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時空守護士タイムアテンダント  1 巫女と女王の願い  作者: 夜湖
第六章 天空の戦い
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そこには満月を背にした飛行船が一機、エンジン音を響かせ、空中に静止していた。

深い青色の機体はタイムマシンのシリウス328を一回り大きくした形で、尾翼にはシリウスと同じ十字星とT字のマークもあった。

「まさか、奴らが…!?」

イプシロンたちメビウスに動揺が走った。

飛行船が繰り出す強い風圧に、操られた者たちが次々と退散していく。本当に強力な風だった。踏ん張っていないと英麻たちまで吹き飛ばされそうだ。

「あれは何っ!?」

髪を押さえながら英麻はハザマに向かって声を張り上げた。

「タイムマシン、シリウス115…第八部隊の先輩方が来てくれたんだ!…ひょっとしてサノ先輩が連絡を?」

「隙を見てね。間に合ってくれてよかったー」

着陸後、ガコンと重たい音がして飛行船の扉が開いた。中から青年一人と少年二人、それに二匹の犬が続けて降りてくる。

彼らはハザマやサノと同じ青い制服姿だった。犬たちは二匹とも大きく、キラキラした目でハッハッと荒く息をしている。クリーム色のラブラドールと白黒のボーダーコリーだ。少年たちは腰に付けた警棒の形を変化させ、青光りする剣を構えた。ハザマたちと同じものだ。

「よっ、ハザマ。大丈夫か?」

「古墳エリアの巡回は副隊長とタカツカ、第7部隊に任せてきた。だから心配するな」

「メグロ先輩、カタギリ先輩!」

二人の少年はハザマよりも年上、サノよりは年下に見えた。深緑の髪をした長身の青年が彼らに合図を出し、卑弥呼を護衛する配置につかせた。

「サノ、ハザマ。遅れてすまない」

「シバ隊長!」

「すみませんでした、隊長。特別部隊がいっこうに現れなくて」

サノが青年に頭を下げた。

「知っている。おまえから連絡をもらうよりも前、他の時代でメビウスによる国宝の強盗事件が発生したんだ。それも複数の時代で」

「明治に鎌倉、あと安土・桃山エリアでもやられた」

メグロと呼ばれた少年が補足した。

「それにここよりずっと前の弥生エリアも」

「弥生!?」

「そこでは漢委奴国王の金印が盗まれた。おそらくあれらはメビウスの囮だったんだ。弥生エリアのこの時代に応援を来させないための」

「えっ…ってことはまさか」

シバ隊長の表情が険しくなった。

「特別部隊はその対応に追われている。弥生エリア担当の第五、六部隊も。この時代に着くにはまだかなり時間がかかるはずだ」

「そんな…うわっ!?」

ハザマの頬を一本の矢がかすめた。

勢いを取り戻した弥生人たちがこちらに向かってきていた。赤い目が光り、唸り声が聞こえる。

「せっかく厄介な特別部隊を遠ざけたのにとんだ邪魔が入ったもんだ。…だが、たった三人の隊員と警護犬の犬っころの助けじゃたかがしれてるさ。さあ、おまえたち、時の花びらを宿した卑弥呼を捕えるんだよ!」

乱暴に髪をかき上げながらイプシロンが命令した。

英麻たちの方に操られた者たちが次々と押し寄せてくる。

「このままではらちがあかない」

シバ隊長が英麻の方を向いた。

「君がタイムアテンダントの足立英麻だな?」

「えっ…ハ、ハイッ」

いきなり声をかけられ、英麻はびっくりする。シバ隊長は落ち着いた声で説明した。

「今から卑弥呼を連れて守りの森まで走れ。そのままスピカに乗って上空へ逃げるんだ。ニコ777も一緒に。そこで時の花びらを回収させる」

「ええっ!?」

「今は卑弥呼に宿る時の花びらの回収が最優先だ。無事、花びらが回収されれば、メビウスが彼女に手出ししてくることもない。我々がメビウスと操られた弥生人たちの気を引く。早く行くんだ!」

「…わかりましたっ!卑弥呼、一緒に来て」

「エマ!?ちょっと待て、どこへ行くのだ?この青い着物の者たちは何者…」

「いいから早く!」

英麻は卑弥呼の手をつかんだ。ニコが英麻の肩にとび乗る。

「英麻チャン、こっちダヨ。あの光をたどるんダヨ!」

暗闇に光る水色の列が見える。電気蛍の道標だ。あれをたどれば守りの森まで行けるはず。

英麻は卑弥呼を連れて走り出した。

「できるだけ銃は使うな!サーベルも峰打ちにとどめておけ!」

背後でシバ隊長が命令する声が響いた。他にもたくさんの音が聞こえてくる。剣が激しくぶつかり合う音。光線銃が乱射される音。犬たちが吠え、走る音。悲鳴と怒号。タイムパトロールの隊員たちは大丈夫なのだろうか。心配だったが、振り返っている時間はない。

英麻は卑弥呼と共に水色に光る道を走り続けた。

やがて守りの森らしき影が見えてくる。森の入り口に停まっている空色の飛行機も。タイムマシンのスピカだ。

「何だ、これは!?鳥…なのか?」

「卑弥呼、これに乗って!」

「なっ…乗るだと?ふざけたことを言うな。他の者たちが大変なことになっているのに私一人だけ逃げられるか」

「今は仕方がないの!ほら早くっ!」

英麻はなかば強引に卑弥呼をスピカに押し込んだ。

「ニコ、早く動かして!」

「わかってるヨ!卑弥呼にちゃんとシートベルトつけたヨネ?じゃあ、行くヨーッ!」

ニコが操縦席の紫色のボタンをタッチした。闇夜に紫の光が輝きだす。

「待てと言っているのに!…うわっ!」

卑弥呼は息を飲んだ。スピカが浮き上がったのだ。

勢いよく夜空に飛び立つスピカ。ぐんぐん上がる高度。その高さはあっという間に邪馬台国の集落を見下ろすまでになった。

少し前に館の庭から見上げたあの満月が、今は同じ目線の高さにある。

「…ねえ、ニコ。時の花びらはどこで回収するの?っていうかこんな状況で回収できるの?」

「ちょっと黙ってるんダヨッ!今、花びらの回収ポイントを再チェックしてるんだヨウ」

「だって早くしないとまた卑弥呼が狙われるって…あ……」

英麻とニコはほぼ同時に固まった。

「ずいぶんよくしゃべるまじない人形だな」

シートベルトを着けて座席に座った卑弥呼は、じろりと英麻たちをにらんでいた。これはどういうことなのか説明しろ、卑弥呼の目はそう言っていた。英麻はすうっと息を吸い込んだ。

「…ごめん、卑弥呼!実は私、この時代の人間じゃないの」

「何?」

「ギャアーッ!ちょっと英麻チャン、そんなことしゃべっちゃダメ……ンムムムム~ッ!?」

英麻はニコの口をふさぎ、さらに続けた。

「私は未来から来たの!」

「未来…だと?」

英麻はうなずいた。

「そうなの。この弥生時代よりもずっと先の時代から。時の花びらを回収するために」

「時の花びら?」

「そうよ。あなたの体の中には時の花びらがあるの」

英麻は卑弥呼にすべてを話した。モゴモゴ言うニコの口を押さえたまま、オカ司令官たちから聞いたことを何もかも。

時の花びらを回収した場合、卑弥呼の中から英麻に関する記憶が消えることも。

「……そうだったのか」

「ごめんなさい。侍女のふりして嘘までついて」

「おまえが本物の侍女でないことは最初からわかっていた」

「ああそう…って、えええっ!?」

英麻はびっくり仰天した。卑弥呼は後ろに過ぎていく夜空に目をやった。

「おまえが侍女の姿で現れた時、最初はいつもの侍女の一人だと思いかけた。だが、話していてだんだんとわかってきたのだ。この子は蚕小屋の近くで捕えられていた、あの娘だとな」

「どうして…見逃してくれたの?」

「何となくな。どうしてもおまえが悪い者には見えなかったから。初めて会った時もその次も。こんな事情があるとは知らなかったが」

「卑弥呼って…やっぱりすごい。力が弱まっていてもそんなことがわかるなんて」

卑弥呼は淋しそうな笑みを漏らした。

「ちっともすごくなんかない。結局、私は館にいた者たちを守れなかった。こんなことでは、やはり女王など務まらないだろう」

「卑弥呼……イタタタタッ!?」

素っ頓狂な悲鳴を上げる英麻。ニコが英麻の手の中から顔を出し、その指を噛んだのだ。

「ニコってば何すんのよっ!」

小さな歯形つきの指を押さえて英麻は怒鳴った。ニコが金切り声を上げる。

「英麻チャン、後ろッ!」

「へ?後ろ?……っ!?」

振り向いた先には赤い飛行船が迫っていた。

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