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そこには太古の風が吹いていた。
朝露に濡れた深い森の中を風は吹き渡る。その中に時の花びらの一枚は現れた。風に乗ってふわふわ森の中を移動していく。
森の近くには館があった。木を組んで造ったその館に時の花びらは近づいた。何かに引き寄せられるようにすうっと中に入り込む。
館の奥のそのまた奥の部屋。
祭壇の前に黒髪の少女が一人、座っていた。白い着物に赤い帯。手には榊に似た枝を持ち、時折、ゆっくりとそれを揺らす。少女は祈祷をしているようだった。部屋は薄暗く、長い髪が影となって少女の顔はよく見えない。部屋の中に入った時の花びらは迷いのない動きで少女に近づき、そして―――少女の胸に吸い込まれた。ほのかな金の光を放って。
少女は小さく首をかしげた。祈祷の手を止め、胸元に手をやる。
予感がした。
何かが起こる。自分の身に。そう遠くないうちに。
そんな予感だった。同時に一つの言葉が浮かんだ。
時を喰らう者。
少女は目を閉じ、意識を集中させた。
ゆらゆらと赤い光が見える。それもたくさん。炎に似た赤い光が飛び回り、人々の悲鳴が聞こえる。
戦か?
赤い光を放っているのは三つの影だ。大小異なる三つの影、そのうちの一つは笑っている。女の高笑いだ。
これは何だ。何が起こっている。これから何が始まるというのだ?
ブツッと音がして唐突にそれらは消え去った。まぶたの裏の景色は跡形もない。
少女は目を開けた。
まただ。また何もわからなかった。
少女は深いため息をつく。
やはり、私には無理なのだ。少女はうつむき、拳を握りしめた。