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小話:其の九拾七《さいきんの(仮題)》
【船は羅針盤が示すほうへ進む】
《さいきんの(仮題)》
「まったく、なっとらんな。これだから最近の若い者は……」
初老の男性が、呆れたふうに言いました。
その前には、まだ若い男性が申し訳なさそうに立っていました。そして胸の内に“ある思い”を押し込めつつ、恥じて悔いるふうに口を開きます。
「尊敬する“あなた/あなた方/歳上の人々”の背中をよく見て行動していたつもりなのですが、まだまだ精進が足りていなかったようです。申し訳ありません」
* * *
かつて最近の若い者と言われていた初老の男性は、いま若いそのヒトを見てもどかしく思いました。まるで、昔の自分を改めて見せられているようだったからです。なので初老の男性は、かつて自分が言われてむっとしたことを、しかしいろいろなことを経験した現在だからこそ気づき思えることを、自分が現役のときに気づけなかったでことを、指摘して正したくて、その言葉を口にしました。
「これだから最近の――」