1
221X年
その小さな影は歩いていく。行く手にそびえる巨大な青い柱時計に向かって。
ふわりと浮かび上がる影。黒いベールが揺らめき、影は高く高く昇っていく。柱時計の文字盤が目の前に迫ってくる。時刻は午前零時五分前。
文字盤の中に何かが見える。時計の数字を囲むようにそれぞれ埋め込まれた十二の飾り。
白い鳥の羽根。十二の飾りはそれに近い形をしていた。
黒い手袋をした手が白い羽根の一つに伸びた。12と記された数字の真下にある羽根に。
ガッと音がして黒い手が羽根をつかみ取る。
黒いベールに隠れた口元が一瞬だけ見えた。きめこまやかな色白の肌。美しい形の唇。その唇がかすかに微笑む。
直後、異変は起こった。
カチャカチャカチャカチャカチャカチャ
小刻みな振動が聞こえる。白い羽根が震えているのだ。震えはどんどん激しくなっていく。
カチャカチャカチャカチャカチャカチャ
ガチャガチャガチャガチャガチャガチャ
次の瞬間。
十一枚の白い羽根が文字盤から飛び出した。そのまま柱時計から離れて宙を舞う。残り一枚、小さな影の手中にあった羽根もその手をこじ開け、他の羽根たちに合流する。
あっという間に十二枚の羽根はどこかへ消え去った。
ジリリリリリリリリリリリリ
サイレンの音が鳴り響く。真っ赤なライトがあちこちで光り、大勢の声と足音がこの場へ向かってくる。
小さな黒い影はいつの間にか姿を消していた。
赤いライトが飛び交う中、サイレンはいつまでも鳴り続ける。