんだ長編仕様。
<構想当初>
短編だと、ペラ30枚くらい(400字詰めで15枚)かなーと。
お、いけるいける。なんとかおさまりそう。
<途中/最後>
……予想の倍以上なんだけど……(膝折れ)
……まぁ分ければいいか!
――という感じで進めてます(笑)
●研究室(という名の自室)
おそらく、外は雲一つない晴天。
そう、おらそくだ。
分厚いカーテンが閉め切った、この部屋にはあまり日光が入らない。
外気の蒸し暑さと、油の臭い。
そして、男の臭いが混ざり合った室内。
「……で、できた……やったぞ……」
と、肩を震わせる。
その小さな笑いが、次第に身体へ伝わっていく。
「できたッ! 最高の人工知能の完成だッ!!」
研究者、諸手を上げて椅子から飛び上がる。
設計を殴り書きした紙の束が机から落ちていくが、構わない。
プログラム画面が映っている、パソコンさえ無事ならそれでいい。
構想日数1日。
作業日数7日。
睡眠も満足にとらず、この短期間で人工知能――AIが出来てしまった。
「ふっ……天才には不可能がないという事かな……」
大きな目の下のクマ。
外側に跳ね切った、脂ギトギトの髪。
伸び切った無精ひげ。
机の周辺に散らばる、缶コーヒーの数々。
床に転がったままのちり紙、設計図など。
改めて見ると、足の踏み場もない室内。
――よし、さっさと起動実験に入るとしよう。
「さぁ我が愛しき発明よ、目覚めて我の野望を叶えてくれっ!!」
寝不足がたたり、どうにも変な言い回しになる。
だが、あまり気にしない。
この指を、エンターキーに押し込めば、全てが叶う。
待望のAIが起動し、夢が叶うのだから。
「……っ、あ、れっ?」
刹那の立ち眩み。
傾く視界に戸惑い、机が揺れる。
手元に置いてあった缶の中身がこぼれてしまう。
もちろん、先ほどまで飲んでいた缶コーヒーだ。
甘い、茶色の、液体が。
机の下に備え付けた外付けハードディスクに、垂れていく。
消える、パソコンの画面。
排熱音も次第に消えていく、ハードディスク。
「え、嘘……だろ……?」
研究者、モニター画面を万力のように押さえつける。
上下に振っても、左右に振っても、反応はない。
真っ黒な画面、とそれに映りこむ自分のやつれた顔。
膝が折れて、座り込む。
ろくに寝ずに苦労して創ったAI。
完成間近で、とんだ事態になってしまった。
×××× ×××× ××××
打ちひしがれていたのは、数分か。
もしくは数秒か。
いや、数時間かもしれない。
「……?」
ふと、耳元に届く起動音。
重たい瞼を開き、目を動かす。
薄暗い室内に、モニターの明かりが灯る。
同じく、動き始めるハードディスク。
ノイズが混じりながらも、血色がない研究者の顔を照らす。
『――――――――――――』
と、ちらつく画面に人影。
ぼんやりとした輪郭。
しかし、ノイズがおさまっていく反面。
次第にその輪郭もはっきりとしてくる。
『――――――――――――』
人間だった。
詳しく例えるならば、20歳くらいの女性。
黒の長髪で、反対に肌は色白。
瞳も大きいが、表情のバランスは申し分ない。
――まさに2次元で出てくるような美少女のような風貌。
「……誰だよ……お前……?」
『…………ワタシ、は……』
喋った。
スピーカーを通して。
それは、人間の発声に近かった。
『……データ名称、独立型人工知能試作103号……』
仰々しい名前だが、研究者が起動するはずだったそれ。
「まさか、お前が……103号?」
『……はい……そう呼称されています』
元々の人工知能には、姿形は存在しない。
声だけの設計にしていたはずだ。
馬鹿げた、突拍子もない話。
どうやら発明した人工知能は、この起動実験で人間のような姿を模してしまったようだ。
読了、ありがとうございます。
頭の先から、つま先までコメディタッチを心がけましたが……
脱線多く卑猥あり、シリアスありでお届けしていきます。
生暖かく見守っていてください。