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英麻と二人の少年、そしてニコ777なる子ブタのロボットは大きな森の入り口にいた。英麻が最初に目を覚ました、あの森だ。例の空色の飛行機の隣にもう一台、別の乗り物があった。こちらは飛行機というよりも船に近かった。どこか宇宙船を思わせる形で深い青色をしている。尾翼にはサノやハザマがつけている腕章と同じTの字と十字星を組み合わせたマークが見えた。英麻の視線に気づいたサノが説明した。
「これはシリウス328。そこのスピカと同じタイムマシンだよ。僕たちタイムパトロール第八部隊はこれに乗って来たんだ。221X年の未来からね」
未来。タイムパトロール。タイムマシン。そして、タイムスリップ。SF映画に出てくる言葉のオンパレードだ。
英麻はまだぽかんとした顔でいた。頭がクラクラして、チンプンカンプン。そんな状態だった。
「…ええと、あの。では、ここは結局……どこなんでしょう?」
「弥生時代の邪馬台国。もうすぐ女王卑弥呼が誕生しようとしている頃のね」
「え、卑弥呼…?」
卑弥呼。ちょうど今日の日本史にも出てきた歴史上の人物。弥生時代の女王様。
あの卑弥呼がここにいるというのか。
「さっきおまえを助けてくれた巫女、あれがそうさ」
ハザマがぶっきらぼうに言った。長い黒髪の少女の姿が蘇る。
「卑弥呼…邪馬台国…弥生時代……うえええっ!?」
サノが黙って森の入り口から見える集落を指した。それを見た英麻はあんぐりと口を開けた。直後、何を思ったか、英麻はあたふたとスピカの元へ走った。中にあったリュックサックから日本史の資料集を引っ張り出す。開いたのは弥生時代の生活文化のイラストが見開きで大きく描かれたページだ。そのページと集落の風景を照らし合わせた。
―――おんなじだ。
円錐形に造った藁葺の分厚い屋根だけをそのまま地面に置いたような家。それらがぽつんぽつんと建っている。水を張った田んぼや緑の畑が遠くまで続いている。それらの手入れをする見慣れぬ着物姿の人々。そのさらに遠くには霞んだ山々の影。
さえぎるものなど何もない。
広い。ありえないほどこの場所は広い。こんな広い場所、ファンタジードームにあるわけない。
ここは今までいたのとは違う世界だ。英麻の本能がそう告げていた。
「じゃあ、ここは…ここは本当に……」
ごくりとつばを飲み込む。
「弥生時代」
英麻はやっとの思いでその言葉を口にした。サノが静かにうなずいた。
「そろそろ未来側と通信する頃だな」
サノの言葉と共に巨大なスクリーンが出現した。宙に浮かぶ大画面に二人の人物が映っている。小型の黒いヘッドフォンをつけて着座した少年とその右後ろに立つ老人。
赤みがかった茶髪が肩くらいまで伸びた少年はサノやハザマと同じ青い制服姿で切れ長の鋭い目が印象的だった。
老人の方は―――
わあ、可愛いおじいちゃん。
今の状況も忘れて英麻は老人に見入った。老人はそれくらいほんわかした雰囲気を持っていた。白い髪と口ひげ、つぶらな黒目に丸っこい体つきという外見は絵本に出てくる王様か小人を連想させた。この老人もデザインは異なるが、深い青色の制服を着ている。サノが英麻に画面の二人を紹介した。
「こちらがタイムパトロールのオカ司令官。その隣が通信担当のミサキ・セイイチロウ。彼も同じ第八部隊の隊員なんだ」
「ずいぶん遅かったね、サノ。まさか弥生時代について早々、トラブルを起こしたわけじゃないだろうな?」
ミサキが画面越しに問いかけてきた。
一瞬の沈黙。
サノが軽く肩をすくめた。
「ちょっと危うい所もあったけど、今の所はまだ大丈夫。タイムアテンダントとも合流できた」
「ならいいけれど。では司令官、タイムアテンダントへの説明を」
「うん」
オカ司令官が席に着き、真正面から英麻を見た。
「やあ、足立英麻君だね?いきなり遠い過去に連れてきてしまってすまないねえ。我々は時空および各時代の警護を行うタイムパトロールの者じゃ」
声も外見と同じく、どこかのほほんとしたものだった。
「君はこのたび、タイムアテンダントに選ばれた。時の花びらを回収するためにのう」
時の花びらにタイムアテンダント。さっきサノにも言われた言葉だ。一体、何のことなのか。
英麻の混乱を見透かした顔でオカ司令官は続けた。
「これから話して聞かせよう。我々が住む未来で何が起こったのかを」




