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同じ頃、緊急会議が進行中の大会議室ではどよめきが起こっていた。
「は?今、何と言ったんだ?」
「聞いての通りですよ、警護部長。この少女に時の花びらの回収任務をやってもらうんです。タイムアテンダントとしてね」
会議を仕切る黒い制服姿の青年が悠然と言い放った。長めの黒髪に端正かつ上品だがどこか人を食ったような顔。タイムパトロール全部隊のトップに君臨する特別部隊の隊長、オオツジである。
「現在、わかっている事実は次の四つです。一つ、セキュリティーセンターを襲撃した犯人はメビウスの一味である。二つ、彼らは時空時計の保護バリアーを解除し、時の花びらを盗もうとしたが、失敗。時の花びらは原因不明の消失現象を起こし、十二枚そろって時空に散らばった。三つ、そのうちの一枚は現在、弥生時代の卑弥呼の体内に存在している」
三つ目の事実がオオツジから語られた瞬間、大会議室の温度が下がった気がした。警護部長をはじめ、めったなことでは動じないタイムパトロールの幹部たちの顔が青ざめていく。(オカ司令官だけは普段と変わらなかったが)
「そして、四つ目。現時点で時の花びらの回収が可能な人間が一人だけいる。それがこの少女です」
よどみない口調でオオツジは続けた。
「足立英麻、十四才。平成エリア、201X年の中学生」
巨大なスクリーンに一枚の写真が映し出された。まだ幼さが残る少女の写真だ。赤いゴムで二つに結んだ髪型。好奇心旺盛そうな瞳。どこにでもいそうな普通の少女である。
「こちらは各時代に固定された記録ボールの映像ですが」
写真が切り替わる。今度は少女の横顔だ。窓から身を乗り出し、何かに驚いた表情を浮かべている。その視線の先の夜空には光の群れがあった。白く輝く十二の光。
時の花びらだ。
「目線の高さ、角度、位置関係、遮蔽物の有無、周囲の明るさ、本人の表情などから判断して、彼女は間違いなく時の花びらを見ている。つまり」
オオツジはぐるりと会議室を見渡した。
「この足立英麻には例の力が備わっているということです。花びらの回収に必要不可欠なあの力が。彼女こそタイムアテンダントにふさわしい。最終判断は私とワシズが開発したスカイジュエルによって行う予定です。スカイジュエルが足立英麻をタイムアテンダントに決定した場合、彼女を時の花びらの回収計画に組み込む」
たちまち幹部たちから反対の声が上がった。
「ふざけるな、こんな子供に任せられるか!」
「そうだ、無謀すぎる!時空警護学校で訓練を積んだわけでもない、それも二百年も前の人間に回収を託すなど」
「第一、下手に花びらに触れて壊れでもしたらどうするのだ?」
「では、他に誰が時の花びらに触れるというのです?」
オオツジが異を唱えた幹部の一人一人を見た。その鬼気迫る眼力にたじろぎ、彼らは黙ってしまう。オオツジは再び口を開いた。
「十二枚そろって時の花びらを見た足立英麻。タイムパトロールの切り札、ハザマ・ヒロミ。これら二つのカードを使って我が特別部隊が時の花びらを回収する。それがこの非常事態を解決する最善の策だと思いますがねえ」
会議の出席者の大部分は賛成も反対もしかねるといった表情だった。近くの者たちとぼそぼそ囁き合うばかり。
「―――いいんじゃないかのう、その方法で」
突然、のんびりとした声が響いた。オカ司令官だ。会議中、オカ司令官が発言したのはこの時が初めてだった。
「ただし」
オカ司令官はしたり顔のオオツジをしっかり見すえた。つぶらな目が驚くほど鋭くなる。
「この女の子と共に回収任務にあたるのは特別部隊ではない。ハザマ・ヒロミ属する第8部隊じゃ」