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悪魔退治は放課後で(外伝)

作者: 浅井基希

第一部「https://ncode.syosetu.com/n3766fb/」

第二部「https://ncode.syosetu.com/n1942fm/」

第三部「https://ncode.syosetu.com/n1958fm/」

第四部「https://ncode.syosetu.com/n1970fm/」


少しでも楽しんでいただけたら幸いです。



(1)

「ここ最近、悪魔が漏れる間隔が短くなってるね」

 冬休み初日――いつもの部室で、七緒がお茶を飲みながらなんとなく呟いた。

 週に一回か二回くらいに減っていた呼び出しが、このところは週に四回ほどになっている。

 ローテーションで退治には向かっているが、それなりに負担は大きい。

「確かに……そうですね」

 結も七緒と同じくお茶を飲みながら答えていた。

 七緒が転校してくる前、結が一人だった時は十日連続で呼び出されたこともあったようだが、またその頃に戻ってしまうのだろうか。

「結界の効果が切れてきたとかですかね?」

 司はのんびりとコーラを飲んでいた。

「そんなお部屋の消臭剤みたいなことあるの……?」

 七緒はそうツッコミながらも、そういえば寮の部屋に置いている消臭剤――インテリア代わりの芳香剤も兼ねて――がそろそろ替え時だなと思っていた。

「さあ……? 先輩に訊いてみないとですけど」

 司が困ったように返す。

「先輩さん――枢要(すうよう)な時に居ませんね?」

 枢要――つまり肝心な時に先輩が居ない。父の総一が良く使っていた言葉なので、七緒も辛うじてわかったのだけれど、アリーチェが謎の語彙力をフル活用していた。

「論文の追い込みらしいですよ」

 司がサラッと先輩の現状を言う。

「高校生なのに論文?」

 論文のようになんとなく難しいというか高度なものは大学生――それも卒業間近の人が追われるものだと七緒は思っていたのだけど、相変わらず先輩が謎だった。

「――高校生でも、論文を出せるのよ。勿論、小学生でもね」

 部室のドアが開くと共に、先輩が得意気にそう言いながら入ってくる。

「あ、噂をすれば影です」

 アリーチェがまた謎の日本語能力を発揮していた。

「結界近くに異常が出たから飛んできた。悪魔の反応ではないみたいだけど、気になって」

 片手にスマートフォンを持ちながら先輩が定位置に進む。

「異常……でもモニターには何も……」

 司がそう言いながら、地下通路の中を映し出している各種モニターを凝視する。

 最終的には部員総出で確認することになった。

「死角に何かあるのかもしれない。そこで、行ってきて欲しいのよね。万が一の為に三人で」

 先輩が笑顔で七緒たちを見ている。

 呼び出しがない穏やかな日だと思っていたけど、そう来たか――

 七緒たちは準備をして地下通路へと向かうことになった。


(2)

 七緒たちは久しぶりに三人で地下通路を歩いていた。

 ここまでに悪魔の気配はない。しかし先輩は結界の近くに異常があるという――

「本当に何かあるのかな?」

 七緒は歩きながら、結とアリーチェに話しかけていた。それでも、周辺への注意を途切れさせることはない。僅かな異変でも察知できるように、神経を集中させていた。

「何もないなら、それはそれで良いことですし……」

 結も返事をしながら、同じく注意を切らすことなく、入念に辺りの気配を探っている。

「つつがなく済むのが一番です」

 アリーチェはまた難しめの言葉を口にしている。最近、辞書を読んでいると話していたし、珍しい言い回しにハマっているのだろうか。

「そうだね。無事が一番だ――ちょっと待った」

 第一段階の結界のすぐ近くで、地面を蠢く何かの影が七緒の目に入った。

 悪魔の気配ではないが、一応刀の柄に手をかけて、その影を凝視する。

 結も、アリーチェも警戒態勢に入っていた。


「人だ――人が倒れてる」

 その姿がハッキリと七緒の目で捉えられた瞬間、七緒は声を上げる。

 丁度モニターの死角になる位置だが、確かに人間が倒れていた。

 少し遠目から見た感じでは鎧――西洋のものによく似たデザイン――を身に(まと)った、ブルーの髪が目立つ女の人だった。その身体には血が滴っているのが見えた。七緒は駆け寄る。

「七緒さん、待ってください。以前に戦った七緒さんの姿を真似た悪魔かもしれません」

 今度も人間に化けて――結も七緒の後を追いながらそう続けていた。

「いや、そんな気配もないし、どう見ても人間だよ……でもこの姿、コスプレ? じゃないね。ってか怪我が酷い。とりあえず手当てしなきゃ」

 七緒はハンカチ代わりにしている大判のバンダナを取り出して、とりあえず目に見えていた腕にある大きな切り傷に巻き付ける。

「ぐ……」

 止血を兼ねてバンダナを強めに結んだ時に痛みが走ったのか、鎧姿の人物から声が漏れた。

「あ、気が付いた。大丈夫ですか? って言葉わかるかな?」

 鎧姿の人物は七緒の言葉に反応して、周囲を見渡す。

 そして――七緒たちの姿を見て、驚いたように目を見開いた。

「女神様……我が国を……姫様を助けてください……」

 鎧姿の人物は、力を振り絞るように呟いて、目を閉じていた。

「だ、大丈夫ですか?」

 結も自分のハンカチを取り出して、応急手当てをしている。

「私は……皆を……姫様――」

 鎧姿の人物は、意識が混濁しているのか、うわごとのような言葉を口にしている。

「怪我もだけど疲れ果ててる感じ……とりあえず保健室に連れて行くしかないよね。結が先導して、私はこの人を支えて連れて行く。アリーチェも私のサポート」

 七緒は一応の傷の手当てを終え、鎧姿の人物に肩を貸して、ゆっくりと起き上がらせた。

「かたじけない……」

 鎧姿の人物は支えられながら小さく呟く。

 金属の鎧姿だけどそれほど重くはない。七緒一人でも十分支えられるくらいだった。

「お気になさらず。ってサラッと流してたけどめっちゃ日本語だね?」

 しかも昔風――七緒はつい怪我人相手にツッコんでしまう。

「かたじけない? 肩を貸しているから肩ですか?」

 アリーチェが首を傾げていた。謎の語彙力でもそれはわからないのがまた謎だった。

「ありがとうという意味です」

 結のフォローが入っていた。


(3)

「――で、この人が倒れていた。と」

 七緒は保健室に現れた先輩たちに、地下通路での出来事を説明していた。

 先輩は全く驚くことなく、しかもモニターで七緒たちの状況が確認されてすぐに、保健室の準備を済ませてくれていたので、応急処置はスムーズに済んだ。

 鎧姿の人物は、見た目ほど酷い怪我ではなかったのが幸いといったところか――意識もハッキリとしてきて、手当てされている間もしきりに申し訳なさそうにしていた。

「大変お世話になってしまって、本当に申し訳なく思います」

 まだ、少し辛そうだが、司が差し出したグラスに入ったスポーツドリンクに恐る恐る口を付けると、驚いたような表情でその後一気に飲み干していた。

「会話も成り立ちそうね。あなたは一体何者? 何処から来たの?」

「先輩、そんな矢継ぎ早に――」

 結が先輩を止めようとしているが、多分先輩は止まらないと七緒は思った。

「私は、フィリーネ・ルッロと申します。所属はミスフェア王国近衛騎士団――魔物討伐の命を受け、隊を組んで討伐に向かいましたが、魔物の巣で万策尽き、最後の力で空間転移の魔法を使って隊の皆を逃がしたまでは覚えているのですが……」

 フィリーネと名乗ったその人は大きな溜息を吐く。

「自分は何故かこの世界――という訳ね」

 先輩は全てがわかっているかのように、頷いていた。何かがわかっているのだろうか。

「まさか女神様のいらっしゃる国だとは思いませんでした」

 フィリーネはそう言って、七緒と結を交互に見ていた。

「女神……?」

 七緒と結はお互いに顔を見合わせる。

「伝承には『我が国に危機が訪れる時、彼方から剣を持ちし黒髪の女神が現れる』と――」

 しかし、お二人とは――フィリーネは少し困惑していた。

「じゃあ結だね。結が女神だと思うよ」

 サラッと、七緒はそう返事をした。

「え……私ですか? 七緒さんだって黒髪ですよ?」

 結が七緒の言葉を慌てて否定するのだが、明言されて、フィリーネの表情が少し明るくなる。

 拠り所を見付けたような感じだった。

「でも私は少し茶色っぽいし――どっちかってなったら結なんじゃないの?」

「どうしてそうなるのでしょう……」

 今度は結が困惑の表情を浮かべていた。

「それはわからない」

 七緒も短く答える。結は困惑したままだ。

「私は女神様にご迷惑を――」

 保健室のベッドの上で、フィリーネが傷口に巻かれた包帯を押さえていた。

 フィリーネの手当てをしていたのは、主に結だ。

「あ、いえ、そんなこと思ってないですから」

 結が慌てて申し訳なさそうにしているフィリーネのフォローをしていた。

 なんとなく、普段の七緒と結の関係性に似ていると思った。立場が逆になっているけれど。


「その空間転移の魔法、今使える?」

 先輩は女神の話など何処吹く風といった感じで淡々と質問を投げかけていた。

「少し回復したので、使えるとは――あの不思議な飲み物が効いたのでしょうか」

「じゃあ見せて」

 流石、先輩は遠慮がない――良い意味で。

「わかりました――」

 フィリーネが中空に手を向けて、何かの言葉――呪文のように聞こえた――を呟く。

 差し出されたフィリーネの手の平の辺りが白く光ったのだが、一瞬で消えた。

「……何も起きませんね」

 経緯を見守っていた司が言う。

「途中でかき消されたような感覚です」

 もう一度――フィリーネが呪文を唱える。また少しだけ光ってすぐに消えた。

「どうして……」

 フィリーネは自分の両手を見て、力なく呟いている。

「ふむ……もう一度地下通路に行ってみましょうか。動ける?」

「あ……どうでしょう。まだ少し身体が重くて……長時間は無理かもしれません」

 魔物の巣なら足手まといになってしまう――フィリーネがまた申し訳なさそうにしていた。

「焦っても仕方ないわね。今日は解散。寮にこの人連れて行ってゆっくり休ませてあげて」

「部屋がないし、勝手に良いんですか?」

 確かに休ませないとどうにもならないだろうけれど、急に言われても――

「私の部屋、ベッド一人空いてます」

 アリーチェが、手を上げていた。

「じゃあそこで寝かせてあげて。話は私から通しておくわ」

 よくわからないけど、話が通るのだろうか――先輩の手腕が謎でしかない。

「えっと、じゃあ、肩貸します。結、鎧とか持って行くの手伝って」

 七緒はまたフィリーネに肩を貸して、立ち上がらせる。それなりに回復できていたようで、今度はあまり支えを必要としていなかった。

「かたじけない……」

 フィリーネからまた昔の言葉が出てきた。

「良いんですよ。困った時はお互い様――なんかわからないけど」

 七緒もまたそう答える。そう答えるしかこの状況を乗り越える術がなかった。


(4)

 寮に戻って、少し休んでからの夕食――全員が同じものを食べていれば、フィリーネも警戒せずに食べられるだろうということで、食堂で揃って食事をすることになった。

 寮生のほとんどは冬休みで実家に帰っているし、残っているのは七緒たちを含めた数名――皆少々のことでは動じない人たちばかりなので、フィリーネを見て驚くこともない。

 多分違うとわかっているのに、新しい留学生かと訊いてきた人も居たくらいだ。


「これが、女神様の国のお食事なんですね」

 目の前に並んだ今日の夕食を見て、フィリーネが感激したように結に話しかけていた。フィリーネはまだ身体が重いそうだが、食欲はあるらしく、かなり回復してきているようだ。

「女神様ではないです――お口に合いますか?」

 結は困ったようにそう返していた。

 フィリーネは相当空腹だったらしく早速味噌汁を飲んでいる。

「はい。この汁物はミスフェアのものとよく似ています。おいしいです」

 ワカメと豆腐を食べるのは少し迷っていたが、七緒が大丈夫なものだと証明するように率先して食べていたので、それを見てフィリーネも続いていた。

「食べ物が似てるっていうのは、女神様の話と関係あるのかな」

 フィリーネの言う女神様の国が本当に此処なら、食べ物が似ていても不思議ではない。

 七緒はフィリーネに尋ねながら、不安にさせないように、あえてゆっくりとそれぞれのおかずを順番に食べていた。フィリーネは七緒の一挙手一投足を見て、続いて同じものを食べている。

「我が国には女神様が現れる時、新しい文化がもたらされるという伝承があります。もしかしたら以前お出ましになった時に伝わったものかもしれません」

「そんなに何回も危機がやってくるところなんですか?」

 結が尋ねる。

「いえ、普段は平穏な国なのですが、魔物が大量に出現することがあって……」

 今、どうなっているのか――フィリーネの表情が曇った。

 魔物――多分七緒たちの世界で言う悪魔のことだろう。

 そんなに手こずる相手ではないとは思うが、七緒たちのところに漏れてくる悪魔が弱いものなのだとしたら、フィリーネの国には強い悪魔がいるのかもしれない。

「そっか。とりあえず今日は沢山食べて眠ろう。自分の国に帰るのにも体力がいるからね。これ栄養がある食べ物だから沢山食べて」

 七緒は今日のメインメニューのカキフライをフィリーネに差し出す。

「はい――お気遣い、痛み入ります」

 フィリーネはやはり昔風の言葉遣いだった。

「私もお裾分けします」

 アリーチェも自分の皿を差し出していた。


(5)

 翌日――地下通路の入口に剣術部の全員とフィリーネが集まっていた。

「来たわね。体調はどう?」

 先輩はフィリーネを見るなり開口一番で体調を気遣っていた。

 この辺りは優しくて良い先輩だと七緒は思う。

「かなり回復しました。皆様のおかげです」

 フィリーネは鎧を着込んで、キッチリと身なりを整えていた。

 所々に見える包帯はまだ痛々しいけれど、それなりに休めたようだった。

「そう。じゃあ地下通路の中に行くわよ――あ、七緒ちゃんこれ持つの手伝って」

 先輩が足元の大きなスーツケースを指差す。

「重っ……何が入ってるんですか」

 キャスターが付いているのに転がすのも重たいものだった。

「計測機器とか諸々。このリュックにもバッチリ」

 サムズアップで先輩が答える。スーツケースの影に隠れていた登山用のリュックが現れた。

「それも重そうだけど、持てます?」

 七緒は思わず余計なことを言ってしまった。持てないとなると、持たされるのは七緒だ。

「研究者には体力も必要なのよ。これを持つくらいのトレーニングはしているわ」

 そう答えると先輩はかなりの重さがありそうなリュックを軽々と背負っていた。

「先輩がわからなくなってきました」

 何故その体力があって実戦に出てくれないのか――刀の使い方ならいつでも教えるのに。

「……謎の多い女って素敵よね」

「そうかなあ……あ、結これ手伝っ――」

「――わなくていいわよ」

 七緒の言葉を先輩が打ち消す。

「なんでですか」

「結ちゃんを女神だということにしておけば、フィリーネの国に行けた時に話が早いでしょ?」

 異国から来た奇妙な一団でも、女神の仲間ならそうそう酷い扱いは受けないと先輩が言う。

「流石、計算高いですね」

「お褒めにあずかり光栄だわ」

 確かに褒めたけど、半分褒めてない――七緒は心の中で複雑なツッコミを入れていた。


「ところで、なんで地下通路にもう一度なんですか?」

 入口から少し進んで、フィリーネを発見した辺りへと向かう途中、結が先輩に訊いている。

 ちなみに、七緒を手伝うという結の申し出は、先輩の作戦の為に何度も断っていた。

 フィリーネはその度に「優しい女神様だ」と感心していたので先輩の作戦は成功している。

「結界が此処にあると言うことは、此処は外界と隔てられていることにもなるのよ」

 先輩が静かに語り出す。

「はあ……」

 七緒も重いスーツケースを転がしながら相槌を打つ。

「あと、この場所は風水で見れば龍穴――平たく言えばパワースポット的な場所になる」

「――ということは?」

 七緒は続きを促す。

「どんな力が秘められているか、わかり得ない――違う世界への扉があっても不思議ではない」

「急に説明ぶん投げました?」

 何か特別な理由があるのだとは思っていたけれど――これでは謎が増えるだけだ。

「だって此処の地下通路、調べたら磁場とかなんか色々あるのよね。説明するの面倒」

 論文書くから待ってて――先輩はそう言って話を打ち切っていた。


「フィリーネを見付けたのはこの辺りだったかな」

 ここまで転がしてきたスーツケースを一旦止めて、七緒は地下通路の地面を見た。

 出血をしていたので、その痕跡が残っているはず――僅かにあった。

「――なるほど。カメラの死角で結界の近く。あと、磁場がかなり乱れている」

 そう言って、先輩は手に持っている何かの計器を確認していた。

「フィリーネ、此処で空間転移の魔法使える?」

 先輩は計器を手に持ったまま付近を数歩歩いて、ある一点を指差していた。

「はい。わかりました」

 フィリーネがその場所に立ち、空に向けて手を差し出して、呪文を唱え始めた。

 手がぼんやりと光り出し、やがてその光が徐々に強くなる。

 一際――強い光が放たれ、止まったその場所には、見たことのない――だけど何処かで見たような街並みが見えていた。


「空間が開いたようね」

 先輩は全く驚くこともなく、淡々としていた。

「見慣れない街並みが見える……海外っぽいけどでもなんか違う」

 七緒が遠目に覗き込んでそう呟く。

「ヨーロッパでも見たことないです」

 アリーチェも不思議そうに見ていた。

「ミスフェアです――これで戻れます」

 フィリーネは感極まったのか、目に涙を浮かべている。そういえば、どれくらい故郷から離れていたのか、まだ訊いていなかった。

「待った。私たちを連れて行って」

 先輩は礼を言って故郷に戻ろうとするフィリーネの手を掴んでいた。

「ええ――言うと思ったけどやっぱり? 戻れなかったらどうするんですか」

 そういえば先輩はさっき「フィリーネの国に行けた時」と言っていた。

 しかし、流石に七緒は先輩を説得にかかる。

「此処の磁場の乱れは永続的なもの――それに従うなら、いつでも戻れる計算」

「どういう計算なんですか……」

 そろそろ七緒もツッコミ疲れてきた。

「一気に全員で行くのは危険性が高い――アリーチェちゃんと司ちゃんは一旦残ってサポート。はい、発信器。使えるかどうかわからないけど。あとマップにマーク付けといて」

 先輩はテキパキと準備を進めている。こうなった先輩を止められる者は誰も居なかった。


(6)

 七緒たちはフィリーネが作り出した光の中を行く――先輩を除いて半強制的だが。

 一瞬光に包まれたかと思うと、見知らぬ路地裏のような場所に出ていた。

「……なるほどね。磁場の乱れがあの場所とほぼ同じだわ。同期してると言っても良い」

 先輩は即座に計測器を確認して、メモを書いている。気のせいじゃなく、イキイキしている。

「此処がフィリーネの住んでる国なんだね?」

 七緒は周囲を見渡して耳を澄ませる。すぐ近くに大きな通りがあるようで、人々の喧噪が間近に聞こえてきた。馬の足音もするが、何かのエンジンらしき音も時々聞こえる。

 空気は少し乾いていて、樹木の匂いを微かに感じた。周囲に自然が多い土地なのだろうか。

「はい――無事に戻れて嬉しいです。まずは王宮に行かなくてはなりません。女神様がお出ましになったことをお知らせしなくては――急ぎで馬車を手配してきます。お待ちください」

 フィリーネは足取りも軽く、大通りの方向へ走り出していた。

 故郷に戻れて調子が良くなったのかも知れない。

「私は女神様ではないですから――って、行ってしまいました」

 結は困惑したまま――昨日からずっと困惑しているが――溜息を吐いていた。

「こうなったら女神様で押し通そう」

 七緒はフィリーネが去っていた方向を見ながら、結にそう提案する。

「無茶を言わないでください。昨日七緒さんが急に「結が女神様だよ」ってしれっと言い出した時も相当驚いたんですから」

 溜息交じりで結が答える。先輩はまだ色々と周囲を計測している。

「でも見知らぬ場所で不安になってる怪我人を安心させるにはアレしか方法ないよ?」

 信じられるものが全くない場所で一人放り出されてしまったら、誰だって心細くなるものだと思うけれど、そこにもし一つでも安心できる要素があるなら、それを押し出すしかない。

「確かに、昨日はそれがわかったのであまり否定しませんでしたけど……」

 七緒が説明しなくても結はその意図を汲んでくれていた。

 持つべきものは寝食を共にするルームメイトで、なんか色々な間柄の人だと七緒は思った。

「あと、結を女神様だって思ってるから、フィリーネは私たちを信用してくれてるんだと思う」

「……ですけど、私なんかより七緒さんのほうがずっと風格があるじゃないですか」

「風格……?」

 なんだろう。結には見えている何かが七緒にはあるのだろうか。

「今もそうですけど、少々のことでは動じないですし」

「それは突拍子のない両親で鍛えられたのかも――あ、フィリーネが戻ってきた」

 ザッと見る限り、とても豪華な装飾が施された四頭立ての馬車が、路地裏にやって来る。

 フィリーネに促されて、全員が馬車に乗り込み、王宮へと向かうことになった。


(7)

「フィリーネ! 良く無事で……」

 王宮の謁見室――フィリーネが先導して部屋に入った途端、一人の少女――と言っても七緒たちと同じくらいの年齢だと思う――がフィリーネに飛びついてきた。

 七緒たちの世界ではピンクアッシュとされる髪色で、瞳もそれに近い――紫色をしている。

「姫様……ただいま戻りました。隊の皆は……」

 少女を受け止めて、すぐにその身体を自分から離して、フィリーネは厳かに片膝をついて(こうべ)を垂れていた。姫様と呼んでいたので、この国の王族なのだろう。

 謁見室には他にそれらしき人は居ない。

「皆、怪我は負っていますが、もう回復しています。だけど、あなただけが居なくて――どうしたのかと……」

 姫様と呼ばれた少女は、膝をついて敬意を表わしているフィリーネと同じ目線になって、その無事を心から喜んでいるようだった。

「……申し訳ありません」

「謝ることではありません。あなたは皆を助けた功労者です。魔物も今のところは前線で食い止められています。あなたがいち早く戦える人たちを守ったからですよ」

 穏やかに、それでもハッキリと言い切る。

「ルーチェ様……」

 困ったような――それでも嬉しそうなフィリーネの表情だった。

 ルーチェがこの少女――姫の名前のようで、名前を呼ばれた時に嬉しそうに微笑んでいた。

「――怪我をしていますね。少しの間、動かないで、回復魔法をかけます」

 包帯イコール怪我なのだということはこの国でも共通らしく、ルーチェが包帯を巻かれているフィリーネの腕に手を当てる。

「そんな、姫様自らそんなことをされては――」

「心配しないで。誰にも、文句は言わせません」

 フィリーネが慌てて制止するが、ルーチェはそう言い切ると呪文を呟き始めた。

 手が赤く光り、フィリーネの包帯を照らす。

 やがて、その光りは優しくフィリーネの全身に広がっていた。

「回復魔法――これも興味深いわね……」

 先輩が小さく呟いている。絶対に変なスイッチが入っていると七緒は思った。


「お待たせしました。女神様――この度はありがとうございます」

 今度はルーチェが七緒たちの前に歩み寄り、(かしず)くように片膝をついて、頭を下げていた。

 この国では敬意を表わすにはこの姿勢を取るのが一般的らしい。

「いえ、そんなかしこまらずに、立ち上がって普通にしてください」

 明らかに自分の目の前で傅かれてしまった結が慌ててルーチェを立ち上がらせる。

「しかし、伝承の女神様に失礼があっては――」

 どちらかと言えば、普段は結が七緒に対してそういう行動をしそうなだけに――しないけど、この逆転現象のような状態に結が戸惑っているのは明らかだった。

「姫様――女神様たちはとてもお優しくて、気取らない方々です」

 魔法のおかげでかなり回復したらしいフィリーネが、昨日一日で七緒や結たちにどれだけ世話になったかを話し始めた。

 ルーチェもその話を興味深そうに聞いて、改めて七緒たちに礼を言う。

「是非ともお礼がしたいのですが、何がよろしいですか? なんでもご用意いたします」

 お好きなものを――ルーチェは従者を呼んでいた。

「そんな、私たちは――」

 七緒も結も揃って申し出を断ろうとする。

 大体、お礼が欲しくてフィリーネを助けた訳ではない。

「――是非、この国を見学させてください。様々な見聞を広めたく存じます」

 七緒たちの言葉を遮って、先輩が一歩前に出て、(うやうや)しく頭を下げていた。

「先輩……」

 やはり、先輩は遠慮がなかった。良い意味と悪い意味で。


(8)

「伝承では前回お出ましになったのは、約百年前――その時残された剣は国宝になっています」

 七緒たちは先輩の謎の交渉能力のおかげで、まずは王宮内の宝物殿を案内されていた。

 しかも姫であるルーチェ自ら案内するという異例の待遇――らしい。

「これは、どう見ても日本刀だね。結構新しい……っても多分江戸時代後期のものかな」

 ルーチェが指し示した天井まであるガラスケースの中には、明らかに日本刀が飾られていた。

 飾り方は西洋剣の飾り方の一種のように、鞘と刀を交差させて壁に掛ける形式――七緒は刀掛けに置かれている刀を見慣れているので、この飾り方に少しの違和感はあるけれど、とても敬意を持って大事にされていることがわかる。

「あ……」

 七緒と同じくその刀を見ていた結が小さな声を上げた。

「どうしたの?」

 何か気になることがあるのだろうか――全てが気になると言えばそうなのだが。

(はばき)にある家紋がうちの――橘内家のものです……」

 刀身と鍔の間――刀身を柄に固定する金具部分――確かに紋が彫られているが、橘内の家紋にそっくり、と言うよりはそのものだと結が言う。言いながら物凄く困った顔をしていた。

「じゃあ前回の女神様は、結のご先祖様……?」

 だとしたら、この状況にも色々納得出来るような気もする――七緒の勝手な感想だけど。

「それはわかりません、けど――」

 そう言って結は小さな溜息を吐いた。

「こうして目の前にあったら、ねえ……」

 それ以上のことは七緒も言えない。本当は「やっぱり結が女神様と関係してるよね」と言いたいけれど。多分言ったら結を今以上に困らせると思う。

「はい……認めるしかないです」

 七緒の言いたいことが伝わったのだろうか。

 やはり、持つべきものはルームメイトで、なんかよくわからない関係の結だと思った。


「女神様は色々な文化も広めてくださいました。その中のひとつ、紙で作られたお金です」

 次に案内されたケースの中には紙幣が飾られていた。

「これも……どう見ても昔の紙幣的な……」

 七緒が呟く。書かれている文字は日本語だし、明らかに紙幣だった。

「日本銀行券、いわゆる紙幣の中でも唯一、人物が左側に描かれているものね」

 スマートフォンでガラスケースの中を撮影をしながら先輩が解説を始めた。

 ちなみにスマートフォンは圏外で通信は出来ないらしい。

「先輩なんでそんなに知識のカバー範囲が広いんですか」

 七緒にはなんだかよくわからない結界のメカニズムから昔の紙幣に至るまで――多分、先輩がクイズ大会に出たらぶっちぎりで優勝できると思う。

「部費の管理運用をしている身としてはお金の知識も入れないと」

 当然のように先輩がそう返事をする。

「そういうものですか?」

「ええ。勿論、仮想通貨もカバーしてるわよ」

「凄いとしか言えないですけど、部費ってどれくらいあるんですか」

「んー、ビルが建つくらいね」

「……どの程度のビルなんですか」

 ビルと言っても、数千万円で建つものから何百億とかかるものがある。

 ――数千万円でも部費としては多すぎると思った。

「ご想像にお任せするわ」

 先輩は含みを持たせて笑っていた。


「それにしても、女神様とか言ってるから、もっとなんかこう……」

 王宮内の一通りの案内が済んで、休憩のために迎賓館へと自動車で移動することになった。

 その車中でフィリーネが自動車――フィリーネたちは機械車と呼んでいる――は王国内でも王族と一握りの富裕層しか持つことの出来ない乗り物だと言うことを説明してくれたのだが、正直ミスフェア王国は七緒が想像していたよりも、遙かに近代的だった。

「文明が遅れていると思ってた?」

 先輩が七緒の心中をズバリと言い当てる。フィリーネも居るのに、遠慮がない。

「――先輩、失礼です」

 結が咄嗟に(たしな)める言葉を口にしたが、フィリーネは全く気にしていないようだった。逆に先輩の持っているスマートフォンなどを興味深げに見て、やはり女神様の国は凄いと言っている。

「その言い方は抵抗がありますけど、正直に言えばそうなります」

 車窓から見る通りには馬車が行き交っているけれど、街灯はおそらく電気が通っているものだし、先程の王宮内も今思えば電気の照明が点いていたと思う。

「私たちの国だって黒船来航から約百五十年で今の技術レベルになってるのよ? 新しい文明が入った後に正当な進化の道を辿れば、多少の差があっても文明はそれに比例するわね」

 珍しく大真面目な表情で先輩が話している。

「そんなものですか」

「そういうものよ。人の知恵や探究心というものに大きな差はないのだし」

 むしろ魔法がある分、こちらのほうが進んでいるかも――先輩がそう続けていた。


(9)

「身体が軽い気がしない?」

 豪華な迎賓館に着き、自動車を降りた時、先輩が不意にそう言った。

「言われてみればなんとなく動きやすいですけど……」

 結がそう答えて七緒を見る。七緒も頷いた。

 七緒は相変わらず先輩のスーツケースを転がす役目なのだが、なんとなくその荷物が転がしやすくなっていたのだ。

「車の中で重力を計算していたのだけど、地球の重力の九割くらいなのよ」

 なんでも流れる車窓から見た景色と、自分の持っていたリュックの感覚から計算したらしい。

 そんなことが出来るのかと謎なのだけど、先輩なら出来るかもしれないのが不思議だ。

「どういうことですか」

 七緒が訊く。

「ちょっと此処で垂直跳びしてみて。思いっ切り」

「はい――って、あれ?」

 先輩に促されて七緒がその場でジャンプする――と、普段よりも明らかに高く飛べていた。

「予想してたより少し高く飛べたでしょ? ほんの僅かだけど、戦う人には結構重要な差じゃないかしらね」

「……と言うことは、結も私も戦いやすい?」

「ミスフェアの人たちより身体能力が高くなっているということですか?」

 七緒は結と顔を見合わせる。

「二人とも偉い。女神様の由来がそこにもあるかもね」

 そう言って先輩はまたスマートフォンに向かっていた。


(10)

 迎賓館の応接室――七緒たちはフィリーネから、現在の魔物との戦いの状況を詳しく解説してもらっていた。やはり、この世界の『魔物』という存在は、七緒たちの世界の『悪魔』という認識で間違いはないようだった。

「フィリーネ様――」

 七緒たちが詳細を訊いていたところに、息を切らせた兵士――言葉使いから見ておそらくフィリーネの部下――が走り込んできた。

 フィリーネは「失礼」と言い残し席を離れ、その兵士のほうへと向かう。


「思っているよりも戦況があまり良くないようです……姫様に避難をしていただかなくては」

 数分後に七緒たちの近くに戻ってきたフィリーネは険しい表情をしていた。

「ルーチェ様って王女様なんだよね? 他の王族の人たちはどうしたの?」

 七緒がフィリーネに訊く。

 王族と言っていたことからも、そのような立場の人が、この国にたった一人だとは思えない。

「第三王女様です。他の皆様は――既に安全な他の街に避難しておられます」

 少しだけ困ったような顔でフィリーネが答える。

「じゃあ、なんで姫様はこの街に残ってるの?」

「姫様は「自分まで避難してしまったら兵士の士気が下がる」と、お一人で危険な役目を引き受けることになりました。近衛である私も、姫様をお守りするため、傍に残りました」

「大事なお姫様なら、危険な街に残るだなんて言えば猛反対されそうなものだけどねえ」

 出されたお茶を興味深げに飲みながら、先輩がサラッと踏み込んではいけないところを踏む。

「先輩――」

 結も嗜めるが、この先輩はそんなことで止まる人ではない。

「……姫様は反対を押し切って、此処に残る決断をなさいました。そういうお方です」

 そう話すフィリーネは険しい表情をしながらも、少し誇らしげだった。

「――強い人だね」

 七緒はそう返す。

 全てを一人で背負ってしまう、似た人をよく知っているだけに、他人事には思えなかった。

「そのご厚情に報いるために、我々は――少なくとも私は、命に代えても姫様を守らなくてはなりません。女神様にお縋りするのは心苦しいのですが、なにとぞ力をお貸しください」

 跪いて、深々と、フィリーネが頭を下げる。

「フィリーネさん……」

 結もまた困惑している。どう返事して良いかわからないようだった。

「まずはルーチェ様を避難させてから、此処にいる全員で魔物を倒すってのはどう?」

 先輩がフィリーネに告げる。ありきたりだけど、女神の言葉ならルーチェも従うはず――これで少なくともルーチェの安全は確保される。とのおまけ付きで。

「王宮に戻りましょう」

 フィリーネが立ち上がっていた。


(11)

「――私は此処に残ります」

 王宮――フィリーネから先輩の作戦を聞いても、ルーチェは頑なだった。

「それでは姫様の安全を保証できません。お願いですから避難を、女神様もそう仰って――」

「私には王族としての義務があります」

 ルーチェの覚悟を示す、意志の強い言葉だった。

「しかし……」

 フィリーネもなんとか説得を試みているが、ルーチェは一向に首を縦に振らない。


「結に負けず劣らず頑固……」

 少し退いた場所に居た七緒は、隣に居る結に聞こえるようにわざとそう呟いた。

「どう言う意味ですか」

 結が七緒を見て少しだけ不満そうにしている。

「そのままの意味」

 結と視線を合わせてから、七緒が笑って答えた。

「もう……」

 まだ不満そうだけど、頑固だという自覚があるのか、それ以上の文句は返って来なかった。


「まだ案があるわ――前線は現状でなんとか固定して、その間に結ちゃんを含めた精鋭たちで一気に巣を叩く。回復魔法を使えるルーチェ様にも参加してもらうけど、どう?」

 押し問答をすること数分――なんとしても避難をしないと言っているルーチェに、先輩がもう一つの提案をしていた。先程の案とは正反対の作戦だ。

「わかりました。これでも王族です。最低限戦える術は身に着けています」

 ルーチェはこの作戦にはすんなりと乗ってきた。

 お姫様というのは、七緒が思っているよりも強い存在なのだろうか――だけど自分で戦うと言い出す辺り、やはり結に似ていると思った。

「姫様――それでは姫様をお守りすることが出来ません」

 突拍子のない作戦に、フィリーネも手を焼いている感じになっている。

「何があっても、私が決めたことです、覚悟はしています」

 最後はルーチェがそう押し切っていた。


(12)

「よし、じゃあ一旦準備で学校に戻りましょう。フィリーネ、またあの魔法使える?」

 話がまとまった所で、先輩はテキパキと、また計器を取り出して、周辺を探って、一点を指し示す。曰く、磁場の周期が合っているそうだ。

「は、はい――」

 フィリーネが言われるがままに空間転移の魔法を使う。

 現れた場所は、七緒たちが見慣れたいつもの地下通路だった。

「向こうからこっちに来るために少しの間フィリーネを借りるわね。あ、逃げ出したと思われても困るから、七緒ちゃんを預けて行くわ」

「何か言うと思ってたらそれですか。結、ロッカーにある私の予備の刀もお願い」

 七緒はポケットからロッカーの鍵を取り出して結に投げ渡す。

「わかりました。すぐに戻ります」

 結は鍵をしっかりと受け取って、大事そうに握りしめている。

「うん。待ってるね」

 七緒は軽く手を振っていた。

 戻って来られなければ永遠の別れになるかもしれないのに、案外あっさりと送り出してしまったかもしれないと少しだけ思った。


「――ということで、少し待っててください。って、どれくらいかかるんだろう?」

 七緒はルーチェのほうを向いて、心配させないように笑顔でそう言う。

「わかりました……」

 ルーチェの表情は少し沈んでいる。

「フィリーネが心配ですか?」

「……はい。本来なら一人の兵士に肩入れをしてはいけないのですが、心配です」

 溜息交じりで、ルーチェが呟く。

「そういえば、フィリーネさんは、命に代えても姫様を守るって言ってましたよ」

「フィリーネらしいです。私なんかより、この国を守るというもっと大事な使命があるのに」

 そう言いながらも、ルーチェに少しの笑顔が見えた。

「……私にも命がけで守りたい人が居るんだけど、その人は頑固だからなかなか守られてくれなくて、逆に私が七緒さんを守りますとか言って無茶しちゃう人なんだよね」

 七緒は結たちが帰ってくるまでの暇つぶしに、ちょっとした雑談を始める。

「――それは、女神様のことですか?」

 女神様――結のことだ。すぐにわかってしまう辺り、ルーチェは流石王族――それなりの観察眼があって、人の上に立てる存在なのだと思う。

「そう。すっごい頑固で、一人で全部背負っちゃう人――姫様みたいに」

「私……ですか? 女神様みたいだなんて、(おそ)れ多いです」

「でも、全部背負っちゃうところとかすっごい似てる。だから、守りたい側の人からのお願い。姫様も少しはフィリーネさんに守られてあげてください」

 七緒はゆっくりと、おかしなお願いをしていた。

 ルーチェと結が似ているからこそ、無理をして欲しくない。そんな気持ちだった。

「私は、ずっと守られてばかりの立場ですよ?」

 ルーチェが苦笑いで七緒に返している。

「だけど――こんなこと言っちゃ駄目かもだけど、本当に自分だけが助かれば良いって人なら、とっくに安全な街に避難してるでしょ? でも姫様は危険かもしれないこの街に残ってる」

 しかも、更に危険なところに行こうとしている――と七緒は続けた。

「それは、王族として当然のことです」

 ルーチェから返ってきたのは、何処までも気高い言葉だった。

「でも、他の人たちはいち早く逃げて誰も居ない」

「……」

 七緒は純然たる事実を突き付けた。それでもルーチェは静かに笑っている。

「私の勝手な感想だけど、本当に信頼できるのは、姫様みたいな人だなって思うんだよね」

「――フィリーネと同じことを言うのですね」

「同じこと言ってたの?」

「ええ、以前、信頼できるのは私だけだと」

 ルーチェはそう答えると懐かしむように、微笑んでいた。

「じゃあ、もっとフィリーネさんを頼ってあげて。難しいかもだけど、立場とか関係なく、友達みたいに。勿論、それ以上でも環境が許せば」

「友達――それ以上」

 ルーチェが何かを考えるように目を閉じる。

「余計なお節介だけどね」

「いいえ、とても素敵なお節介です。それ以上、そうですね。もう少しフィリーネを頼ります」

 閉じていた目を開いたルーチェが、真っ直ぐに七緒を見ていた。

「――あ、帰ってきたっぽい」

 空間に僅かな揺らぎが見えて、見慣れた地下通路が目に入ってくる。


「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーンです!」

 大荷物を抱えたアリーチェが、元気に言葉通り真っ先に飛び出してきた。

「アリーチェは何処でそういう言葉覚えてくるの?」

 七緒は苦笑いでツッコミを入れる。

 難しい言葉は辞書を読めばなんとかなるだろうけど、こういった謎の言葉は辞書にはない。

「さっきのは学園長が言ってました」

 アリーチェが楽しそうに犯人を答えた。

「学園長……」

 七緒は頭を抱える。

「一度父を張り倒しておきますねー」

 続いてやってきた司がいつものように飄々(ひょうひょう)と流していた。

「お願いしとく」

 七緒もサラッと答える。もっとも、悪い言葉ではないのだけれど――

「戻りました。七緒さんの刀――しっかり持ってきましたよ」

 次いで出てきた結は自分の物も含めて刀を数本抱えていた。七緒は礼を言って受け取る。

 その様子をルーチェが見ていて、「友達以上――なるほど」と呟いていた。


(13)

「現在のところ前線で食い止められているようです。しかし数が多いので兵士の疲労も大きく、持久戦に入るともう少し難しい局面に――」

 伝達係の報告を聞いたフィリーネが現状を簡単に解説していた。

 七緒たちは魔物の巣に回り込むように離れた場所で、野営をしている。

 剣術部の五人――先輩と司はサポートなので、戦いに出るのはいつもの三人。

 そこにルーチェとフィリーネが加わる形で、一気に魔物の巣を叩くという作戦だった。

「――持久戦の前に遊撃で巣を叩く。そういえば、フィリーネが見た魔物はどんな姿だった?」

 今回の敵がどんな姿をしているのか――七緒たちは一番大事なところをまだ聞いていない。

「虫のようですが、節の多い足が八本もあって、動きも素早かったです。しかもそれが大量に」

 フィリーネの話では大きさはそれほどではないとのことだった。

「節の多い足が八本の虫――蜘蛛みたいな感じですかね?」

 司がノートPCを開きながら思考を巡らせている。

「……クモ?」

 ルーチェとフィリーネが同時に疑問の言葉を口にしていた。

「ん? この世界は蜘蛛が居ない?」

 こういう感じの足が八本ある虫だよ――七緒が地面にゆるい絵を描く。

 ルーチェもフィリーネも不思議そうにそれを見ていた。

 二人曰く、足が八本もある生き物は見たことがないらしい。

「七緒先輩、絵下手ですね」

 司の容赦ないツッコミが入る。が、データ引っ張り出しますとノートPCに入っている図鑑の写真を表示していた。勿論PCはネットには繋がっていないが、オフライン版の辞書のようなものはそれなりに詰まっているようだった。

「――似てます」

 フィリーネはその技術に驚きながらも、しっかりと表示されている画像を見て、答える。 

「私たちの世界では『蜘蛛の子を散らす』なんて言葉があるように、大量に卵を産む生物ね」

 先輩が補足の説明を入れた。

 魔物――七緒たちの世界では悪魔――は、その姿に似た能力を持つということは、七緒たちの世界では既に広く認識されている。

「では、親のような存在が巣に居て、大量に卵を産み続けているということでしょうか」

 ルーチェが先輩に尋ねていた。

「あり得ない話ではないわね。無尽蔵に沸いてくるようでも元を叩けば、途切れる」

 魔物の巣が示されている地図を見ながら、先輩は不敵に笑っている。

「――親蜘蛛だとしたら、相当大きな魔物が居るんじゃないですか?」

 訊きながら結は、自分の刀を念入りにチェックしていた。

「そういうことね」

 先輩はサラッと、わりと重要なことを口にしている。

「うわー……」

 巨大な蜘蛛を想像すると結構エグい。七緒はそれしか答えられなかった。


(11)

 魔物の巣に向かう森の中――結構険しい道が続いている。

 フィリーネと七緒で多い茂る木々を薙ぎ払いながら、少しずつ魔物の巣に近付いていく。

 真ん中にルーチェを置いて、その後ろを結とアリーチェで守る形だ。

「姫様、此処まででお疲れではありませんか?」

 小一時間森の中を進んだくらいの場所で、フィリーネがルーチェに訊いていた。

 地図上ではおそらくもう数十分程進めば魔物の巣に辿り着くはず――英気を養うならこのタイミングだろう。

「ええ、私を気にせず前に――いえ、気遣ってくれてありがとう。少し休みましょうか」

 少しだけ笑ってルーチェが答える。

 フィリーネは嬉しそうに、ルーチェの座る場所を整えていた。


「結も疲れてない?」

 少しの悪戯心で、七緒も結に訊いてみる。

「私は山籠もりで慣れてます」

 思った通り、結は弱音を出さない――というか、甘えてくれない。

 七緒にはそれで良いのだけど、少しくらい甘えてくれても良いのになとは思う。

「何処の家も似たような修行するんだね」

 七緒はそう返す。七緒も小さな頃から山籠もりで修行をしていた。

 なんとなく変な連帯感だけど、七緒としては少し嬉しかった。


「お姫様のお名前、ルーチェ、イタリアの言葉、私の故郷の言葉で光という意味です」

 少しの休憩の間、アリーチェが人懐っこくルーチェに話しかけている。

「光――それは素敵ですね。私も、この国の光にならなくては」

 ルーチェもまた、七緒や結たちとは違う感じの人――に興味があるようだった。とても楽しげに話をしている。

「お姫様もう光です。一緒に戦うこと、偉い人には難しいです」

 アリーチェがもっともなことを言っていた。

 確かに立場のある人、特にルーチェのような存在は、なかなか自らを危険に晒すことはない。

 仮に何かあれば国の運命さえ大きく左右されるものなので、一般的にはそれが定石なのだが。

「ありがとう――」

 ルーチェはそう答えて笑っていた。


(12)

 休憩が済み、また森の中を進むことしばらく――周囲の空気が少し変わった。

 七緒たちが良く体験している、悪魔が出て来るあのピリピリした感覚――フィリーネにもそれが伝わったようで、険しい表情になっていた。

 鬱蒼と茂る木々の向こうに大きな影が確認できる。

 やがて、その影は七緒たちを察知して、ゆっくりと七緒たちに向けて動き出した。

 七緒は予備の刀を地面に差してから、帯刀している刀の柄に手をかけて、間合いを計る。


「来ます――」

 結が息を呑む。

 ガサガサと木々を薙ぎ倒しながら、魔物がその姿を顕した。やはり、蜘蛛のような姿だった。

 しかしその大きさは大型バスくらいある。七緒が今までに遭遇したことのない大きさだった。

「硬そうだね。でも先に関節を狙えばなんとかなるかな……」

 まずは様子見で――七緒が魔物に向けて走り出す。狙いは足の関節――懐に入り込んで抜刀、足関節に刀が入り込んで、容易に斬り落とせた。

 いつもよりも遙かに早く動けていたのは、先輩が言っていた重力の違いのおかげだろうか。

 魔物は残ってる足で七緒を狙う――鋭い爪が七緒を襲った。

「七緒さん――」

 結が間に割って入り、刀で爪を受け止める。力での押し合いになり、結は上手くその力を逃して流れるような動きでその爪の根元の関節を斬り落としていた。

「お二人とも……凄い……」

 フィリーネの感嘆が聞こえる。しかし、背後で何かが大きくざわめく音が聞こえた。

 大きさは遙かに小さいものだが、同じような姿をした魔物が、大量に居たのだ。

「アリーチェ! こっちは任せて!」

 七緒は声を飛ばす。

「わかりました――」

 アリーチェは魔物の群れに突き進む。居合いの一振りだけで、何匹か倒せたようだ。

 しかし、多勢に無勢――長くは持たないだろう。早く大元にケリを付けなくてはならない。

「私も加勢します、姫様はそこで」

 フィリーネも剣を抜き、魔物の群れに立ち向かっていた。


「結は右側、私は左側、行ける?」

 七緒は結に確認を取る。

「はい。行きます」

 結も短く答えて、指示された方向に走り出していた。

 大元の大きな魔物の足はあと六本。

 多いが、一つずつ対処していけばなんとかなる――七緒は刀を振るう。

 その間にも無尽蔵とも思える数の魔物がアリーチェたちを襲っていた。


「姫様――何を――」

 フィリーネの焦った声が聞こえる。

「この数は二人では間に合いません」

 ルーチェが剣を鞘から抜いて、群れに対峙する。

 一匹、群れから飛び出した魔物を、鮮やかに斬り伏せた。

「ルーチェ様、能ある鷹です!」

 アリーチェの陽気な声がする。まだ余裕がありそうだ。


「あと一本――」

 七緒は順調に魔物の足を断ち斬っていた。結のほうはあと二本――七緒と違って斬り付ける力が少し弱い分、完全に斬り落とすには一回余分に攻撃をしなくてはならないせいだ。

 それでも魔物の体躯のバランスは崩れ、項垂(うなだ)れるように頭部が下がっていた。

 早く決着を付けるために急所を狙うべきか――一瞬の迷いの後に、七緒は自分の側に残っている魔物の足を駆け上がる。

 ――そして、魔物の頭部に刃を突き立てた。

「くっ……!」

 予想よりも外皮が硬い――刀が飲まれていた。しかし、圧し斬れば動く程度ではある。

 七緒は柄に力をかけるが、途端、魔物の身体が大きくのたうつように暴れ出した。

「うわ……」

 七緒は咄嗟に柄を強く握り、その大波に飛ばされないようにしがみつく。

「――七緒さん!」

 結の心配そうな声が耳に届く。その頃にはもう、結は魔物の足を全て斬り落としていた。

「大丈夫!」

 結に返事をする。吹っ飛ばされても高さは二メートルくらいしかない――重力を考えても大したダメージにはならないだろう。

「くっそ……もう少し……」

 魔物が少し落ち着いた頃合いを見て、七緒はまた魔物に刺さったままの刀に力をかける。

 一段、刀が深く入り込む――そこでまた、魔物が大きく身体を振り回し、七緒を振り落としにかかり始めた。確実にダメージは与えているのに、魔物の最後の足掻きが激しかった。

 振り回している魔物の身体が、予備の刀を差している地面の辺りに近付いた時、七緒は自分からしがみついている刀を手放して、地面に転がり落ちた――勿論受け身をしっかりと取って。

 もう少し衝撃があるかと思っていたが、思っていたより痛くなかった。

 七緒はすぐに体勢を立て直し、予備の刀を地面から抜いて、魔物に向かって走り出す。

(ふし)を狙う――」

 外皮をそのままでは、急所まで届かない――それならば、足と同じように魔物の身体の節々、柔らかいと思われる場所に斬り付ける。

 攻撃が通った。七緒は続けて攻撃を加える。

 結もそれに続いて、暴れ回る魔物の隙を突いて絶え間なく連撃を繋げていた。


「姫様――私のことは良いから退いてください!」

 焦ったフィリーネの声が聞こえる。フィリーネは利き腕を押さえていた。怪我をしたようだ。

「駄目です、手当てを――」

 ルーチェはフィリーネに回復魔法をかける――手の平が僅かに赤く光って傷口が閉じた。

「お姫様――すごいですね! 遠慮なく戦えます!」

 普段から若干好戦的なアリーチェが、更に奮起して小さな魔物の群れに突っ込んで行った。

 怪我の心配がない、してもすぐに治るというのは心強いものだが――逆に好戦的なアリーチェのおかげで、ルーチェの動きが抑えられたので文字通り怪我の功名と言ったところだった。


「これで、どうだ!」

 七緒と結が引き受けている大物――七緒はその腹部を斬り落としていた。

 結が続いてその斬り口から頭部の側に向けて、追い打ちをかける。

「く……」

 やはり外皮が硬いのか、結も苦戦していたが、なんとか一気に斬り込めていた。

「倒せた――?」

 動かなくなった魔物の身体が徐々に霞のように薄くなる。

 この辺りは七緒たちの世界での悪魔と同じだった。

 魔物の頭部に刺さったままだった七緒の刀が地面に落ちる。

「七緒さん、後ろ!」

 ほっとしたのも束の間、結がまた刀を構える。

 斬り落とした腹部の外側は消えていたが、その腹の中から小型の魔物が大群で現れた。

 おそらく魔物の最後の力で残した卵が孵ったもの――その証拠に同じ姿形をしている。

「うわー終わらないねえ」

 七緒は急いで刀を拾い、二振りの刀を構えた。

「――七緒さん、二刀流ですか?」

 八瀬流剣術には入っていない戦い方――結が驚くのも無理はない。

「一応ね、これでも色々出来るんだよ? ――全部倒すよ」

 七緒は両手に持ったそれぞれの刀で、残った大量の魔物を斬り伏せていった。

「はい!」

 結が続く。もう少し、二人の戦いは続いていた。


(13)

「終わったあー」

 目に付く魔物を全て倒して、七緒が大きな息を吐く。

「こっちも片付きましたー」

 少し離れた場所で、アリーチェがまた陽気に手を振っていた。それでも、それなりに苦戦はしていたようで、制服はボロボロだ。フィリーネもまた、息を切らせて傷口を押さえていた。

「姫様――ご無事ですか」

 自分の傷に構うことなく、フィリーネはルーチェの前に跪き、その身を気遣う。

「ええ、私は――フィリーネ、動かないで」

 ルーチェが同じ姿勢になり、両手でフィリーネの顔に優しく触れる。

「――姫様――な、何を」

 戸惑うフィリーネを意に介さず、ルーチェはそのままくちづける。

 柔らかい回復の光が、フィリーネの唇に流れ込んで、優しく包み込んでいた。

「回復にはこの方法が一番です。これからも、私の近くで、私を守ってくださいね?」

 唇を離したルーチェが微笑む。

「ルーチェ様……恐悦至極に存じます」

 フィリーネは深く頭を下げていたが、その耳は紅く染まっていた。

「そんなに(かしこ)まらなくても……」

 ルーチェが少し不満そうに呟いた。

「しかし……先程のはお(たわむ)れが過ぎます」

「本心を表しただけです。こんなことができるのは、私にはフィリーネだけです」

「あ、その……光栄です」

 フィリーネはまた深く頭を下げていた。


「ご馳走さまです?」

 二人の様子を遠巻きに見ていたアリーチェがまた微妙に間違えた日本語を呟く。

 間違えてはないのだけど、どうもアリーチェの中ではこの意味が固定されてしまったようだ。

「アリーチェ、邪魔しちゃ駄目」

 七緒がアリーチェの身体を反転させて、二人を見ないようにした。

「はい。馬に蹴られてしまいます」

 アリーチェからまた謎のことわざが飛び出した。

「それは何処で覚えてきたんですか?」

 結が尋ねる。

「先輩さんが時々言ってます」

 また、犯人があっさりわかってしまった。

「やっぱりか……」

 七緒は大きな溜息を吐いていた。


(14)

 残っている魔物の掃討作戦も終わって、七緒たちが元の世界に帰る時――

 その功績を称えるという名目で、ルーチェ直々に七緒たちを見送ることになり、最初にこちらの世界に来た路地裏まで来ていた。

 先輩曰く、「此処が一番元の世界との波長が合う」らしい。


「姫様――あんまり無理しないでくださいね」

 七緒が最後に――多分だが――ルーチェにお節介な耳打ちをしていた。

「あなたも、たまには女神様に守られてくださいね。本当はあなたのほうが守られる立場の方なのでしょう?」

 ルーチェも静かにそう言うと優しく微笑んでいる。

 流石、人の上に立つ人は格が違うと七緒は思った。

「お見通しでした? 隠しててごめんなさい。でも姫様が女神様に似てるのは本当ですよ?」

「だとしたら――私たちは皆、親しくて大切な人に心配をかけていますね」

 少し照れたように、ルーチェが返していた。

「はは――今度は姫様もこっちに遊びに来てください。フィリーネさんと一緒に」

「ええ、是非」

 多分叶えられない約束――未来はわからないけれど。


「よし、この辺りね」

 路地裏を計測していた先輩が、納得したように頷いて一点を指し示していた。

「先輩、あの大量の荷物はどうしたんですか?」

 気が付けばあの大きなスーツケースも、登山用のリュックもない。

「此処に置いていくわ。使い方もこっちの人に教えたから、活用するも良し、分解するも良し。色々面白いものが見られるでしょうね」

 先輩はそう答えると得意気に笑っていた。

「何かの計測器とか結構な値段するんじゃないんですか」

「ビルが建つくらいの部費を忘れてない? 心配は無用」

「あー……ありましたね」

 また買い直すのだろうか――今度は最新式の物を。


 フィリーネが唱えた空間転移の魔法で、元の世界への扉が開いた。

「じゃあ、いつかまた」

 お互いに、そう言い合って、別れた。

 いつか来る「いつか」を心から待ち望んで――


 その後、七緒たちの街では時々――

 見慣れない異国からの来訪者が良く見かけられるようになっていた。

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