小話:其の九拾四《ぶーめらん(仮題)》
【やられてイヤなことを他者には――】
《ぶーめらん(仮題)》
そのヒトは、****なヒトが大嫌いでした。“生理的に”という言葉では言い表しきれないほどに、存在を受け付けないのです。
なのでそのヒトは、****なヒトが大嫌いであることを公言していました。****なヒトに対して一切の容赦なく、存在を否定するあらゆる言葉を投げつけました。
そして、ある日。
そのヒトはついに、****なヒトに対して、
「****ばいいのにっ!」
もっとも鋭利な刃じみた言葉を投げました。
「“あんた/あなた/お前/テメェ”なんか、****ばいいのにっ! ****ばいいのにっ!」
それを投げつけられた****なヒトは虚ろだった目を見開き、黙して“それ”を受けました。そしてそれから数拍の間を置いてから、
「わかったよ……………………ごめん」
ボソリとそう呟いて、そのヒトが投げつけた言葉を現実のものとしました。
****なヒトは、そのヒトの目の前で“生きた存在”を終了しました。
そのヒトは確かに、****なヒトが大嫌いでした。いままで投げつけた言葉はすべて、ウソ偽りない本心でした。しかし、だからといって、“生きた存在”が終わるのを目の前に見て平常でいられるような、“責任感ある徹底した非情さ”は有していませんでした。
そのヒトは、まるでそうする権利を有しているがごとくショックを受けたのです。
そのヒトは、****なヒトが大嫌いであると公言して、当たり前のように存在を否定する言葉を投げつけていましたから、それを“我関せずと他人事として認識していた周囲の人々”に非難されるようになりました。****なヒトを否定して、“生きた存在”であることを終わるまで追い詰めた“みにくい”者として。
非難としての存在を否定する言葉を投げつけられる日々を経験してそのヒトは、ある日、鏡を見て絶望感を覚えました。かつて存在を否定した****なヒトが、まるで自らであるかのような振る舞いで、その鏡の中にいたのです。
そしてそのことを認識してから後日の、ある日。かつて自らが****なヒトに投げつけたもっとも鋭利な刃じみた言葉が、まさにブーメランのごとくかえってきました。
そのヒトは虚ろだった目を見開き、黙して“それ”を受け――
「わかったよ……………………ごめん」