6
ちょっと待って。これってかなりすごい展開なんじゃ。
ここへ来て英麻はようやく事の重大さに気がついた。足元からじわじわプレッシャーがはい上がってくる。
口から出たのは蚊の鳴くような声の返事だった。
「…む、無理ですよお。私にそーんな大それたことできっこないもの、ハハ。いくら時の花びらを十二枚、直接、見たからって…ハハハ」
できない。私にできるはずがない。普段は隠れている後ろ向きな自分が顔を出す。心の中でいやだ、無理だ、と頭を振っている。中学受験をやめたいと両親に言い出した、あの頃と同じように。
「おい」
棘っぽい声が聞こえた。
「そんな返事でいいと思ってるのかよ」
腕組みしたハザマがまたも英麻をにらみつけていた。
「メビウスによる事件の後、時の花びらに触れるおまえを探し出して、弥生時代にタイムスリップさせるまでに結構な手間がかかってるんだぞ。こっちだって本当はおまえみたいに歴史の勉強がダメな奴に卑弥呼を関わらせたくはないんだからな」
英麻はカチンときた。
「ちょっと何よ、その言い方。そもそも何であんたがそんなこと知ってるのよ?」
サノに小突かれ、どういうわけかハザマがしまった、という表情になる。ニコがハザマの肩から得意げに叫んだ。
「それはネ、タイムパトロールのみんなで見てたからダヨ!英麻チャンが日本史の授業でしくじる所を…」
今度はハザマが「わっ、バカ」と慌ててニコの口をふさいだ。
「はあ?どういうことよ?」
サノが申し訳なさそうな顔になった。
「実は、僕たちは君が日本史の授業を受けていたあの教室を221X年からモニタリングしていたんだ。無事、英麻ちゃんがスカイジュエルウォッチをキャッチできるか確認するために」
「えっ、てことは…ま、まさか。私がツノミヤに当てられて答えられなかった所も、その後のお説教も全部あなたたちは……見て…た?」
ハザマ、サノ、ニコ、スクリーン越しのミサキとオカ司令官の首がうん、となる。
あの場面を見られていたなんて。それもこんな見ず知らずの人たちに。瞬間湯沸かし器のごとく英麻の体は熱くなった。
「帰るっ」
英麻は真っ赤な顔で言い放った。
「わ、私には関係ないもん。帰るったら帰るわっ!」
その時、オカ司令官から一言。
「あー聖組と言ったかな?」
「へっ?」
英麻の目の色が変わった。
「確か2010年代のスーパーアイドルグループじゃよなあ。ここ221X年でもいまだにその人気は語り草じゃよ。英麻くんもだいぶ熱を上げているらしいのう。授業中も彼らの写真入りの下敷きを使っておったし」
のほほんとした声でオカ司令官はさらに続けた。
「何でも彼らがメインを務める舞台『剣聖華劇』は大勢の女の子を虜にしたとか」
ミサキが無表情に手元のキーボードを操作した。スクリーンに『剣聖華劇』の画像が大写しになる。英麻が大好きな布施くんもこちらに向かってウィンクしていた。
「布施くん…」
「もし、君が時の花びらをすべて回収できたなら、こちら側の操作で特別に聖組のメンバーに会わせてあげることもできるんだがねえ。それもできる限り君の好きなシチュエーションで」
「ひ、聖組にっ!?…そ、そんな、うそ。うそだあ。だってタイムパトロールなんでしょ。そんことしちゃっていいの?」
「それが意外と大丈夫なんじゃなー。歴史上の重大事件に関わることではないし、ほんのわずかな時間ならば問題にならない。さて、いかがかのう?」
秒速で英麻の頭の中に妄想が広がっていく。それはこんな感じだった。
『剣聖華劇』の終演後。
誰もいない客席に一人でいる英麻。(なぜか、お姫様が着そうなふわふわのドレス姿である)パッとステージに明かりが灯った。そこにはあの四人がいる。頼れるリーダーの佐伯北都くん、やんちゃな長谷部翔太くん、王子様系の加藤すばるくん。そして、あの布施慶彦くん。
布施くんがさっとステージを降りて迎えに来てくれる。焼きトマトみたいに真っ赤になった英麻に手を差し出す。
「―――英麻ちゃん、いつも応援ありがとう。大好きだよ?」
目の前で最高級の布施くんスマイルがキラキラ輝いている。
次の瞬間、英麻は両手で握りこぶしをつくり、鼻息も荒く宣言した。
「……この足立英麻、タイムアテンダントになって時の花びらを回収してみせるわよっ!」




