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「それではサノ、ハザマ両隊員にニコ777、そしてタイムアテンダントの足立英麻君。時の花びらの回収任務をよろしく頼んだよ」
「はいっ」
スクリーンに映ったオカ司令官にサノとハザマとニコ、不純なやる気満々の英麻も敬礼をした。
スクリーンは音もなく消え去った。
「さてと。まずは時の花びらの回収手順から確認していこう」
サノがシリウスの操縦席を操作すると青い光が地面へ放たれた。
たちまち英麻の前にドーム型の模型が現れた。大きさはダイニングテーブルくらい。模型の中にはミニチュアサイズの山や川や森、英麻が先ほど見た弥生時代の住居群があった。ドームの天井部分には明るい空が広がり、これまたミニチュアの空色の飛行機が浮かんでいた。よく見るとそれはタイムマシンのスピカだった。
「わあ、よくできてるー。何ですか、これ」
「これは邪馬台国の中心部にあたる、このあたりの集落を縮めて立体映像にしたものなんだ。今、僕たちがいるのがここ」
サノがこんもりとしげった森を指した。
「この森は現地の弥生人たちからは守りの森と呼ばれていてね。卑弥呼が住む館の庭の一部とつながっている。さっき英麻ちゃんはその庭に偶然入り込んじゃったんだよ」
「普通、あんなふうにいきなり森をうろついたりなんかしないけどな」
ハザマがぼそっとつぶやいた。英麻はむっとしてハザマをにらんだ。
「時の花びらの回収時、英麻チャンは卑弥呼と一緒にこのスピカに乗るんダヨ。回収は空の上でやるからネ。そしてタイムゲートをくぐるんダヨ」
今度はニコが前足でミニチュアのスピカを指した。
「タイムゲート?」
「こいつのことさ」
ハザマが指した方には小さな光の輪っかがあった。ピンクに光るフラフープを縮めたようなものが模型の空に浮いている。
「タイムゲートは221X年につながる入り口なんだ。弥生時代と未来を結んで、時の花びらを221X年の時空時計に戻す役割がある。花びらの回収時にはスピカに同乗したニコの操作でこのタイムゲートが出現する。上空で最も回収がしやすい地点にね」
「時の花びらを回収する時のイメージはこんな感じダヨ」
ニコの言葉と共にミニチュアのスピカがスーッと空を進んだ。
タイムゲートの前まで来ると、スピカは速度を上げ、ぐんぐん近づいていく。そのままタイムゲートの光る輪をくぐり抜け―――バチンッ!
「わあっ」
目の前で小さな花火が弾けた。
「実際はここで時の花びらが回収されて221X年の時空時計に戻るんだ。回収直前、時の花びらはタイムゲートの光に反応して卑弥呼の体内から外に出てくる。ここで英麻ちゃんの出番だよ。英麻ちゃんには時の花びらをつかんでタイムゲートにかざしてほしいんだ。出てきた時の花びらがそのままどこかに行っちゃうと困るからね」
サノが続けて説明した。
「すごーい。まるでSF映画みたいっ」
英麻はしげしげとミニチュアのスピカやタイムゲートを眺め回した。
「次はスカイジュエルウォッチの他の機能の説明だね」
「えっ、他の機能?」
英麻は左手のスカイジュエルウォッチを見た。確か、これにはその者がタイムアテンダントにふさわしいか決定する機能があるとオカ司令官が言っていたっけ。
「スカイジュエルウォッチにはあと二つ機能がある。一つ目は道具箱の機能。タイムアテンダントが回収任務を果たすうえで役立つアイテムがその中にはいくつか入ってるんだ。タイムアテンダントにの意思に反応して、その時必要な道具が手元に現れるようになっている」
「ニコが最初にあげたペラペラキャンディもその中に入ってるんダヨ」
「ペラペラキャンディって……あっ、あのキャンディ?」
すっかり忘れていたが、英麻は弥生時代に着いてすぐ、ニコからいちご味の赤いキャンディをもらっていた。
「ペラペラキャンディは別名、通訳キャンディとも言ってね。なめるとタイムスリップした時代の言葉を自由に話したり、聞き取ったりできるようになるんだよ」
「えっ?でも、ここ同じ日本だし、そんなことしなくても平気なんじゃ」
きょとんとする英麻をハザマが小馬鹿にした目で見た。
「ふん。二千年近く前の弥生時代とおまえがいる201X年の言葉が同じわけないだろ。年数を経るほど言葉遣いや発音は変わるんだ。もちろん、意味も。それぐらい想像しろよな、バカ」
「バカとは何よっ!ちょっと間違えちゃっただけじゃないの」
時間が経つほど英麻はハザマの口の悪さが嫌になっていた。本当はもっと言い返したかったのだが、サノがコホンと咳払いしたので話に集中する。
「スカイジュエルウォッチ二つ目の機能。それはタイムアテンダントのユニフォームへの変身機能だよ」
「へん…しん?」
「そう変身」
英麻は目を丸くした。変身ってあの変身?戦隊ヒーローや魔法少女がよくやるあれ?小学生の頃、妹と見ていた魔法少女系アニメのワンシーンを思い出す。
「変化性身体能力向上機能。略して変身機能。タイムアテンダントには専用のユニフォームがあるんだ。何かあった時に自分の身を守るためのね。タイムアテンダントに選ばれたとはいえ、英麻ちゃんが普通の中学生であることに変わりはないから」
「ふんふん」
「スカイジュエルウォッチをはめた方の手を構え、きちんと気持ちを落ち着けて意識を集中させるんだ。そうすれば、タイムアテンダントのユニフォーム姿になれる。ほんの一瞬でね」
「へええー、ますますSF映画の世界だあ」
英麻はしげしげとスカイジュエルウォッチを眺めた。
「次はタイムパスポートの説明だね。ニコ、英麻ちゃんにタイムパスポートを」
「はいヨッ」
ニコはくるんと一回転して何かを取り出すと、それを英麻に渡した。
「これがタイムパスポート!この時代で活動するのに不可欠な機械なんダヨ。タイムパトロールのみんなも持ってるヨ」
それはどう見ても桜の花のペンダントだった。純白の桜の大輪。アクセントに添えられた若草色の細い葉。それらに金色の細いチェーンを通した形だ。とても機械には見えなかった。
「へえ、可愛い」
「弥生時代に着いた時、本当は最初にこれを渡すはずだったんダヨ。さあ、英麻チャン、そのタイムパスポートを首にかけるんダヨ」
英麻は言われた通りにしてみた。とても軽いつけ心地だった。胸元で桜の花がきらめいているのが見える。
「それを身につけていれば、どんなに見張りが厳しい所でも怪しまれずに入れる。タイムパスポートにはその時代の人々に対して、僕たちがよそ者であるという意識を消す働きがあるんだ。髪型や服装を当時のものに自動で調整する機能もついている。まあ、身につけている本人の目には見えないんだけどね」
その言葉に英麻の顔がパッと輝いた。
「え?ってことは今の私の姿も変わってるってこと?弥生時代の格好に?わー見たい、見たい!あのっ、何とか見ることってできませんか?ちょっとでいいですから」
「うーん。じゃあ、ちょっとだけね」
サノの操作でまたあの巨大スクリーンが現れた。
「ここにタイムパスポートの作用で弥生時代の服装になった英麻ちゃんの姿が映るから」
興味津々で英麻はスクリーンをのぞき込んだ。が、すぐにぶうたれた顔になる。
「えー何か地味ー。この服、色がはっきりしないし、ヘアスタイルも決まってないし」
薄茶に近いワンピースに似た着物に無造作に束ねただけの髪型。それがスクリーンに映った英麻の姿だった。おしゃれからはほど遠い。
「せめて髪飾りの一つくらいつけてくれたって」
なおも不満そうな英麻にハザマが噛みついた。
「しつこい奴だな、仕方ないだろーが。その服装もこの後の計画に関わってくるんだから。そもそもだなあ」
急にハザマの口調が変わった。
「その服の名は貫頭衣といって、一枚の布に頭を通す穴を開けて着る衣服なんだ。布の材料は麻。そのため、丈夫で通気性にも優れている。これは居住環境がまだ厳しい時代に弥生人が生み出した生活文化における知恵であって、その意義は非常に」
「ハーザーマッ!」
サノの一声でハッとしてハザマはしゃべるのを止めた。
「こいつの悪いくせでね。歴史が大好きすぎて、ちょっとしたきっかけでその時代の蘊蓄をまくしたてることがよくある。英麻ちゃんも気をつけた方がいいよ。それじゃ、この後のくわしい計画を説明していくね」
大好き?
あの歴史が?
バツの悪そうな顔で頭をかくハザマを英麻は宇宙生物でも見るような目で見つめた。




