召喚―そして召喚。
見渡す限りの草原に、快く晴れている空。その空の蒼と同じくらい澄んだ色の湖。そしてそこには、初めて見る、ぶよぶよした生き物がいた。
「わぁ…!」
今まで自分が生きてきた世界とは全く違う素晴らしい光景に、感嘆の声がつい漏れてしまう。
「もしかして、これが…」
大きく息を吸うと、それを大声として一気に吐き出す。
「異世界ーっっ!?」
とね?
まぁ、普通はこうなると思いますよ。うん。で、実際はこんな感じ。
見渡す限りの草原に、快く晴れている空。その空の蒼と同じくらい澄んだ色の湖。そしてそこには、この前一撃で土地ごと吹き飛ばした筈の、ぶよぶよした生き物がいた。
「はぁ…?」
今まで自分が生きてきた数十分ぶりに見る素晴らしい(棒)光景に、つい感嘆(笑)の声が漏れてしまう。
「おいこの世界のクソ魔王…」
大きく息を吸うと、それを大声として一気に吐き出す。
「覚悟しろよなぁ!?」
『なぁマオウ。折角地球に来れたのにいきなりこの仕打ち、どう思うよ?』
『うむ。わしも憤りが押さえきれんわ。今からが楽しみじゃったと言うのに』
『なぁマオウ。ここの魔王一緒に潰さないか?』
『うむ。わしもそう思っておったわ。今からが楽しみになってきおった』
この世界に来て一時間程が経過した。絶賛魔王城侵略中である。
「ひぃぃ!やめて!?」
「そんじゃあさっさとくたばって貰おうか魔王君」
最初は「ククク、勇者よ…ここに来たことを後悔し(以下略)」とか言ってたけどめちゃ弱いな。
「『聖虐封印』」
「んっ!?動け…ないっ!」
「マオウ、よろしく」
「了解じゃ。ふん、魔王か愚王か知らんがこの世界を支配し、わしらを呼び寄せた事を後悔するがいいわ」
すると魔王(弱ちゃんの方)が紫色の禍々しい魔方陣に囲まれる。
「『爆狂する百槍!』」
「ぐあぁぁぁ!」
「ちょ、マオ、俺m」
瞬間、閃光。烈光。そして爆砕。百本の槍が魔王を襲い、爆発を繰り返す。
「……」
そこには、魔王だったもの、すらも残らなかった。城も無かった。魔王がここにいたと証明したいと言う者がいれば、それは不可能だと断言できるほどに、跡形も無かった。
「ふぅ、スッキリしたの」
「あぁ。お前はな!」
では俺はどうだったかというと、攻撃を当てやすい様に拘束してあげていたのに、その恩を百回の爆発で返されてご機嫌斜めである。まぁ死ぬようなものでは全くないのだが。体が痛い。
「?何を怒っておる。わしがあのバカ魔王を倒してやったではないか。ここは感謝するところであろう?」
「あぁ?俺も巻き添えにしてくれてありがとうってか?言うかアホ!」
「ふーんだ、先にアホって言った方がアホじゃもんねー!」
「何をぉ…!」
とそこにいきなり玄関の扉が現れる。
「ふぎゃっ!?」
それにマオウの鼻がぶつかり悶絶する。
「はっはー!人を爆破するからバチが当たったんだよぉー!」
「ふーっ、ふーっ…!」
「じゃあなー、俺は先に戻っとくぞー♪」
「ま、待へ、ゆうひゃ!いっ…!」
と言うことで2回目の異世界召喚は無事終了した。いや、スカッとしたわー。それから十分後。
「おーっし、マオウ、服買いに行くぞ」
「う、うにゅ。わかっておる」
今度こそ出掛ける。ただ玄関から出るだけの作業に結構時間掛かったんだが。
で、歩いている途中俺はあることに気づく。
「おい、マオウ」
「ん、なんじゃ?」
「いや、結構大人しいから違和感を感じる…」
あんなにぎゃーぎゃー言っていたのに急に喋らなくなるとむしろ落ち着かん。
「うーん…まぁ、城にいる間はデウスたちに『外は危険ですから何たらかんたら』とか言われて部屋に閉じ込められとったし、そう言うことには慣れておるからの」
「ん、そうなのか?」
「そうなのじゃ。退屈じゃったぞ?勇者なら一年と持たぬわ」
いや一年くらいは…無理ですねはい。マオウも結構苦労してたんだな。外に出なかったおかげで常識は何一つ身に付いてなかったけど。それにしても、こうして大人しくしているマオウってこんなに可愛かったのか。
ってあれ?
「それだと、トモリ村に行ってから世界を侵略したっていう話と矛盾してないか?」
「ああ、その時はこっそり城壁を破壊して脱走したのじゃ」
それこっそりって言わないから。
「へぇ、そうなの」
とりあえず相づちをうつ。そして曲がり角を曲がる。
するとそこには、信じられない世界が広がっていた…っておい!3回目!これ3回目だぞ!?
「えぇ……」
「何なのじゃ…これ」
「知らねぇよ…」
曲がり角曲がって異世界召喚とは、予想してなかった。
「我らの世界にようこそおいで下さいました」
白髪で眼鏡なご老人が出迎えてくれた。
「ん、うん…」
「おや、異世界召喚はお好きではありませんでしたか?」
まぁ誰でも異世界に三回も召喚されたらうんざりはするんじゃないかな。って答えようと思ったらマオウが代わりに言ってくれた。
「おい、わしらは召喚はこれで3回目なのじゃぞ!」
「おや、そのようなことは普通はあるはず無いのですが…」
「へ、そうなのか?」
「はい、異世界召喚というのは…」
ご老人が語り始める。
「あなた方の次元から能力値が一番高い者を召喚するものでして…通常、その値はどの人間もほぼ同じなので、ランダムなのですが…」
それで頼み事を解決すると元の世界に戻れると。それで…ほぼねぇ。
「その"ほぼ"の誤差の範囲というのは?」
「能力値は0から99の百段階に分けられており、地球の人間は1から3ですので、それが誤差の範囲です」
へぇ、赤ん坊からボディービルダーまでいるのにそれが三段階に収まるのか。
「ふむふむ。俺らが何度も召喚される理由がわかったな」
「…と言いますと?」
「俺らの能力値が他の奴らより高いってことだ」
おじいさんはふむむと少し考えてから口を開く。
「では一度能力値を計ってみましょう。ささ、こちらへ」
「おい、そんなことよりここへ呼び出したんじゃからとっとと要件を言わんか。わしらはさっさと帰りたいのじゃ」
「俺たちの能力値計って貰えるんだ。ちょっとくらい帰るの遅くなってもいいだろ」
「むぅ…わかった」
「私たちもそこまで急ぐ程の重要なことではないので大丈夫です」
なぁそれって。重要じゃないって。何で俺ら召喚したん?
あえて口にはしないけどそう思った。
そしておじいさんになんかでっかい地球儀みたいなとこに連れて来られた。簡単に言うとU〇Jのあれ。
「ささ、こちらに触れて頂ければ能力値を計ることが可能です」
「わかった」
てことで俺とマオウはU〇Jのあれに手をあてる。するとグォォンという鈍い音と共に、モニターが現れた。
「おっ、えぇと?ん?」
そこに書いてあったのは99という二つの数字。
「壊れてんのかな…99って書いてんだけど」
「わしは98って書いてあるぞ」
「ふむむ…やはりそうでしたか」
何やら深く考え込んでいる様子のおじいさん。やっぱこの数値合ってんの?
「とすると…そのお隣のお方は異世界人で?」
「えぇ。まぁ。」
「魔法も使って空に浮ける?」
「そうだけど…」
「元は角が生えていた?」
「う、うん」
こんな風に質問して誰のことを考えているのか当てる奴がいた気がする。
「恐らく原因はそれですな」
「マオウを連れてきたからってことか?」
「はい。詳しいことは分かりませんが…」
ふーむ…とりあえず何で俺らが何度も召喚されるのかが分かったし、良しとしよう。
「ゆーうーしゃー。はーやーくーすーるーのーじゃー」
マオウの方を見ると、既に自分の身長の二倍近くある鎌を振り回しており準備万端である。
「では勇者様。こちらへ」
そして再びおじいさんに案内してもらう。
やってきたのは城の中。そこに居たのは何とも綺麗な王女様。とその左のベッドに横たわっている妹(と思われる)。何ともありがちなシチュエーション。を
「早くするのじゃ。わしは帰って服を買わねばいかんのじゃからな」
新鮮なものに変えてくれたのは、どでかい鎌を持った魔王である。
「え、えと…勇者様にお願いが…」
本来なら今から倒しに行く筈のラスボスが隣に立っているのには、流石のお姫様も童謡を隠せない。
「あぁ、コイツは気にしないでくれ。ただのバカだから悪さはもうしない」
「バカじゃないー!」
「そうでしたか」
「お前も納得するでない!」
と、お姫様が真面目な顔に(さっきまでもそうだったけど更に)なった。
「では改めて。どうか妹のシエルを…助けてはくれないでしょうか?」
言うと思った。
「実はここからずっと北の方にいた筈の魔王がこちらに攻めてきまして…」
一家に一台魔王様だよな。だとすると魔王がいない地球は時代遅れなのか?
「その時、シエルが呪いにかけられてしまい…不治の病にかかってしまったのです」
いや、逆に魔王をなくして平和にした後が地球と考えると…ってやば、話聞いてなかった。
「それを直すのは魔王の持つ薬だけなのです」
あれ?ちょっと待て?
「お願いです!シエルを…シエルを自由にさせてあげて下さいっ!」
おい、じいさん、あんたが重要じゃないとか何とか言ってたから話あんま聞いてなかったけどさ。
めっちゃ重要じゃねーか。王女様超深刻そうな顔してんだけど。
「なるほど、ここの魔王を片付けてくればいいのじゃな?」
「はい。シエルさえ助かれば…欲しいものは何でも差し上げますから…」
必死になって頼んでくる王女様。何でこれを重要じゃないと判断したのか。
「んー、何でも?」
「土地でも、財産でも構いません。それでも足りないと言うのなら…私の体も好きに使って構いません」
体、か。
「断る」
「「「…!」」」
寝込んでいるシエルと、俺以外のその場にいた全員が驚く。
「あなたは勇者様なんですよね?」
「まぁ、一応そうだな」
「どうして…どうして救ってくれないのですか!」
めんどいから、なんて理由じゃあもちろんない。
「妹を助けようと必死で怒りを露にするその姿勢、それはいいんだ」
「だったらどうして…!」
「あんたは体を好きに使っていいと言ったな?」
「はい、その通りです。私の体ではご不満でしたか!?」
「そう言うことを言ってるんじゃない。」
俺が言いたいのは。
「体を求めるような奴が魔王を倒すなんて大仕事、真面目にこなしてくると思うか?」
「そ、それは…」
王女が口ごもる。
「どうせそういうのはあの手この手を使って偽装やらして、ごまかすだけなんだ。後は報酬を掠め取っていくだけ」
そしてこれがお姫様に協力しない理由。
「俺は体を好きに使われるだとか、自分を生け贄にするだとか、そういう可哀想な目に遭いそうなやつとは関わりたくない」
「……」
沈黙。さて、帰るか。お姫様にはちょっと申し訳ないけど、依頼を受けることはできない。
「じゃ、そういうことだ。マオウ、帰るぞ」
「うむ、わかっておる。うちのアホ勇者が依頼を断ってしまってすまないの」
「誰がアホだ」
勇者とマオウが去った後の王室。
「ごめんなさい…シエル…私のせいで…本当にごめんなさい…」
この国の第一王女―クラフ・マリィンは、泣いている。
「クラフ様、そこまでお自分を責める必要はございません。シエル様は必ず助かります」
「でも勇者様達は行ってしまわれたのよ…?もうシエルを助ける術なんて…」
白髪で眼鏡なご老人―エスカ・サンセットは話を続ける。
「彼らは帰るとおっしゃいました。つまり―」
クラフ達のいる場所から少し北へ上がった場所。
俺たちは帰るため、魔王を倒しに向かった。