小話:其の九拾八《希薄な望み(仮題)》
【学ぼうとしなければ失敗に価値はない】
《希薄な望み(仮題)》
とある時代の、とある国の、とある町の、とある食堂に、ふたりの男が昼食をとるため訪れていました。このふたりは古くから付き合いのある、いわゆる腐れ縁の悪友です。
「はぁ……」
まるで悲哀と一緒にウイスキーを味わうヒトのごとく手の内でお冷をころがしながら、ひとりの男がため息を漏らしました。この男は本日、とても大きな失敗をしてしまったのです。
「まあ、そんな日もあるって」
もうひとりの男は苦い笑みを浮かべつつ、相手の背を軽く叩きました。
「もしもお前がサバの味噌煮定食をおごってくれたら、少しは気が晴れるかもしれないなぁ……」
「この野郎……。ま、いいぜ。そんな不景気な顔を見せられ続けるよりは、さ。安いもんだ。まあ実際、ここのメシは格安だしな」
付き合いの浅いものならば、ともすれば「おごれ」と言われてよい気はしないかもしれません。しかしもうひとりの男は腐れ縁の仲であるからこそ、悪友が本当に参ってしまっていると正しく察せられていたので、冗談めかしながら応じられました。この悪友は普段、「おごれ」とは絶対に言わないタイプの人物なのです。
「冗談のつもりだったんだが……くれるなら、ありがたく頂戴するとしよう」
ひとりの男は弱り気味な笑みを浮かべ、手の内でころがしていたお冷を一気に飲みました。それから食堂内の隅の上部に設置されてある、先ほどから室内のBGMがごとくニュース番組をたれ流されているテレビを見やり、口を開きます。
「こんなヤツでも国の運営の最高責任者になれるんだって思ったら、なんか希望を懐いたよ」
言葉が発せられたとき、ちょうどテレビ画面の内容が切り替わってしまいました。そこには、先ほどまでのニュース番組ではなく、なにかの宣伝映像が映ってありました。“こちら”に尻を向けて「ブヒブヒ」わめいている豚の姿が、映ってありました。