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「まったくもう。何なのよ、あの変な子ブタはっ……それにしてもどこなんだろう、ここ。ファンタジードームにこんな森なかったと思うけど。間違ってオープン前のアトラクションに入っちゃったのかなあ」
一人呟きながら英麻は森の中を歩く。森の中は思った以上に深そうで、数え切れないほどの木々が茂っていた。遊園地のアトラクションにしてはやけに迫力のある森だ。
唐突に開けた場所に出た。
そこには一軒の小屋があった。厚ぼったい藁の屋根と木の柱でできた、素朴な造りの小屋だ。
「あそこならファンタジードームのスタッフさんがいるかも。わけを話して出口に連れてってもらおうっと」
英麻は早足で小屋に近づいていった。開け放された入り口からそっと中に入り込む。
小屋の中はかなり薄暗かった。ぼんやりといくつかの作業台が見えるだけ。
「あれ、誰もいないのかな……ん?」
英麻は物音を聞いた気がした。それは本当にかすかな音だった。だが、確かに聞こえてくる。
カサカサ、パリパリと囁くような音。
音は作業台の方から聞こえてくるみたいだ。作業台の上にはいくつかの箱が並べられていた。
英麻はひょいっと箱の一つをのぞき込んでみた。
「…っ!?」
そこにいたのは蚕、蚕、蚕、蚕の群れ。丸々と太った白い芋虫がいっぱいいる。囁きに似た音を響かせ、ニョロニョロ動きながら桑の葉を食んでいる―――
「ギャアアアア―――ッ!」
息も絶え絶えに英麻は小屋から逃げ出した。
「な、何だってあんな所に…アレが大量にいるのっ…ファンタジードームの中なのに…うわあっ!」
誰かに腕をつかまれ、乱暴に突き飛ばされる。
「いったあ…もう、今度は何なのよって……えっ?」
目の前には槍を手にした筋骨隆々の男たちが大勢いた。簡素だが、どこか変わった衣装をまとい、顔や体には入れ墨らしき模様がある。男たちの荒々しいエネルギーに満ちた目。その目はどれも激しく英麻をにらみつけていた。