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「そんな…私のせいだ。私がまごまごしてたから。卑弥呼を連れて逃げなきゃいけなかったのに」
「そんなこと言っても仕方ないだろ。今はとにかく抜き取られた時の花びらを探すんだ!」
「ハザマ……うん!」
英麻とハザマ、サノとニコは二手に分かれて時の花びらを探し始めた。しかし、なかなか見つからない。
「卑弥呼の時の花びら…一体、どこ行っちゃったの?」
苦戦しているのはメビウスも同じだった。英麻たちより一足早く探していたにも関わらず、まだ時の花びらを見つけられずにいる。
「チッ…まったくどこまで飛んでったんだい。ロー、おまえ本気で探してるんだろうね?」
「……ちゃんとやっている…」
複雑に光る双眼鏡に似た道具を持ったローのそばでイプシロンはいら立っていた。
英麻は焦る気持ちを抑え、必死で草むらや石の陰を探った。
「だめだわ。全然、見つからない」
「…おい、あそこじゃないか?」
隣のハザマが指差した庭の一点。そこには一軒の小屋があった。だが、どこにもそれらしきものは見当たらない。
「……?」
英麻は少し移動して、死角になっていた小屋の扉の方に目を凝らしてみた。
わずかな扉の隙間からほのかな金の光が見えた。
「あれだ!」
英麻は電光石火の勢いでかけ出した。が、小屋を目の前にして両足に急ブレーキがかかる。すぐ後ろのハザマがつんのめった。
「何だよ、急に止まるな!」
「ここってまさか、例の小屋じゃ…」
「は?」
昼間、英麻が蚕の大群に遭遇し、悲鳴を上げた作業小屋。光が漏れているのはまさしくあの小屋だった。
「やだやだ無理無理ッ!この中には入れないわよっ!アレが、蚕が、うじゃうじゃいるんだもん」
「蚕くらい何だ!そもそも弥生時代において蚕は今以上に貴重な存在だったんだぞ。蚕が作る生糸によってそれまでよりずっと上等な布が織れるようになったんだ。この養蚕技術によってもたらされた進歩は」
「歴史の講義はいーからあんたが先に入ってよおっ」
「だったら俺がいただくぜ?」
「え……きゃああっ!」
鋭い剣がザッと二人めがけて振り下ろされた。
「おまえはパイ!」
振り向いた先には赤く光る剣を手にした、そばかす顔の身軽そうな少年がいた。フードを脱いだパイだった。勝気な目を見開き、英麻に切りかかってくる。
「ひっ!」
間一髪。青いを放つ剣がパイの剣を受け止めた。ハザマだった。英麻は今の状況も忘れてハザマの動きに釘付けになった。
蝶のように舞い、蜂のように刺す。相手の攻撃を優雅に受け流し、一瞬の隙を突く剣技。
彼が繰り出す技の一つ一つから圧倒的な威力と繊細な美しさが生み出されていく。『剣聖華劇』のDVDで見た、アクション満載の華やかな殺陣とはまた違う、研ぎ澄まされた剣技がそこにあった。
やや劣勢のパイが組み合ったまま、唾を吐いた。
「…忘れてたよ。タイムパトロールの姫君、ハザマヒロミ。おまえの剣術がむだにきれいでうざったいってこと」
「ふん、失礼な。おい。何、ぼーっと見てるんだよ?ここは俺がくい止めるからとっとと時の花びらを拾ってこい!卑弥呼を助けるんだろう!?」
英麻は我に返った。慌てて小屋の中に走り込む。もう蚕が怖いの何のと言っていられない。昼間よりもさらに暗い小屋の中で英麻は光の出所を探した。
と、金色に光る何かが一瞬、見えた。一番奥にある作業台の下だ。
真っ白い羽根が金色の光を放っている。
英麻は震える手を伸ばした。
つるりとした固い手触り。かすかな温かさ。
それは花びらというよりメタリック調の羽根ペンのような形をしていた。
英麻はそれを拾い上げ、胸に抱え込んだ。小屋から出た所でまじまじとその白い羽根を見つめた。
「これが…時の花びら?」
「もーらいっと!」
赤い光が英麻の足をかすめた。バランスを崩した英麻は転倒、その手から時の花びらが飛び出す。ハザマと戦っていたパイが光線銃を撃ってきたのだ。ハザマが怒鳴った。
「卑怯だぞ!」
したり顔のパイが地面に落ちた時の花びらをむしり取ろうとした。ところが。
「…くそっ!何で取れないんだよ、このっ!」
パイはまったく時の花びらをつかめなかった。すぐそこにあるのにむなしく指がすり抜けるだけ。起き上がった英麻はパイの手をかわしてもう一度、時の花びらを拾った。手に確固とした感触がある。
夜空に見えた十二の光が蘇った。
時の花びらは、それを十二枚そろって直接、見た者でなければ触れない―――
オカ司令官が言っていたことは本当だったのだ。
「なるほどねえ。それがタイムアテンダントが持つ例の力ってわけだ」
ローを伴ったイプシロンがゆったりした足取りで歩いてくる。なぜか余裕の笑みを浮かべてイプシロンは英麻を見た。そして、杯のような形の赤い器を差し出した。
「さあて、お嬢ちゃん。いい子だからそれをこの上に置いておくれ。私らには時の花びらが直につかめないからねえ。そしたら綺麗な服やら宝石を山ほどくれてやるよ?」
「いやよ!これを元に戻さないと卑弥呼が大変なことになるんだから」
ハザマとサノが英麻をガードするように両脇に立った。
「クク…そうかい。正義感の強い小娘だねえ。なら、試してみようか。その正義感とあんたの本当の望みとどちらが強いのか」
イプシロンがローに目配せした。
次の瞬間、英麻は白い霧の中に一人でいた。




