最終決戦
「『龍王滅撃砲』ッ!!」
この世界に置ける戦闘の龍神―バハムートとの死闘の末に修得した、龍神の加護を受け放つ技。
「うぐっ…『討つ者の遮断』!」
山の一つや二つは軽く消し飛ばせる砲撃を人一人―否、魔王一人の面積に集中させる。
「くっ、中々やるではないか勇者」
「へっ、そっちこそな…マオウ」
ある程度のダメージはあるものの、そんな一撃を受けて尚、立っていられる魔王。流石と言うべきか。と
「ん~…じゃーかーらーのぉー!」
「はぁ…何だよ」
「わしはマオウではなくマオウなのじゃー!」
始まった。
「さっきも言ったがどーでも良いだろそんな事!」
「どーでも良くない!ちょーちょーちょーー大事なことなのじゃー!」
黒髪ロングに角が生えただけのロリっ子が出す怒りの叫びに、威厳なんてものは全くない。
「わしはマオウじゃマオウ!イントネーションが全く違うぞ!」
「だからイントネーションなんてどーでも良いだろって!」
「よーくーなーいーのー!」
戦いながら、こんな論争がもう一日近く続いている。俺がマオウと呼ぶ度こうなのだ。てか論争の方がメインかもしれない。
「はっ、お子様これだからなー!」
「な…!お子様ではないわ!わしのどこがお子様なのじゃ!」
「え、まず見た目だろ?それからちょっとのことでこんな風に怒るし、それにさっきも『わしが先に攻撃したかったー!』とか言って、駄々こねてたし、あとは―」
「えーいうるさい!『粉砕する衝突』!」
瞬間、とてつもない速度で“破壊”の概念が襲って来る。それは空間をも破砕し、俺の元へ迫って…って俺に来てたっ!?
「ってごわぁっ!?」
辛うじて回避。
「いきなり何してくるんだよ!」
「攻撃に決まっておろう!まだ戦いは終わっとらんぞ!」
あ、そか。今戦ってたわ。完全に忘れてた。
「…てかそういやお前、聞いたぞ。昔トモリ村の村長さんにマオウって呼ばれたから怒ってこの世界侵略したらしいな!?」
「はぁ?何を今更、当たり前であろう!名前をちゃんと呼んでくれないのだぞ!?」
「どこが当たり前だよ!普通名前間違えられても侵略なんてしないぞ!?」
「え、そうなの?」
……。
「は?」
「へ?」
え、ええ、ちょ。
「おま、それ本気?」
「あ、あぁ、本気だったのじゃが…」
「よしマオウ、皆に謝りにいくぞ」
「あ、やっと正しく呼びおったな!」
「はいはいそうですねじゃあ行こうか」
結局、長年に渡る魔王による支配は、あっさり終わった。
「そ、その…すまんな。知らなかったのじゃ、名前をちゃんと呼んでくれないだけで世界を侵略しちゃだめだと」
逆にどうやったらそんだけのことで世界を侵略していいと思ったのか聞きたい。
「え、あぁ。もう支配をやめると言うなら…人にはそこまで被害も出てないしな…」
長年支配されてても許してくれる優しさ。村長マジリスペクト。
「…と、言うことでな勇者よ。わしはもう悪さはせん。帰ってよいぞ」
「お、おう」
「では、村長さん。この世界救われたんで俺帰りますね」
「え、あ、うん」
思えば俺は十六年程前、車に轢かれた直後、光に包まれてこの世界に召喚された。で、なんか神様とやらに零歳児にされた。「この世界を救えばあなたを死の直前の状態に戻しましょう」とか言われて。
それから身体能力が普通の人と比べて桁違いということで、この世界に来て三年目―つまり三歳にして、勇者になってしまった。
その後は厳しい試練とか苦行に耐えながら…とかではなく、よくある一般家庭のような生活を送っていた。
だが十歳の時、この世界が魔王に支配されていると知った。それからは魔王討伐に向け、強敵と死闘を繰り広げたり、新しい技を修得したりと、戦いに明け暮れる日々が続いた。それから龍神を倒し魔王軍の幹部を倒し。
で、いざ魔王と思ったらこれなのだ。
いままでの苦労どうしてくれるんですかねぇ?おい、頑張って必死になってさ、もうとにかく辛かったよ?なのに最後は常識の対義語二つ目になりそうなやつと一日口論しただけ。
俺の六年間返せやゴルァァァァ!!って叫びたくなったけど我慢。
何だよ!格闘やら魔法やら極めて最終決戦は口喧嘩ぁ!?てか俺は何で一日も口だけでやりあえるくらい言葉巧みなの!?意味わかんねぇよ!
と。
「な、なあ勇者よ」
「ん、どした常識の対義語二つ目」
「や、やっぱりじゃの、その…帰らないで欲しいのじゃ」
はい?
「と言うかわしも着いていってよいかの?」
「どうして突然そんなことになるんだよ」
「よ、よいではないか別に…」
「いや、だからどうしてって聞いてるんだよ」
するとマオウはもじもじしながら
「…しぃのじゃ」
「ん?」
マオウの方に耳を傾ける。
「じゃから寂しいのじゃ!」
「ぐぉぁっ!?」
ぎゃぁぁ鼓膜、鼓膜がぁぁぁっ!?
「もう手下達もデウスもおらんし…」
デウスとはマオウの側近の名だ。ふむ、確かに俺が片っ端から片付けてしまった。そこには俺も責任を感じてしまう。はぁぁ…仕方ないか。どうせ側近やら幹部やらに全部任せてたんだろうし(常識すら知らなかったのはそのせいなんじゃないかな)、一人じゃ破壊くらいしかできないだろう。
「…わかったよ」
「ほ、ほんとかの!?」
「あぁ。神様がいいって言えばだけd」
「いいですよ?」
「即答かよっ!?ってかいつからそこに居た!?」
マオウの上に神様が浮いていた。姿は光に包まれてよく見えないけど声からして女性だろう。性別あるか知らんけど。
「では今から地球戻ります。しっかり掴まっていてください」
とか神様が言うと俺らも浮き始めた。
「おぉ、勇者の故郷か。わくわくするのぉ勇者!」
「ああわくわくするなー」
棒読み。ではあるが俺も十六年ここにいれば地球が楽しみになってくる。
「では、死の直前に戻ります。お気をつけて」
そして光に包まれて―。
気がつくと目の前には見覚えのある光景が広がっていた。
整備されたコンクリートの道。背の高い電柱。さっきの村の家より頑丈そうな住宅。貨物自動車。
あぁ、元の世界に。地球に。
戻ってきたぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!ってトラック!?
右手には勢いそのままに俺に突っ込んでくるトラックが見えてしまった。
死の直前ってこう言うことかよ!?ヤバイ死ぬ、死ぬ!
と、ここで気付く。
ん?俺なんでこんなに考えてられるんだ?そういえばトラックもそこまで速く見えないな。これ避けられるんじゃね?
体の重心を少し前に傾け、そのまま左足を前に。シュタッ!
ぅおおっ、速い!俺速いぞおい!やったな!
更に前に進む。そして迫り来るトラックを易々と避けて着地した。
「ふぅ…しかしあっちの世界の身体能力が受け継がれているとは…」
これは面白いな。魔法とかも使えるんだろうか。
「じゃ、まずは基本魔法から」
とその時
「―ぁぁぁああああ」
「ん?」
声が聞こえる。方向は多分上。俺は頭を上げる。
「あああああ!!!」
「んなっ!?」
女の子が、降ってきた。
「ゆーしゃぁー!うけとめろー!」
「勇者ってお前まさかマオウk」
ぎゃふっ!
マオウは地面に激突はせず、その衝撃はほとんどなかった。
「勇者、助かったぞ!礼を言う!」
そしてマオウが受ける筈だった衝撃ほぼ全てを食らった俺の方は。
「いってーよ!何勝手に降ってきてんだよ!」
怒り狂っていた。
「ん、わしが好きで降ってきた訳なかろうが!ここに来たと思ったら空の上だったのじゃ!」
「だからって何で俺の上に落ちてくんだよ!」
「わしは女の子じゃぞ!?あの高さから地面に落ちたら死ぬであろう!?」
「落ちてこられたこっちの方が死ぬとこだったわ!」
てか女の子じゃなくてもあの高さからだと死ぬ。
「死ななかったのだから別にいいじゃろうが!」
「よくねーよ!痛いだろうが!…ってか飛べなかったのか!?」
「あっ」とマオウが。
「そ、そういえばそうじゃったの」
「はぁ…そのくらい考えろよ…」
もう怒る通り越して呆れた。
「全く勇者は…」
「こっちのセリフだ―てか」
気になっていたことを口にする。
「お前ホントにマオウなのか?」
「今更何を言っている?」
そしてマオウは自分のからだを見て。
「どこからどう見てもまo―ぉああっ!?」
「なんだ、自分で気付かなかったのか?」
「胸があるぞ!」
「そこじゃねぇよ!」
いやそこもだけどね?まぁまぁおっきいけどね?
「背が高くなってる」
「?確かに背も伸びておるな…」
そう言ってマオウは手を頭にやる。俺よりちょい低いくらいか。とは言え俺は背は高いからマオウもそこそこ高いんだろうな。180無いくらいかな?
と、その動作でもうひとつ気付く。俺が持っていた違和感の正体も多分それだ。
「あれ、ないぞ!角がない!」
「あ、ほんとだ。角がない分、胸があるのか…」
「う、うるさいぞ勇者!」
顔を赤くしてマオウが言う。何か可愛く感じてしまう。
「はは、ごめんごめん―で、そろそろどいてくんない?」
今の俺らの体勢を他人が見れば、変な目で見られてしまうだろう。てか今通りかかった人の反応がそうだった。
「…!わ、わかっておるわ!」
顔を更に紅潮させ、俺の上から退く。
「っと。それじゃあ状況確認だ」
俺も立ち上がり、まずは服装を確認する。ここじゃ俺が轢かれた直後の時間だからそこまで経っていないが、体感では(というか実際)十六年経っているからな。私服だ。つまり今日は休日だろう。もちろん地球に戻っている。隣にはマオウ、太陽の傾き具合からして、お昼前だろうか。
「よし、マオウ。着いてこい」
と言うことで俺んちに来た。親は何か知らんけど今はいない。
「とりあえず着替えだ。俺の服しかないが、まぁしょうがないな」
「む、なぜ着替えないといけないのじゃ?」
「なぜって、そんなかっこよりこっちの方がいいからだよ」
マオウの服は魔王のコスプレにしか見えん。絶対俺の服の方がマシだ。
「そ、そんなかっことは何じゃ!ふんっ、勇者の服などもう一生着んわ!」
「はぁ、どうしていちいち小さな事で…」
「小さくなどないわ!アトミック―」
「だぁぁわかった!わかったから!」
てな訳で服屋に行くことになった。
俺は玄関の扉を開ける。
するとそこには、見たことのない(?)光景が広がっていた…!