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時空守護士タイムアテンダント  1 巫女と女王の願い  作者: 夜湖
第五章 時を喰らう者
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「ニコの言う通り、それは時空共感力だな」

サノが少し驚いた顔で答えた。

夕暮れ時の守りの森。スピカのライトが照らすほのかな明かりの中に英麻、サノ、ハザマ、ニコが円を描いて座っていた。今は回収に向けた最後の打ち合わせ中。その途中で、卑弥呼に手をつかまれた時に起こった、あの不思議な出来事について英麻が質問していた所だった。

「時空共感力…」

サノがさらに説明した。

「時の花びらの宿主に触れた時、その宿主の過去を垣間見る能力のことだよ。221X年の研究では、十二枚の花びらを直接、見た者にはこの力が備わる場合もある、と考えられている。あくまでも研究上の能力だから僕も実際にあるとは思わなかったけど」

「それじゃあ、あの時、私が見たのは」

「卑弥呼の過去だったってことダヨ。時空共感力は宿主のことを知るのにとっても役立つ力なんダヨ」

「そうなんだ」

英麻は半分うわの空で返事した。焼け落ちる村を弟とさまよい、自分たちの命と引き換えに母親を失くした女の子。あれが卑弥呼の子供時代。

あんなに辛い過去を経て、卑弥呼は邪馬台国の巫女になったのだ。そして、今は今で不思議な力が弱くなったという問題を抱え、一人悩んでいる。

勝手に羨んじゃってバカみたい。

まだ弥生時代にタイムスリップする前。純に卑弥呼の一方的なイメージをまくしたてた自分を英麻は情けなく思った。

私に何ができるんだろう。卑弥呼のために一体、何が。

「ところでサノ―、卑弥呼が修行をやめたいって言ってる件はどうするのオ?」

ニコがハザマの肩の上からのんきな声で聞いてきた。

「それについては様子を見るしかないな。タイムパトロールの公式年表を見ても『卑弥呼が女王になる』という史実は今現在も確定したままだし。時の花びらを宿したことで心理面に何らかの変化が生じたのかもしれないね…英麻ちゃん、打ち合わせの続きだけどいいかな?」

「あ、はいっ」

いけない。今はとにかく卑弥呼の時の花びらの回収任務を果たすのよ。

背筋を伸ばして英麻は気持ちを切り替えた。

「じゃあ、もう一度確認するよ。まず、英麻ちゃんはこの後、再び卑弥呼の館まで行って彼女に声をかける」

「はいっ!そして私は卑弥呼を館の庭に連れ出す。そしてサノさんたちが隠れているポイントまで卑弥呼を誘導するっ…で合ってます?」

「うん、OK。あとは卑弥呼と一緒にスピカに乗って、ニコの指示通り動けば大丈夫だよ。回収時の機械操作もニコがやってくれるし。昼間、立体映像の模型で見たようにタイムゲートを通過すれば時の花びらは22YZ年に回収される」

卑弥呼の館を含む集落や上空の様子が表示されたノートパソコンの画面を確認しながらサノが言った。

「よーし。これで回収が成功すればタイムアテンダントの任務は完了するのね」

意気込む英麻をじろりとハザマが見た。

「もう変な早とちりはするなよ。花びらの回収には小さなミスも許されないんだ。麻酔銃の針だってそういくつもあるわけじゃないんだから」

「ふん。あんたに言われなくたって気をつけるわよ…ねえ、ちょっと待って。麻酔銃って何のこと?」

「決まってるだろ。卑弥呼に使う麻酔銃だよ」

ハザマは無造作に小型の銃を取り出して英麻に示した。灰色の銃が鈍い光を放っている。

「ど、どういうこと?まさかそれで卑弥呼を撃とうっていうの?冗談でしょ」

「こんな時に冗談言うわけないだろう。やっぱりおまえ、わかってないんだな」

「偉そうに。何をわかってないっていうの?」

だんだん英麻の声は大きくなってきていた。サノが静かに口を開く。

「英麻ちゃん、ひとまず落ち着いて。ハザマは喧嘩腰になるな。説明する気があるならちゃんと話せ」

ハザマは空色の目で真正面から英麻を見た。

「おまえは卑弥呼が何の疑問もなしにスピカに乗ってくれると思ってるのか?」

「え…」

「時の花びらは上空に出現するタイムゲートを通じて回収される。そのためには必ず宿主をスピカに乗せて空を飛ばなきゃならない」

英麻はミニチュアの模型で見た、時の花びら回収時の様子を思い出す。空の上で光の輪をくぐり抜けるスピカを。

「卑弥呼は弥生時代の人間だ。原始の時代に生きる彼女があんな空飛ぶ乗り物にほいほい乗ってくれるわけがない。騒いだり、ひょっとしたら暴れてケガをするかもしれない。そうならないためにも宿主には麻酔銃で眠ってもらわなきゃダメなんだ。どのみち、時の花びらが回収されれば卑弥呼の記憶は消える。撃たれたことだって覚えちゃいない」

英麻は絶句した。ハザマの言葉の最後が理解できなかったのだ。

「記憶が…消える?」

口に出してみてもやはり理解できない。

「そんな…卑弥呼の記憶がなくなっちゃうの?サノさん、ほんとなんですか?」

「本当だよ。タイムゲートを通過する際、ゲートそのものが放つ光の作用で宿主の記憶はリセットされるんだ。ただ、すべての記憶が消えるわけじゃない。リセットされるのは、時の花びらの回収に関する記憶、そしてこの時代に本来、存在しない者と関わった記憶だけだ。卑弥呼の場合、自分が卑弥呼であるという認識や彼女がこれまで経験した他の出来事は残るよ」

この時代に本来、存在しない者と関わった記憶はリセットされる―――

「じゃあ今日、私と会ったり、話したりした記憶も…消えるの?」

「うん。でも、こればかりは仕方のないことなんだ」

「でも…何とかならないんですか?タイムトラベルが可能でいろいろ便利な道具もある未来ならもっといい方法が」

ハザマが英麻をにらみつけた。

「いつまで甘えたこと言ってるんだよ。おまえがそうやってためらうのは卑弥呼がミカコとかいう友達に似てるからじゃないのか?」

いきなり海夏子の名前を出され、英麻はぎくっとする。

「どうしてそれを…あんたまさか、あの庭で盗み聞きしてたの!?」

「ああそうさ。おまえがまともに卑弥呼に接せられるのか不安だったからな」

悪びれもせずにハザマは答えた。その態度に英麻はますます腹立たしくなった。

「やっぱり、いや。いきなり麻酔銃で撃って卑弥呼の記憶を消すなんて。たとえ任務でも私にはできないわ。卑弥呼の記憶は卑弥呼だけのものだもの!」

「ならおまえはいいのかよ。いつまでも卑弥呼から時の花びらが回収できなくても」

「そ、それは…」

英麻はぐっとつまった。

「いいか、卑弥呼は卑弥呼なんだ。おまえの友達とは違う。いくら笑った顔が似てたって、まったくの別人なんだよ」

ハザマの厳しい声に英麻は黙りこくった。急速に怒りがしぼんでいく。ニコがつぶらな瞳で英麻を見上げた。

「英麻チャン、この任務には時空の平和がかかってるんダヨ。しくじるわけにはいかないんダヨ」

「卑弥呼に使う麻酔銃は、撃たれてから一時間後には必ず目覚めるようにできていて健康に影響はない。撃たれて時もほとんど痛みは感じないよ」

サノがそっと続けた。

英麻は唇を噛みしめ、うつむいた。

「……わかりました」

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