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卑弥呼の時の花びら回収計画の筋書きは以下の通りである。
まず、英麻は侍女の一人として卑弥呼に近づく。身の回りの世話を通して話をする中で、卑弥呼との距離を縮めて気を許させる。(ニコの内部にインプットされた『卑弥呼専用スーパー会話ソフト』なるものを使えば、それも可能なのだという)その後、夜になったら卑弥呼を連れ出してスピカに乗せる。そして指定された上空の回収地点にてタイムゲートを通り抜け、時の花びらを回収するというわけだ。
炊事場に一歩入るとそこは活気に満ちた場所だった。
食べ物の匂い。湯気の温かさ。それらが立ちのぼる中を侍女たちが忙しそうに行き交っている。皆、英麻がタイムパスポートの作用で着ているのと同じ格好をしており、中には英麻と同い年くらいの女の子たちもいた。野菜を刻む者、煮炊きをする者、器を並べる者など、そのテキパキとした動きには少しのむだもない。
「ちょっと、そこのあんた」
振り向いた先には仏頂面の大柄な女がいた。その女には兵士たちにも負けぬ迫力があり、英麻ですら女はこの炊事場にいる侍女の中でも上の立場にいる者だとすぐにわかった。
「何をぼさっとしているの?用意はできたから早くお持ちしてちょうだい」
「へっ?私のこと?お持ちするって誰に何を?」
「何ってヒミコさまのお食事に決まってるだろう?ほら、さっさとおし!」
「わわっ!わかりました、行きます、行きますっ!」
容赦ない怒鳴り声に英麻は食事が載った大きな盆を引っつかみ、その場から飛び出した。
「あー、おっかないおばさん。もうちょっと親切に頼んでくれたっていいじゃないのよ」
「いいんダヨ。それだけタイムパスポートが機能してるってことだからネ。卑弥呼の館はあっちダヨ」
ニコに促され、英麻は盆を抱えて歩きだした。こねた土を焼いて作った盆の上には器に盛られた様々な料理があった。ほどよく焦げ目のついた焼き魚に海藻と豆類の煮物。野菜の焼き物からは香ばしい匂いが、赤みがかったご飯からはほんのり甘い匂いが漂ってくる。
「へええ。これが弥生時代のご飯かあ。一見、地味だけど…こうして見るとどれも結構おいしそう」
英麻はお盆を顔に近づけ、遠慮なしに鼻をひくつかせた。同時にぐうーっとおなかが鳴る。
「アーッ!だめダヨ、英麻チャン!それは卑弥呼のご飯なんダヨッ」
「そんなこと言ったってしょうがないじゃない。こっちは学校終わってからほとんど何にも食べてないんだからっ……」
英麻は思わず息をの飲んだ。いつの間にか卑弥呼の館に着いていたのだ。
その館には特別な雰囲気があった。
茅葺の屋根も木を組んだ柱も造り自体は簡素である。しかし、他の建物と異なる空気がそこにはあった。透き通った糸をぴんと伸ばしきったような空気。それは神社やお寺の中にいる時に感じるものとどこか似ていた。
この中に卑弥呼がいる。後に邪馬台国の女王となるあの卑弥呼がいるのだ。
どうしよう。何だか急に緊張してきた。
英麻はお盆を抱えたまま、首を伸ばして館の入り口をのぞき込んだ。だが、入り口には獣の皮で作ったらしい覆いがかけられ、中の様子はよくわからない。
「さっ、早く中に入るんダヨッ」
「……う、うん」
ニコに促され、英麻はついに卑弥呼の館に足を踏み入れた。




