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時空を映したモニターの画面がぼんやりかすんできた。タイムパトロール第八部隊のタカツカは慌てて頭を振り、眼鏡をかけ直した。いけない、いけない。仕事に集中しなければ。まだ時の花びらの捜索は始まったばかりなのだ。残り十一枚。少しでも手がかりを集めないと。
「大丈夫か、タカツカ。あんまり無理するなよ」
隣に座る先輩隊員のサノが自分の画面から目を離さずに声をかけてきた。
「すみません。今の所はまだ平気です」
ずらりと並んだコンピューターの群れ。画面の前には青い制服姿の男たちがはりつき、黙々と各時代の解析を続けている。彼らは皆、十代から二十代の少年もしくは青年だったが、その顔には濃い疲労の色があった。タイムパトロールの解析官である彼らはもう長いこと、この作業を続けていたのだ。
現在、時空にて行方不明となっている時の花びらを捜すために。
「ミサキ先輩の方は大丈夫なんでしょうか?」
タカツカはサノの向こうで恨みがましく画面を凝視する少年を心配そうに見た。少年の目は半分死んでいた。
「…眠い……特別部隊なんか大嫌いだ。一生、恨んでやる…」
「恨む相手が違うだろ。盗みに入ったのはメビウスなんだから。まあ、特別部隊の人使いの荒さは確かにふざけてるけどな。特に今回は」
サノの言葉にタカツカも同感だった。この骨の折れる捜索を命じた張本人、特別部隊隊長のオオツジの偉そうな顔を思い出すとだんだん腹が立ってくる。
事の起こりはある事件だった。
時空警護の中枢であるセキュリティーセンターで発生した侵入事件。
それが時間犯罪者集団メビウスの仕業であること、彼らのねらいが時の花びらだったこと、その時の花びらが時空に散らばってしまったこと。これらを現場到着後、すぐに突き止めたオオツジは、各時代を解析して直ちに時の花びらを発見するよう調査解析部の解析官たちに命じた。加えて、タカツカたちのような各時代の巡回を担当する隊員の中で解析官の資格を持つ者にも捜索作業への参加を強制したのだった。
膨大な時代と空間の積み重ねから成る時空からたった十二枚の時の花びらを捜し出す。それは非常に困難なことだった。一度、海にばらまかれた砂粒を再び集めてこいと言われたようなものだ。
とてもじゃないが、百年たっても見つかりっこない。タカツカはもちろん、分析官たちは皆、そう思っていた。
だが、その予想はすぐさまひっくり返された。
かなり早い段階で時の花びらのうち、まず一枚が弥生時代にあると判明したのである。
発見のきっかけをつくったのは一人の少年だった。
ハザマ・ヒロミ。
同じ第八部隊でタカツカよりも一つ年下の十五才の新人隊員である。ハザマは少し前、この通信室に差し入れにきた時に突然、気を失って医務室に運ばれていた。その際、彼が口走った言葉から解析官の一人が試しに弥生時代の解析を行ってみた所、見事に時の花びらの反応が得られたのだった。
「ハザマの奴、何でわかったんだろうな」
ミサキが呟いた。寝ぼけ眼が一瞬、鋭くなる。タカツカの脳裏にハザマが倒れた時の様子が蘇った。
サノとミサキに抱え起こされていたハザマ。その綺麗な色の目ははるか遠くを見ているようだった。わずかに開いた口から切れ切れに言葉が聞こえてくる。
『時の…花びらは……卑弥呼の…中にある…』
確かにハザマはそう言っていた。あれはどういう意味だったのだろう。
「あ、隊長」
サノの声に顔を上げると、そこには第八部隊を束ねるリーダー、シバ隊長の姿があった。サノとミサキがシバ隊長に向き直る。
「シバ隊長、どうですか。ハザマの様子は」
「まさか時酔いが悪化したんじゃあ」
シバ隊長は静かに首を振った。
「大丈夫だ。すぐに目を覚ましたし、今はもう古墳エリアの巡回に戻っている。ただ」
いつもと変わらぬ冷徹な目に一瞬、複雑な色が浮かんだ気がした。
「あいつにとって少し厄介なことになるかもしれん」
タカツカたち三人はそろって顔を見合わせた。




