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221X年
「―――確かに引き寄せられていったな」
腕組みをしたオオツジが淡々と言い放った。明かりを落とした中央監視室のモニターには角宮にくどくど説教され、小さくなる英麻が映っていた。その手にはあの空色の宝玉がついた腕時計が握られている。
「これによりスカイジュエルは彼女がタイムアテンダントにふさわしいと判断した」
「しかし、オオツジ隊長。本当にこの少女のサポートを第八部隊なんかに任せるのですか?やはり、我々が行うべきでは」
特別部隊のスギヤマがいら立った声で問う。
「偉大なる司令官殿のご命令だ。逆らえんだろう?たとえ、それが英断にはほど遠くとも」
オオツジがちらりとオカ司令官を見やった。
「おい、オオツジ!司令官にその態度は何だ。少しは礼儀をわきまえろ」
技術部技官のヤマグチがオオツジをにらみつける。オカ司令官がそれを制した。
「まあまあ、いいじゃろう。とにかくこれで第一関門突破というわけじゃ。ヤマグチ技官、準備を」
「了解しました」
ヤマグチはまだオオツジをにらんでいたが、部屋の中央に置かれた機械に向き直った。楕円形の大きなカプセルを二つ取り出し、機械に据えつける。カプセルは半透明。片方の中では何やら丸っこいものが動いている。
「さあ、ニコ。出番だぞ」
「わかったヨ。ニコ、パパアのために頑張るからネーッ!」
「その呼び方はここではやめなさいって言ってるだろう?できるだけスピカと速度を合わせるようにな」
ヤマグチは慎重にカプセルの状態を確認した後、機械を操作した。
「目的地、平成エリア・201X年、指定区域上空。ワープ開始」
二つのカプセルが瞬時に消え去った。
「我々はメビウスの捜索に戻らせてもらいますよ。せいぜい、花びらの回収が失敗しないよう祈っています」
オオツジは他の隊員たちを引き連れ、部屋から出ていった。すれ違いざま、部屋の後ろにいた第八部隊のシバ隊長、サノ、そしてもう一人の少年に挑戦的な視線を投げつけていく。
オオツジたちが去った後、ヤマグチがあからさまに文句を言った。
「まったく。何だっていつもああ上から目線なんだ、特別部隊は。シバ、おまえは悔しくないのか」
「今、そんなことを言っても意味ないだろう。重要なのは回収任務が成功するかどうかだ。おまえたち、いよいよだぞ」
シバがサノともう一人の銀髪の少年に声をかけた。少年は黙ってうつむいたままだ。
「ハザマ?」
その少年、ハザマはわなわなと肩を震わせていた。サノとヤマグチが少年の顔をのぞき込む。
「大丈夫か。まさか、時酔いじゃないよな」
「精神的なものかもしれんぞ。やっぱり、今回の想定外の任務がプレッシャーになって」
「我慢できない。あの足立とかいう女」
「は?」
ハザマは怒っているらしかった。
「かんのわのしんぎわおうのなこくおう?要するに漢委奴国王と親魏倭王のことか?何で混ざってるんだよ。漢委奴国王は魏より前の後漢から贈られた金印の称号だろ。先生があんなに熱心に教えてくださってるのに変な覚え方なんかして。おまけに教科書やノートに復習の跡が全然なかった。歴史をなめるにもほどがある。そう思いませんか、先輩方」
その言葉に周りはガクリと拍子抜けする。シバ隊長が咳払いした。
「…では、オカ司令官。これよりサノ、ハザマ両隊員を出発させます」
「うん。弥生エリアに到着後、タイムアテンダントの足立英麻君と合流。彼女をサポートし、時の花びらの回収任務を遂行する。OKじゃな?」
「はいっ」
ハザマがぎこちなくうなずいた。
第八部隊の三人とヤマグチが出ていった後、一人残ったオカ司令官はそっと呟いた。
「大丈夫。きっとうまくいくよ」