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時は221X年。
タイムトラベルが可能になっているこの時代、時間犯罪者たちの時空への侵入を防ぐため、タイムパトロールはある道具の力を借りていた。
それが『時の花びら』である。
正式名称はシールドセラミックカプセル。その数は全部で十二枚ある。時空時計という特殊な時計にそれらを組み込み、時空の中に巨大な壁(通称、シールド)を築いていた。
「これが時空時計じゃ」
スクリーンの画像が切り替わった。青い柱時計が見える。スクリーン越しでもわかるほど巨大な時計だ。町中のビルよりはるかに高そうなそれは、有名なイギリスの時計塔に少し似ていた。広い文字盤には十二の数字と同じ位置にそれぞれ細長い楕円形のくぼみがあった。
なぜか針は午前零時五分前で止まっている。
「このくぼみに十二枚の時の花びらが埋め込まれていたんじゃ」
画像がさらに切り替わった。英麻の目の前に広大な青い空間と白い雲、長い一本道が見える。どこかで見た景色だ。
「こっちは時空の映像じゃよ。あの一本道がわかるかな?あれをクロノロジーランウェイ、年代滑走路とも言うんじゃが、この道を起点に様々な過去の時代に行くことができる。弥生時代に来る時、英麻君もここを通ってきたはずじゃ。少し前まではこの要所要所にシールドがあった」
時の花びらによる防御壁、シールドの効果は抜群だった。シールドを設置して以来、時間犯罪者たちはこの壁に阻まれ、好き勝手に時空を越えることはできなくなった。
「ところが時の花びらそのものを狙う時間犯罪者が現れた。それがメビウスじゃ」
オカ司令官の目がわずかに暗くなった。
時間犯罪者集団、メビウス。それは時間犯罪者の中でもかなりの強敵だった。彼らは時空時計があるタイムパトロール本部のセキュリティーセンターに難なく侵入し、時の花びらを手に入れる寸前までいった。だが、ここで想像もつかない事態が起きる。
時の花びらがその場からすべて消え去り、時空に散らばってしまったのだ。原因はわからない。やがて、花びらのうち、一枚だけがはるか過去の弥生時代で見つかった。
その一枚の在り処、それは卑弥呼の体内だった。
「どうしてそうなったのか、これまたわからない。だが、時の花びらが卑弥呼の体の中にあるとわかった以上、早く回収する必要がある。時の花びらを失って時空時計は機能停止したままじゃ。このままではシールドが造れず、時空にまた時間犯罪者が侵入してしまう。特別部隊が追跡捜査しているものの、メビウスもまだ捕まっておらんしな」
「特別部隊?」
「強力な時間犯罪者を専門に追う部隊の名前だよ。知力、体力ともに非常に優れたタイムパトロールが誇るエリート集団だ。極めて尊敬に値する」
今度はミサキが説明した。なぜかものすごい棒読みだった。再びオカ司令官が口を開いた。
「我々タイムパトロールには時の花びらをその手につかみ、回収できる者が必要となった。それがタイムアテンダントじゃ」
もうこの時点で英麻は話についていくのに精一杯だった。だが、ふとある疑問を持った。
なぜ、自分がそのタイムアテンダントに選ばれたのだろう。何の関係もない二百年も前の時代に暮らす自分が。
「あのう…どうして私なんですか?221X年の未来の人たちでもその回収はできるんじゃあ」
オカ司令官がうなずいた。
「そう思うのは当然じゃ。実は時の花びらには特殊な性質があってな。『十二枚そろった状態を直接、見る』―――この体験をした者だけが花びらに触れる能力を得られるんじゃ。そうでない者にはまったく触れない。たとえ、目の前にあったとしてもな。時の花びらはセキュリティーセンターでは普段から専用の保護バリアーで管理され、外からは見えないようになっていた。メンテナンスを行う時も一枚ずつ取り出すことはあっても、十二枚すべてを同時に保護バリアーの外に出すことはなかったんじゃよ」
オカ司令官は一呼吸、置いた。
「つまり、すべての時の花びらを直に見た上で、時空を越えて過去に行き、花びらをつかんで回収を行える者は221X年にはいないということじゃ。ゆえに我々は他の時代に目を向けた」
時の花びら十二枚は時空に散らばる前、ある時代に一瞬だけ出現していた。それが201X年である。
「君は昨日の夜、十二の光を見たじゃろう。あれこそが時の花びらだった。その体験によって君は時の花びらに触れる力を得たんじゃ」
窓の向こう。黒い夜空。真っ白い光の群れ。
十二の光。十二の流れ星。
それらが英麻の頭に蘇った。あの短い時間の出来事でそんな能力が自分に備わったというのか。
「この回収任務では回収方法の性質上、『時の花びらをつかむ』という動作が必要不可欠じゃ。だから君がタイムアテンダントに選ばれた。スカイジュエルウォッチも君を選んだし、この選定は間違っていないはずなんじゃ」
「スカイジュエルウォッチ?」
「その腕時計じゃよ。それは我々が未来からわざと落としたものなんじゃ。腕時計についている宝玉、スカイジュエルの中身は実はコンピューターでな。タイムアテンダントの素質がある者に強く引き寄せられるよう設計されている」
英麻はえっという顔で腕時計の文字盤をのぞき込んだ。空色の宝玉が最初と変わらぬ澄んだ色で見つめ返してくる。
「君ならば時の花びらの回収ができる」
オカ司令官はスクリーン越しにしっかりと英麻の目を見た。
「どうかお願いじゃ。タイムアテンダントとして、卑弥呼の時の花びらの回収任務に協力してくれないだろうか」




